教育・研究の推進

教育・研究の推進

地域に密着して、対象物に接近していくことで、現象を解明

大学院アジア・アフリカ 地域研究研究科 平松 幸三 研究科長

 当研究科は、東南アジア地域及びアフリカ地域、両地域に連接するヒンドゥー・イスラーム両世界を対象とし、地域研究・教育を進めています。その研究は多岐にわたりますが、共通するのは「地域研究」として、地域に密着して現象を解明してゆこうという研究スタイルです。例えば、タイの空港新設に伴う音環境の変化、ベトナムの少数民族政策、南インドの文化、アフリカの焼き畑農耕民社会など、例を挙げるときりがありません。それだけ広範囲で多様な場所に教員や院生が入り、個性的な文化とふれあいながら研究を展開しています。私は、研究姿勢そのものが環境研究への問題提起かもしれないと考えています。つまり、地域に密着して調査・研究することによって、その地域・相手の発想で理解しようとする。そこには既存の物の見方、極端にいうと国境も存在していないからです。さらに言うと、無限に対象物と距離をおく科学の物の見方と反対に、対象物に近接してゆくことで「知のあり方」を模索しているのかもしれません。

遺伝・疫学・環境的要因の3つを包括して捉える

大学院医学研究科・医学部 小泉 昭夫 教授

 社会健康医学系専攻は、2000年4月に日本で初めて京都大学で誕生しました。全学共通科目としては、環境汚染と健康の関係をテーマに「中毒学入門」を開講しています。専門職学位課程の学生には「環境科学」(必須)で環境問題を概説し、化学要因に焦点をあてたリスクアセスメントについて講義しています。医学部学生の「公衆衛生学」(必須)の中では、産業衛生分野の問題を取り上げています。また、当研究科では、ライフサイエンスにかかわる者として、遺伝的要因・疫学的要因・環境的要因の3つを包括して捉えることに重点をおいています。それは、学生たちに学際的な医学の視点を身につけてほしいと考えているからです。京都大学には環境に関する多くの研究科・学部・学科があり、専門家がいます。今後は分野の垣根を越え相互に連携し、現代的課題の解決に対応していく必要があると思います。

自然環境と人間社会の調和を図り、エネルギー持続型社会を目指す

大学院エネルギー科学研究科 八尾 健 研究科長

 エネルギー科学研究科は、エネルギー持続型社会形成をめざして、理工系に人文社会系の視点を取り込みつつ学際領域としてエネルギー科学の学理の確立をはかり、地球社会の調和ある共存に寄与する国際的視野と高度の専門能力をもつ人材を育成することを理念としています。そして、人類の生存にかかわる様々なエネルギー・環境問題に対して、幅広い国際性と深い専門性をもって社会の要請に応えるとともに、自然環境と人間社会との調和を図りながら、創造性と活力にあふれる21世紀社会をリードする若手研究者の育成に努めています。将来を担う若い世代の学生たちには、大量の情報があふれている中で、一時の流行に流されることなく自ら判断する能力を養い、教科書にないことを探し、絶えず学習し、社会に対して広い視野を持ってもらいたいと思います。

「環境」に対する倫理の育成は、重要な教育的課題

大学院教育学研究科・教育学部 川崎 良孝 研究科長

 多くの教育課題の中で、とりわけ「環境」「生命」「情報」それぞれの倫理の育成が今後ますます重要になると、私は考えます。現在、自然環境に注目した取り組みの一つとして、京都府相楽郡をフィールドとするプロジェクトがあります。これは、教員・学生・住民が一緒になって、地域にかかわるあらゆる問題を考え、解決のための理論と実践を融合させて、新しい教育空間を創出するための研究プロジェクトです。この活動を通じて、自然環境と人間の調和的な関係のあり方について学び、それにふさわしい教育のあり方について考えています。当研究科では、環境先進国であるドイツの環境教育を研究した院生がいます。また、教職科目である「教職総合演習」で環境問題をテーマに調査から体験的に学ぶ学生もいます。これらの先輩たちに続いて、多くの学生たちに環境と人間と社会との調和ある共存について学び考えてほしいと思います。

