学術研究の推進に向けた取り組み(平成20年4月3日)

学術研究の推進に向けた取り組み(平成20年4月3日)

平成20年4月3日

京都大学 研究推進部 研究推進課

  国の厳しい財政事情を背景に、国立大学法人への運営費交付金は年々減額されている。しかも国立大学法人の収入のほとんどは、人件費、教育研究等経費 (法人化以前の校費に当たる)、診療経費などの経常的経費として支出されており、大学として新たな戦略的研究を推進するための事業等を開始しようとしても、これらの経費を減額して新規事業に回すことは困難である。従って、大学がこうした新規の事業を始めるためには、外部資金 (主に競争的資金) 獲得の必要性がますます高まっている。

 研究費の財源が競争的資金へシフトするに伴い、各省庁やFA(Funding Agency)が公募する競争的資金のプログラムは、近年配分金額が大型化し、プロジェクト期間も長期化する傾向にある。
 また、申請する機関の組織改革・システム改革を求めるプログラムや拠点形成を支援するプログラムが増え、これらのプログラムは、いずれも総長のリーダーシップの下に機関による申請が求められる。
  さらに、これら大型プログラムの課題採択や配分額は、外国人を含む専門分野の研究者で構成される委員会、審査会等による書面審査及びヒアリング審査という二段階審査で決定される。
  したがって、競争的資金を獲得するためには、大学としての組織的な対応が不可欠となっている。

 このような状況を踏まえ、本学では、研究担当理事の下、下記のような支援体制を構築している。

研究戦略タスクフォース

 平成17年11月に、研究担当理事の下に 「研究戦略タスクフォース」 を設置し、プログラムディレクターとして、部局長等数名に、大所高所から本学の研究戦略の方針等について議論いただいた。
  平成19年10月からは、新たに4名のプログラムディレクター (理学研究科 吉川研一教授、医学研究科 塩田浩平研究科長、工学研究科 小寺秀俊教授、地域研究統合情報センター 田中耕司センター長) に就任いただいている。

研究戦略室

 研究戦略タスクフォースの下に 「研究戦略室」 を設置し、同室のプログラムオフィサーが研究推進部研究推進課と連携しながら、研究資金を獲得するための様々なプログラムへの申請の支援を行っている。
  平成19年8月からは、医学部附属病院 清水章教授、工学研究科 杉野目道紀教授、農学研究科 入江一浩教授、人間・環境学研究科 浅野耕太教授、エネルギー理工研究所 大垣英明教授の5名体制で、科学研究費補助金、科学技術振興調整費、グローバルCOEプログラム等の申請を支援している。
  本学から「iCeMS (物質-細胞統合システム拠点)」が採択された 「世界トップレベル国際研究拠点形成促進プログラム」 においても、その申請に当たり、情報収集や申請書作成・ヒアリング審査等への助言などを行った。
  今後、人文・社会科学分野の支援体制を強化することが課題となっている。

研究企画支援室

 平成19年1月に、研究担当理事のもと 「研究企画支援室」 を設置 (室長 : 吉川潔 前エネルギー理工学研究所長) し、学術研究活動の調査・分析を取り入れることにより、外部資金獲得に向けた全学的支援体制を強化した。研究企画支援室では、本学の学術研究活動の状況等の調査・分析、科学技術関係予算等の外部資金に関する情報収集とその分析、研究推進に関する様々な支援策の策定、他大学との連携推進などの活動を行っている。

 上記支援体制において支援したプログラム等は、以下のとおりである。

科学研究費補助金

 本学の平成18年度の交付決定件数は2,966件、金額は約133億円 (平成17年度の交付決定件数は2,842件、金額は約135億円) であった。 (金額は間接経費を含む決算額)
  ヒアリング審査が行われる種目 (若手研究(S)、基盤研究(S)) については、研究戦略室及び研究企画支援室による学内模擬ヒアリングを実施し、ヒアリング審査への対応についてアドバイスを行っている。

科学技術振興調整費

 本学の平成19年度の新規採択課題は、下記のとおりである。

先端融合領域イノベーション創出拠点の形成
 ・次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 (医学研究科)
アジア科学技術協力の戦略的推進
 ・東南アジア地域の気象災害軽減国際共同研究 (理学研究科)
 ・日中越共同環境汚染防止の評価技術開発研究 (医学研究科)
重要政策課題への機動的対応の推進
 ・意識の先端的脳科学がもたらす倫理的・社会的・宗教的影響の調査研究 (医学部附属病院)

