監事レポート06-2 「学生支援に関する監査報告」

監事レポート06-2 「学生支援に関する監査報告」

監事 : 原 潔、佐伯 照道

1. 主な監査項目

(1) 学習相談、生活相談、就職支援、課外活動等の組織的な取組状況

(2) 学生支援のための諸施設の運営状況

2. 監査の方法

(1) 平成18年7月12日に学生部長、学生課長、教務課長、センター長等担当者と現状と課題について面談した。

(2) 平成18年7月13日に高等教育研究開発推進機構長、共通教育推進課長等と面談した。

(3) 平成18年7月12日午後に課外活動施設のヨット部艇庫、カヌー部艇庫、ボート部艇庫を視察した。その他の主要な課外活動施設、吉田寮、室町寮等は前年までに視察済み

(4) 学生支援に関する既存資料の調査

3. 監査の結果

(1) 組織的な取組みの現状

ここでいう学生支援は、学習に関する相談・助言・支援、生活相談・就職相談・経済的支援の他、社会人・留学生への支援等、学生生活の充実のための組織的な支援を意味している。これらの多くは、法人化前からの全国立大学で共通した枠組の中で実施されてきているが、京都大学では、注目される活動と施策が見られる。学習相談について教職員と学生による教育交流会プロジェクトの成果として約400名の教員のオフィスアワーがデータベース化され、全学共通教育教務 情報システム上で公開されていること及び学生への経済的支援の拡充のために平成17年から授業料免除枠が3,000万円(110名分)拡大されたことである。

履修手続き案内等は、各部局の教務掛及び共通教育推進部の共通教育掛が窓口になって実施されているが、共通教育に関しては全学共通教育教務情報システムの機能拡充に伴って教務事務の大幅な合理化が実現している。課外活動の中長期的な課題への取組は、学生課学生企画グループが担当し、日常的な支援は、全学的な組織である学生センター(課外活動、奨学金、アルバイト、保険、住居等の生活相談)、キャリアサポートセンター(就職相談)、保健管理センター(健康相談)、カウンセリングセンター(悩みの相談)で機能別に組織化されて業務が行われている。各センターの利用者数は、経年的に増加している。特にキャリアサポートセンターでは、年間約3,000名を超える学生が利用しており、18年4月-6月の利用者数は前年比で倍増している。

こうした学生支援のうち厚生補導に関して全学的に協議処理する委員会として学生部委員会があり、厚生補導担当副学長と各研究科等から選出される委員によって構成されている。また、教育については全学的な協議をする場として部局長会議のもとに研究科長部会が設置され、同部会の専門的事項の諮問に応える教育制度委員会では、学部専門教育と大学院教育を検討対象としている。また、高等教育研究開発推進機構には、全学共通教育に関連して学部教育の教育体制につ いて調整・協議する場として、全学共通教育委員会が設置されている。

支援サービスを受ける立場である学生の生活実態と要望を知るために2年毎にサンプリング抽出された学生を対象に学生生活実態調査が行われ、京都大学学生白書として公表されている。学生生活の実態を示す統計的なデータと共に、実態調査における自由意見は、「本調査」、「教育体制」、「大学の施設・設備」、「大学生活全般」の各項目について多様な意見、要望が記述され、学生の生の声を知ることができるが、その中にはこれらの結果がどのように活用され学生支援業務の改善に役立てられるのかについて問うコメントが多い。また、別途京都大学生協でも毎年、学部学生を対象にした生活実態調査が実施されている。

(2) 経済的支援の現状

学生の学内雇用(アルバイト)の状況について調査が行われ、年間延べ約2,500名が雇用されているほか、京都大学生協で延べ230名が雇用されている。在学者に対する雇用者数(雇用率)は学部生で約6%、大学院生は約21%である。また、大学院生に限られるティーチングアシスタント(TA)として約2,400名、リサーチアシスタント(RA)として940名が雇用されている。在籍大学院生に対する雇用率は40%である。

奨学金受給率は、平成17年度実績では、学部生で26.7%、大学院生で45.4%、授業料免除率は学部生で4%、大学院生で修士11%、博士20%である。このように経済的支援の現状は、学部生に対する支援が大学院生に比べて低い状況にある。

(3) 身障者への対応

教育支援の一部として身体障害者への対応は、これまでスロープの設置等のハード面の対策が中心になされてきたが、聴覚障害を持つ学生へのノートテイクや四肢障害者等の日常的な支援を必要とする学生の入学に伴ってソフト面からの対応が必要なケースが生じている。