作品1

環境経済学には、経済学のパラダイムを変革する力が必要

大学院経済学研究科・ 経済学部 諸富 徹 助教授

 経済学部・研究科では、環境経済学の講義とゼミを開講しています。1回生向けには共通講義でリレー講義を行い、経済学からの環境へのアプローチに関心を持ってもらえるようにしています。また、研究科においては大学院生が環境経済学や環境政策論をテーマに研究を進めています。毎年、意欲のある学生が入ってきており、京大の経済研究科の中でも最大領域の一つとなっています。現在、社会における環境問題の位置づけが大きくなり、経済学の理論や経済システムが上手く機能すれば良いというものではなくなりました。これからは、環境を考慮しない従来の経済学のパラダイムを批判し、それ自体を変えていく力が「環境経済学」に求められています。その上に、さまざまな場所にある「環境経済学」が相互にネットワークを結び、教育・研究を進めていくことが理想的と考えます。私が今の学生たちに期待することは、経済学を勉強し、経済成長や企業の成長メカニズムを学び、それらの過程においてなぜ環境破壊が起きるのかを知ってもらいたい。そして、環境と経済の関係を理解し、市場メカニズムを生かしつつ、環境問題を防ぐためには何をすべきかを考えてほしいと思います。

環境問題には、常に本質及び必要性を検証する工学的視点を

大学院工学研究科・工学部 西本 清一 研究科長

 工学の歴史を辿ると、20世紀は19世紀末にほぼ確立された自然科学の知識を基にして、暮らしの利便性向上のために様々な研究分野を発達させてきたといえます。しかし、21世紀に入り、利便性の追求に加えて自然環境保全などの課題との両立が求められ、高度な新技術開発研究が行われるようになりました。この変化はこれまでの工学とはまったく異なる不連続な変化であり、取り組む者は異次元に飛び込むくらいの覚悟と時代の流れの節目を見抜く大きな視点が必要になります。学問分野の成熟により、個別の問題の深追いになりがちであるからこそ、これからは複合的・複眼的な思考回路を持たなければなりません。現在、環境工学などの複合的な研究が重要な学問分野となっています。環境問題に取り組む際には、本質や必要性を常に検証する工学的な視点を忘れてはいけないと考えています。

環境問題をはじめ、社会から求められる情報システムを開発

大学院情報学研究科 富田 眞治 研究科長

 これからの情報化社会を見据え、情報科学や情報工学ではない、情報学という学問を新たに確立することを目的に当研究科が設置されました。現在、社会とのつながりを意識したさまざまな取り組みが始まっており、環境分野への応用としては、小学生を対象とした野外観察活動支援システムに関する研究、リモートセンシングによる資源や環境情報の把握分析、海がめやジュゴンなどの絶滅危惧種の生態に関する研究などを実施しています。また、当研究科ではグローバルな舞台で活躍できる人材育成のため、特にコミュニケーション能力の向上に重きを置いたプログラムを用意し、国際会議への参加も推進しています。情報学分野では数学的な解析能力に加えて幅広く社会を見る目が必要です。そのためには、普段から様々な分野の本を読み、講義においてもたくさんのことを学び、ぜひ学生から積極的に要望を出してほしいと考えています。

生命現象を理解する基礎的学問は、環境問題へも貢献

大学院生命科学研究科 西田 栄介 研究科長

 生命科学とは遺伝子・分子・細胞のレベルを基本とし、「生命(いのち)」を科学する学問です。環境にかかわる具体的研究としては、光合成機能の増大によるCO2固定能力の増大、環境ストレス耐性機能の増強による植物生産能の増大、低施肥により生育可能な作物の育成など、植物の生産機能の開発を介した環境保全や環境浄化の研究を行っています。教育面では、環境問題の解決に貢献するための技術・学問基盤を提供し、問題解決・政策決定に貢献する能力を学生たちに修得してもらうことをめざしています。今後の方向性としては、真に持続的な社会形成のための持続的生産体系の創造の基盤となる学問領域の構築において先導的な役割を果たすこと。その領域に特出した人材を育成することを目標とします。環境問題の解決には、高い志と情熱・幅広い見識とタフさが必要です。積極的な学生の参加により、新しい学問体系が構築され、世界的に波及していくことを期待しています。

作品2

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