 研究戦略室及び研究企画支援室による情報収集・提供、申請へのアドバイス、学内模擬ヒアリング等を実施している。

グローバルCOEプログラム

 平成19年度は、本学から下記の6拠点が採択された。

生命科学
 ・生物の多様性と進化研究のための拠点形成-ゲノムから生態系まで-
化学、材料科学
 ・物質科学の新基盤構築と次世代育成国際拠点
情報、電気、電子
 ・知識循環社会のための情報学教育研究拠点
 ・光・電子理工学の教育研究拠点形成
人文科学
 ・心が活きる教育のための国際的拠点
学際、複合、新領域
 ・生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点

 同プログラムの公募開始は12月からであるが、研究戦略タスクフォース、研究戦略室及び研究企画支援室により、8月から、申請の意向調査、申請予定拠点との打合せ、情報収集・提供、本学として申請する拠点の調整、申請に当たってのアドバイス、学内模擬ヒアリング等を実施した。
  また、平成20年度は、本学から15件の申請を行い、現在、10件のヒアリング審査が実施中である。

世界トップレベル国際研究拠点形成促進プログラム

  同プログラムは、高いレベルの研究者を中核とする世界トップレベル研究拠点の形成を目指す構想に対し、国が集中的な支援を行い、システム改革の導入等、自主的な取組を促すことにより、研究水準の一層の向上を図るとともに、世界第一線の研究者が自主的に参入を希望してくるような、優れた研究環境と極めて高い研究水準を誇る 「目に見える拠点」 を形成することが目的で、平成19年5月に公募が実施された。
  本学からは、 「物質―細胞統合システム拠点(iCeMS)」 (拠点長 : 中辻憲夫) が採択された。
  申請に当たっては、研究戦略タスクフォース、研究戦略室及び研究企画支援室により、申請の意向調査、申請予定拠点との打合せ、情報収集・提供、申請に当たってのアドバイス、学内模擬ヒアリング等を実施した。また、同プログラムは、大学の組織・システム改革等を求められるため、関係事務部局との連絡調整を行うとともに、拠点事務組織の構築に対する支援等を行った。

  以上の競争的資金の獲得以外にも、本学の研究支援組織は、以下のような様々な研究支援を実施している。

iPS細胞研究推進体制の整備

  平成19年11月、本学の山中伸弥教授らのチームは、世界で初めて、成人の皮膚などの体細胞から様々な細胞に分化する能力を持つiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功したという論文を発表した。
  iPS細胞研究については、平成18年8月に同じ山中教授らのチームがマウスの体細胞からの樹立に成功して以来、ヒト細胞での樹立に向けて国際的な競争が行われてきており、今後も多様な発展が期待される。
  国からも様々な支援策が示されているが、本学においても、iPS細胞研究推進体制を整備しているところである。
  本年1月22日に、昨年10月に採択された WPI (世界トップレベル研究拠点) の一部を発展させた形で、iPS細胞研究センター(CiRA)を設置した。このセンターを中心として、iPS細胞の作製技術の開発から臨床応用までを念頭に置いた統合的な研究体制を作り、国内外に開かれた拠点を形成するため現在組織の整備が進められている。
  このセンターは、センター長山中教授、2名の副センター長、中畑教授 (医学研究科) 及び戸口田教授 (再生医学研究所) とともに、iCeMs、再生医学研究所、医学研究科、大阪大学医学研究科のメンバーから成る運営委員会が運営方針を決定するとともに、国内外の幹細胞の研究者から成る Advisory Board の助言を受けて研究を進めていく体制をとる。
  このセンター及び体制により、iPS細胞の基礎研究から分化誘導、臨床応用までのすべての研究段階、及び知的財産、医療倫理まで含めたiPS細胞研究を推進するために必要なすべてのことを実施し、将来的には、京都大学附属病院等において、iPS細胞による再生医療の実現化を目指す。
  さらに、現在、再生医科学研究所が全国共同利用施設化に向けて手続きを進めており、全国共同利用施設化後は、再生医科学研究所を窓口にして、国内の大学や研究機関、国外の研究機関と研究スペースの共用、iPS細胞を中心とした資料の提供、iPS細胞の誘導法である培養法等の技術の指導、提供を行う予定である。
  iPS細胞研究センターは、すでに、本学以外の大学・研究機関に属する研究者にマウスiPS細胞及びヒトiPS細胞を配布し、iPS細胞に関する研究の普及に努めている。またiPS細胞の培養法、誘導法に関する技術指導も行っている。
  さらに、公的バイオリソース機関 (理化学研究所) と共同で、マウスから作成したiPS細胞の国内外研究者への提供を行う事業を開始した。ヒトiPS細胞の提供も行う予定である。

