平成13年5月24日 博士学位授与式式辞

平成13年5月24日

 今日、京都大学博士の学位を得られました課程博士40名、論文博士20名の皆さん、まことにおめでとうございます。ご列席の各研究科長とともに、皆さんの京都大学博士の取得を心からおよろこび致します。

 さて、私は4月下旬から5月上旬にかけて、アメリカ、中国、フランスに出張いたしました。アメリカでは、米国の代表的な60余の研究中心大学が構成するアメリカ大学長会議が、その百周年を記念して、39カ国の代表的な大学の学長47名を招待し、大学が今日直面している問題、21世紀における世界の研究大学の果たすべき役割り等について語り合いました。今日、世界的に大学は変革期をむかえており、会議では、社会からの要請と大学固有の目的との間の調整、大学間の協調と競争、情報技術利用による大学の教育・研究活動、その国際的展開など、広範な問題が各国の学長によって提起され、討論されたことは大変有意義なことでありました。

 北京では、北京大学と並び立つ清華大学の創立90周年の記念式典に参列しました。またその前日に、これからの世界の研究大学のあり方についてのシンポジウムが開かれ、大いに議論をしました。記念式典には江沢民国家主席、朱鎔基首相、その他の政府要人が出席し、江沢民国家主席は、中国の幾つかの主要大学を近い将来世界で明確な地位を占める一流の研究大学にすると声高らかに宣言し、大学の発展は国力の発展につながることを説きました。これは日本の大学にとっても見過ごすことのできない重要なことであると考えます。

 フランス政府はストラスブールに日仏大学会館を開設し、5月2日に研究大臣を迎えてその開所式を行うとともに、日仏高等教育シンポジウムを行いました。今日、フランスは日本に対して熱い眼差しをそそいでおり、新しい時代における大学のあり方、大学の管理運営、産学協同のあり方、公的支援の現状等についての情報交換を行うとともに、日仏間の大学協力をいかに進めてゆくかを真剣に考えています。特に学部学生の相互交流、さらには博士課程の学生を相手国に派遣して研究させるための枠組の検討など、多くの提案をして来ております。

 こういった一連の訪問を通じて言えることは、今日どの国においても、大学を自国の学生のみならず、留学生にとっても魅力のあるものとし、研究においても国際的に一流であるよう、大学はもとより国自体が努力をしているということであります。また大学は社会からのさまざまな形の要請に答えるべく、過去の大学の組織と体質を変革しようとしており、国際的環境の中で教育を行い、国際的視野をもって活躍できるしっかりした人材を養成するべくいろいろと努力しているのであります。

 京都大学においても、以前からいろんな面でこういった方向の努力をして来ております。とりわけ21世紀社会が直面するであろう問題については、新しい研究科を幾つも作って、その解決にむけて努力をしはじめております。社会は日々変化しており、学問も日々進歩発展するとともに、新しい学問分野がどんどんと出て来ており、こういった変化に対して、大学がいかに適切に対応してゆくか、あるいは、こういったことを先取り的に取りあげて、研究し解決を与えてゆくことが出来るかどうかが、これからの大学に問われているのであります。

 一方では、大学は学問の伝統を守り、これを次の世代に継承してゆくという、いわば地味な活動もしてゆかねばなりません。また学術的成果を社会に具体的な形で還元してゆくことも強く要請されております。こういった性質の全くちがった事柄について大学がバランスのとれた舵とりをしながら進んでゆかねばならないわけであります。

 今日博士の学位を得られた皆さんは、これからそれぞれにいろんな道をたどって行かれるわけですが、どの道を取る場合も、グローバル化の中での種々の矛盾する要請、あるいは矛盾する欲求の間の調和ということを考えながら進んでゆくことが必要となるでしょう。深くまた広く物事を探求すればするほど、また多くの要素を考えれば考えるほど、その矛盾に満ちた世界をどのように包容しながら、どういった方向へ進んでゆくのが妥当であるかについて悩むことになります。しかしこれを悩みながらもこれを克服し、新しい世界を開いてゆく力を博士の学位を得られた皆さんは持っておられるはずであります。その自信をもって、皆さんそれぞれのこれからの人生を開拓していって下さることを期待し、お祝いの言葉といたします。