監事レポート06-1「国際貢献・国際交流に関する監査報告」

監事レポート06-1「国際貢献・国際交流に関する監査報告」

監事 : 原 潔、佐伯 照道

1. 監査の主な項目

(1) 国際貢献・国際交流への組織的な取組状況

(2) 国際交流のための諸施設の運営状況

2. 監査の方法

(1) 平成18年6月13日に国際交流推進機構長、国際交流センター長、国際部長、担当課長等と現状及び課題について面談した。

(2) 平成18年6月14日に国際交流関連施設として、「きずな」、国際交流会館(修学院本館)KUINEP 用講義室、留学生相談室、留学生課、国際交流サービスオフィス等を視察した。なお国際交流会館宇治分館、黄檗分館は平成16年度に視察済みである。

(3) 国際交流に関する既存資料の調査

3. 監査の結果

(1) 現在の組織的な取組状況

本学における全学的な国際交流に関わる組織として国際交流推進機構、国際交流センター、国際部がある。

国際交流推進機構は、平成17年4月に全学的な国際交流活動に関わる企画及び実行に責任を持つ役割を担って発足し、大学の国際戦略本部として位置づけられ ている。国際交流センターは、国際交流推進機構の発足と同時に、機構を支援する組織として留学生センターから国際交流センターへ改称されて留学生のみならず研究者にもサービスを行う組織になった。両組織に関わる事務組織として、国際部(国際交流課、留学生課)及び国際交流サービスオフィスがある。国際交流推進機構の運営は、運営委員会が運営方針を定め、国際交流と国際教育プログラムの両委員会と留学生担当教員連絡会を置き全学的な視点から国際活動の企画、情報収集、国際的な大学連合への参画・対応、必要な基盤整備等を実施している。

同機構で、平成17年11月に「京都大学国際戦略」が起案され、全学の方針として策定された。その内容は、基本理念と共に、人材育成・獲得戦略と研究拠点形成戦略の二つの展開域について、それぞれ

  1. 受信型から発信型へ
  2. 相互交流と多大学間交流の拡充
  3. 特定分野交流の強化
  4. 交流基盤整備の4つの基本軸について具体的な充実する方向・内容

が示された。これに基づいて本学の国際交流活動が実施されている。

組織的な国際活動として京都大学では、AEARU(東アジア研究型大学協会)及びAPRU(環太平洋大学協会)に加盟し、その中核大学として活動してい る。具体的な交流として平成17年度には、海外から学長や大臣・大使等による21件の表敬訪問を受け、海外で2回、京都で2回の国際シンポジウムを主催した他、部局主催で多くの国際シンポジウムを開催している。その多くは、世界の研究拠点としての活動に関わるものであるが、「アジアの大学における国際活動の質の向上」をテーマに大学職員を対象にしたセミナーも開催された。

平成18年5月現在、26カ国、68大学3大学群と大学間学術交流協定を結び、部局間で243大学等と学術交流協定を結び、留学生として1,223名、外国人研究者として674名を受け入れている。一方、平成17年度に、本学学生は、1,111名が海外渡航し、年間約270名が3ヶ月以上海外に滞在しており、5,189名の教員が海外渡航し、その内182名が1ヶ月以上の出張をしている。

国際交流センターでは、9名の専任教員が中心となって留学生、外国人研究者に対する日本語・日本文化日本事情の教育、生活相談・支援を行うと共に、 KUINEP(京都大学国際教育プログラム1年間約40名)の実施責任部局としての役割を担っている。現在、受講者の要望を取り入れたKUINEPの講義方式、内容の見直しが検討されている。また日本語教育の受講者は、年間を通じて延べ745名(2004年)であり、5年前より約30%増加している。

(2) 国際交流推進機構と国際交流センターが関わる最近の主な国際交流活動状況

  1. 京都大学国際シンポジウムの海外開催(過去7回、平成18年度は2回開催の予定)
  2. 国際交流科目の開設(平成17年度中国、タイの2科目、平成18年度は中国、ベトナム、韓国の3科目を予定)
  3. 大学連合(APRU,AEARU等)への積極的な参画・活動
  4. 英文HPの充実による情報発信
  5. 国際交流サービスオフィスの開設
  6. 海外の大学運営等に関する調査(英国3大学、中国3大学、2事務所、米国1大学、1大学コンソーシアム本部)
  7. 地域における国際活動(京都市における小中学校国際理解プログラム(PICNIK))への協力等

4. 監査に基づく意見

国際交流推進機構及び国際交流センター、国際部が、京都大学の基本理念にもとづいて策定された国際戦略を全学的に実施するために、相互に協力しながら積極的に活動していることは、評価できる。しかしながら、今後、「世界に開かれた京都大学」としてさらに発展するには、組織運営上の課題と支援サービス上の課題がある。