  iPS細胞研究の推進に当たっては、知的財産の管理が非常に重要になる。
  本学がすでに所有する知的財産については、産官学連携本部・産官学連携センターに 「iPS細胞研究知財支援特別分野」 を設置し、本学のiPS細胞研究に関わる知的財産の取得・管理・活用に向けた体制を強化している。体制の強化に当たっては、当該分野及び知的財産に係る専門知識、ライセンス等の交渉能力を有する専門人材を確保するとともに、学内外の知財専門家や強力な弁理士等からなるアドバイザリー委員会を設置して知的財産の適切な確保に向けた取り組みを行う。
  また、今後、他大学・研究機関との連携により生まれる知的財産については、iPS細胞研究センターの中に、 「iPS細胞知的財産情報管理オフィス」 を設置し、産学連携本部と連携しながら、知的財産情報管理を行う。

他大学等との連携協力協定

  本学は、様々な大学・機関と連携協力協定を締結しているが、慶應義塾大学及び立命館大学との協定締結に当たっては、研究企画支援室を中心に事前交渉、連絡調整、連携内容策定などを行い、広報室と共同で報道機関対応等を行った。

若手研究者支援

  若手研究者を支援するため、学内経費により、下記の研究費を措置している。学内で公募し、研究戦略室の審査により採否を決定している。

京都大学若手研究者スタートアップ研究費

  本学に採用されたばかりの若手研究者や、競争的資金の制度上 (申請時期等) の問題から研究費の獲得ができなかった研究者などを対象として、今後の競争的資金の獲得に結びつく研究として取り組めるような研究のスタートアップを研究費の面から支援する。

京都大学若手研究者ステップアップ研究費

  研究キャリアを積んだ若手研究者の意欲的な活動を支援するため、比較的大型の研究費 (科学研究費補助金 若手研究A又は若手研究S/基盤研究S/基盤研究Aを対象) の獲得へつながるよう、研究のステップアップを研究費の面から支援する。

 また、平成19年4月及び平成20年3月に、 「若手研究者支援制度に関する説明会」 を、吉田キャンパス及び桂キャンパスで開催した。同説明会は、日本学術振興会から講師を招き、日本学術振興会が実施する若手研究者支援制度 (特別研究員制度及び若手研究者を対象とする科学研究費補助金) について説明を行うとともに、日本学術振興会の学術システム研究センターにおいて主任研究員を勤めている本学の教員から申請に当たってのアドバイスを行った。

女性研究者支援

  本学における女性研究者の活躍を促進するため、平成18年度に採択された科学技術振興調整費 「女性研究者支援モデル育成事業」 及び学内経費により、平成18年9月に 「女性研究者支援センター」 を設置し、支援を行っている。
  女性研究者支援センターでは、1 広報事業として、シンポジウム・セミナー企画、広報誌の発刊、 2 相談事業として、京都市からのカウンセラー派遣による女性の悩み相談窓口、メンター制度、3 育児介護支援事業として、病児保育室の設置、保育園待機乳児のための保育室設置、4 病児保育事業として、病児保育室の運営、 5 就労形態検討事業として、出産・育児・介護時の研究・実験補助者による支援、6 地域連携事業として、京都府、京都市との連携による、小・中・高各学校への出前講義、女子高生車座フォーラム等を実施している。
  科学技術振興調整費による支援期間終了後も、関連する各組織の協力や大学から財政的支援を得て、全学的、継続的に取り組むことが必要である。

公的研究費の管理・監査のガイドラインに基づく体制整備

  平成19年2月に文部科学省から 「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」 が示された。これを受けて、本学は、平成19年10月29日付けで 「国立大学法人京都大学における競争的資金等の適正管理に関する規程」 を定めるとともに、 「不正防止計画推進室」 を設置して、様々な不正使用の防止策を展開していくこととしている。
  平成20年4月には、研究推進課に、不正防止計画案の作成、競争的資金等の運営管理の実態把握、研究室等の現場の処理の実態把握等の実務を行う部署 「研究経理企画調査室」 を設置し、実効性のある体制を整備した。

今後の課題

 本学は、以上のような研究支援体制を構築し、様々な研究支援を実施しているが、今後、若手研究者の支援の充実やコア (中堅) ・ シニア研究者の支援など、さらに支援を充実していくことが必要で、研究支援体制の一層の強化が必要である。そのためには、米国では既に一般的な、研究支援を専門に行う職員を育成・配置するなど、恒久的な研究支援組織を早急に構築することが不可欠であると考える。