(4) 課外活動施設、学生寮等の現状

課外活動のための部室は、体育会用が49室、文化系用が52室の他、吉田南キャンパスの4号館の19教室が課外活動のために提供されている。部室のうち特に西部構内の部室は昭和20年代築で老朽化している。また、学生寮は、吉田寮(定員147名)、熊野寮(同422名)、室町寮(大学院生用19名)、女子寮(35名)とあるが、いずれも築後40年以上が経過している。

4. 監査に基づく意見

学生支援に関して、学生部、共通教育推進部、各部局で組織的な取組が行われているが、現状の取組状況について次のような課題がある。

(1) 学生支援に関する組織的目標の具体化

学生支援のための目標を支援内容ごとに計画的に設定する必要がある。特に予算を必要とする経済的支援や課外活動施設・学生寮の整備については、組織的に充実・整備する目標を定めて、それを実現するための資金を確保する必要がある。例えば学生が支払う入学金、授業料の一定割合を学生支援経費枠として資金源を確保して戦略的、計画的に整備・充実することを検討してはどうか。

(2) 学生のニーズ調査の活用

学生部や京大生協が実施している学生生活実態調査の結果に対して、その後、両者の比較検討やどのような対応がなされたのか明確ではない。厚生補導に関しては、職務分掌で見る限り学生部学生課学生企画グループが起案することになっているが、実地調査したところ学生部として3月に取りまとめた生活実態調査結果や過年度の調査に基づく具体的な検討や対応が開始されていない。また、学生部委員会委員を介して調査結果が部局へフィードバックされることになっているが、その後の対応状況は学生部で把握されていない。調査の実施者として調査結果の活用方法、対応状況、結果を公表する必要がある。

教育体制に関する要望には、部局や教職員一人一人で対応するべき事項だけでなく、全学共通教育と専門教育との関係、各学部教育間の課題、全学共通教育教務情報システムの一元化や部局図書館の相互利用の仕組み等の全学的な対応が必要な事項がある。こうした教育の仕組みに関する学生の要望や意見に対応するには、例えば、全学共通教育委員会または教育制度委員会の検討対象を拡げて、学部教育の共通した枠組みを調整・協議することが必要なのではないか。

一方で、副学長等と学生代表との情報交換会が定期的に行われ、また、総長や副学長によるキャンパスミーティングが既に12回行われて、学生の具体的な質問・要望に対してその場で回答がされていることから高く評価される。しかしながらこうした会には、出席できる学生が限られることからミーティングでの話題や要望を整理して、HP上等で具体的に公開することによって、より多くの学生と情報を共有できるようにする工夫が必要である。

(3) 教務情報システムの全学展開

全学共通教育における教務情報システム(KULASIS)は、時間割、シラバス、履修申請、休講・補講・レポート情報、成績通知、呼び出し等まで一元的に情報化されており、アンケートによれば約9割の学生が少なくとも週1回以上はアクセスしている。その多くは自宅のパソコンから利用している。利用する学生からの評価も高く、また、共通教育推進部の学生相談窓口への訪問者数が本システムの機能拡大に伴って急激に減少していることから本システムによって学生の利便性が向上していることがわかる。また、事務処理の面からも発生源入力によってペーパーレス化が進み、業務の効率化にも役立っている。

学生からは、専門科目についてもこうしたシステムが利用できることや奨学金や授業料免除等の情報提供の一元化の要望が見られる。今後、学生サービスの向上と部局における教務事務の効率化のためにKULASISをベースとして全学の教務情報システムとして、さらにはそれを含めた学生に関する情報システムとして展開することが求められる。その際、セキュリティの確保には十分配慮する必要がある。

(4) 学生用諸施設の整備計画の策定

これまでどちらかといえば教育研究施設の整備が優先されてきたために、学生寮、食堂等の福利厚生施設や課外活動施設の老朽化が進んでいる。また、かねてから要望の強い自習室等の量的整備が全般的に遅れている。これらを今後どの程度まで、どのような資金で年次的に整備するのかについて全学的に検討を進める必要がある。

(5) 学生の学内雇用の促進

学生の学内雇用は、大学院生を対象にしたTA、RAとして実施されている他、多くは謝金で支払われるアルバイトとして雇用されている。謝金で支払うアルバイト雇用のうちには研究補助、事務補助として数ヶ月以上継続的に雇用されていると見られる例が相当数ある。また、障害者学生の日常的な支援等の新たな業務も必要になってきており、こうした継続的に行う補助業務に対する学生の雇用者数を拡大すると共に、業務中の事故等に対応するためにもTA、RAと同様に 時間雇用職員(Office Assistant)として採用する制度を検討する必要がある。これには、学生部、人事部、部局事務部等の連携した対応が求められる。