(1) 組織運営上の課題

国際交流推進機構と国際交流センター、国際部は共に国際交流のための全学組織であるが、別組織であり、センター及び国際部が機構を支援する体制になっている。一方で、機構は、「全学的な国際交流に関わる企画及び実行に責任を持つ組織」とされているが、主体的に実施できる機能を持っていない。センターと国際部は、機構を支援する立場なので規程上は機構の行う業務の結果に対する責任が明確ではない。機構を設立する段階では、機構内にセンターを入れるかどうかについて検討がなされたが、他機構の設置形態との整合性から現在の位置づけになった経緯がある。確かに機構内に3つの全学的な委員会を包含することによって全学的な企画・調整を行うことは可能になったが、これを実施する機能は、国際交流センター及び国際部を中心とした他の部局である。そのため、機構長は、実施に関して、同センターや国際部、他部局に対してどこまで指示をすることが出来るのかという責任と権限が曖昧である。国際戦略を具体化し、実施するためにも、また、国際交流に関わるリスクが顕在化した時に、責任のある対応をするためにも、機構内に国際交流センターと国際部を含む実施機能を持つことが必要ではないだろうか。また海外から見たときに、国際交流窓口が複数あるかのごとく見えるのではないだろうか。

平成17年度の監事監査に関する報告でも指摘したように国際交流推進機構について、発足1年余の運営経験を踏まえて、その設置目的に沿う活動をするために組織の見直し・再編を検討する必要がある。

(2) 支援サービス上の課題

留学生や外国人研究者への支援として相談制度、宿舎の提供、奨学金制度等がある。これらの支援について旧国立大学当時からの制度、仕組みが継承されているが、京都大学独自の支援サービスの仕組みの構築を含めて、以下の諸点について、そのあり方を再検討・見直しをする必要がある。

  1. 宿舎の整備について
    留学生、研究者用宿舎は、国際交流会館(3カ所)として277戸あるが、入居希望者数から見ると極めて不足しており、学生寮にも日本人学生と混住して142名が入居している現状である(学生寮定員の約23%)。国際交流会館の宿舎は、学生寮に比べると良好な居住環境であるが、修学院本館のように築後20年余を経て、配水管、居室の内装、家具等が経年劣化している状況にあり、維持管理に相当の経費を必要とすると考えられる。これまで、留学生対策が、宿舎の例のように留学生専用に実施されてきたが、今後、留学生、研究者用の宿舎のみならず、これまでも指摘してきた学生寮、教職員宿舎等の厚生施設を含め 、大学として量的にも質的にも、どの程度まで、どのように整備するのか基本方針を早急に検討し、策定する必要がある。
  2. 経済支援について
    本学に在籍する留学生の内、約80%が何らかの公的機関・民間からの奨学金または本学からの授業料免除等の経済的支援を受けている。この比率は、高いけれども支援される金額には、国費留学生(全留学生の約40%)と授業料免除(半額、全額)を受ける学生(私費留学生の約40%)とでは相当な額の違いがある。経済的支援は留学生に限らないが、特に留学生を対象にした学内雇用の促進、例えば、事前の十分な能力判定をすることを前提に、授業料免除と連動したTAやRA制度を導入することも考えられる。今後は、優秀な留学生を世界から迎えるためには京都大学独自の奨学生・留学生支援制度を構築する必要がある。
  3. チューター制度の見直し
    教育・生活支援の一つとしてチューター制度があるが、運用は、留学生の在籍する部局にその必要性の有無も含めて委託されている。留学生から見れば、日本人学生と直接、接することのできる機会でもあるので、チューターが行う支援の仕方等について国際交流推進機構等が全学的研修やガイダンス等を定期的に実施することが必要なのではないか。
  4. 留学生等へのアンケート調査結果の有効活用
    京都大学では、2001年に在籍中及び過去に在籍した留学生及び外国人研究者、交流協定を締結している大学等へアンケートを実施し、それにもとづき国際交流について自己・点検評価を行っている。また、国際交流センターでは、国際交流と留学生教育及び留学生支援制度について2002年と2005年に留学生、日本人学生、チューター、留学経験者、教員を対象にしたアンケートを実施している。これらの調査報告書には、留学生支援体制について生活支援のみならず、サポート体制のネットワーク化、指導教員やチューターとの関係のあり方、また本学学生への留学支援体制の改善等について多くの具体的な課題や提案がある。京都大学国際戦略を実現する観点から、全学的な課題として年次計画を策定し、積極的に解決されていくことが期待される。