地球温暖化防止に向けて

地球温暖化防止に向けて

 2005年2月16日、地球温暖化防止に向けた約束事である「京都議定書」が発効しました。京都大学には地球温暖化問題や京都議定書にかかわって活躍する教職員・学生・卒業生などが多数おり、今後も地域や国際社会への貢献が期待されます。ここでは、研究や活動分野で活躍する方々の意見を紹介するとともに、京都大学における温室効果ガス排出量の実態について報告します。

京都議定書関連インタビュー

市民・NPOの力が国際的なムーヴメントを

NPO法人 気候ネットワーク 浅岡 美恵 代表

 私は1972年に弁護士となり、薬害事件や水俣病問題などにかかわってきました。そのときに感じたことは、十分な知見・情報があれば起こらなかったであろう深刻な問題が次々と起こっているということです。日本の司法では、水俣病のように具体的な健康被害が起きてからでないと裁判はほとんど機能しません。環境問題も、人に影響が現れてから動きだすようでは遅すぎるのです。そこで、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されるよう日本の市民が積極的な活動をしていくことを目的に、気候フォーラムを設立しました。始めは手探りでしたが、地球温暖化問題は市民レベルでもグローバルな対応がとれるという利点から、世界のNPOの方々と協働することによって私たちの活動は大きく成長しています。京都大学が地球温暖化対策についてどのような姿勢で取り組むべきか、についてですが、大学の特徴を正確に捉え特徴に合わせた改善策をとることが重要と考えます。建物の構造や設備を踏まえた省エネ、教室や研究室での具体的な省エネ・省資源への取り組みなど幅広い活動がカギを握るでしょう。そのためにも、自動的に削減をもたらすようなシステムを導入することや個人の自発的な行動を促すための環境教育に取り組んでいくことが求められます。

環境経済学で環境問題の構造と解決の糸口を明らかにする

経済学研究科・地球環境学堂 植田 和弘 教授

 環境問題の解決における経済学の役割は、大局的な視点から見ると2つあります。一つは経済科学として環境問題の原因となる経済の動きを正確に把握すること。二つめは「社会の医者」として社会の病理を診断し、それらを環境効果や効率・公平性の点から評価してどの手法が適切であるかを示唆することです。地球温暖化対策に対する考え方も、受け身の“対策”では不十分であり、経済構造全体の改革につながるような環境経済“戦略”を創出していくことが必要と考えます。そして、地球温暖化対策が貧困撲滅に及ぼす影響も考慮するというように全体を見ていくことが大切であり、特に都市のような狭い範囲では全体を含む「サステイナブル・シティ(コミュニティ)」の観点から見ていかなければならないと思います。私は学生たちに、経済学をしっかりと勉強し、すべての活動に通じる基本として環境のことを理解してほしいと思います。そして、環境経済学という学問を学び、地球共通の課題解決の貢献につなげてほしいと考えています。

グローバルアーキテクチャーと環境価値の創造

工学研究科特命教員 竹内 佐和子 外務省参与・大使

 現在、京都議定書/気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の取り決めが、欧州連合(EU)を中心に出来上がり、排出権取引のガイドライン、排出量の測定単位、報告義務などが欧州ルールによって決められ、強制力の範囲は主に欧州諸国とロシア・日本に及びます。ところが、特に途上国に対してはクリーン開発メカニズムという限定的な評価メカニズムがあるだけです。そのため議論はすでにポスト京都議定書へと移り、グローバルな枠組みを作ることが必要となっています。これからは、中国・インドなどのアジアの主要国の削減義務のあり方や効率目標の立て方に工夫をし、地域性を考慮した基準の設定や地域フレームを開発することが大切となってきます。また、現在のように「知」がネットワーク化された時代においては、環境汚染に関する情報やデータなどの「知」のストックがどこに蓄積されていくのかということが重要です。「知」の拠点としての役割がある大学には、それらをダイナミックに動かす仕組みを開発することが求められます。学生の皆さんは、もっと世界の現場で起きていることに関心を持ち、世界的に活躍できる人材をめざしてください。そのためには、私も応援したいと思います。

地球温暖化をシュミレートする

工学研究科 松岡 譲 教授

 私は、環境統合評価モデル論を専門とし、地球温暖化問題、特に地球温暖化モデルの開発に取り組んでおりました。現在でも大気環境やエネルギーに関する問題を中心に地球環境や地域環境にかかわる問題を取り上げて、工学的かつ経済学的アプローチを同時並行的に行い、関連情報の整理や関連事象の数理モデル化、定量的な検討解析、将来推計、対策の立案やその効果の評価などに関する研究を行っています。地球温暖化をはじめ、環境問題は科学的に怪しいところをたくさん持っています。その怪しいところについて質問を受ければ、説明することが大学の研究者の役割だと思っています。しかし、その情報を受け取ったとき、政策決定者や一般の方々がどのように反応するのか、メッセージをどう受け止めるかはまた別の問題です。研究者としては、冷静に情報を発信していきたいと思います。

作品1

京都議定書について

 気候変動枠組み条約は基本的方針を示す枠組み条約であり、締約国ごとの具体的かつ法的に拘束力のある温室効果ガスの削減目標を設定していなかった。そのため1997年12月に開催された第三回締約国会議(COP3)において新たに京都議定書が採択され、2005年2月に発効した。

 議定書は先進締約国に対し、第一約束期間(2008-2012年)における温室効果ガスの排出量を、1990年の水準から一定量抑制・削減することを求めている。例えば、日本は-6%、米国は-7%、EUは-8%のように国毎に差異化された目標が設定されている。また、森林が二酸化炭素を吸収することを配慮して、各国の目標達成においてその吸収量を利用することを認めている。さらに議定書は、削減費用を最小化するための経済的手法として、排出量取引やクリーン開発メカニズム(CDM)などの「京都メカニズム」と呼ばれる措置を採用している。ただ、京都議定書に規定された排出削減・抑制目標を達成するだけでは気候変動の悪影響を最小限に抑えるのに不十分であるため、今後さらなる国際的取り組みが求められている。また、世界最大の排出国である米国が参加していないなど、気候変動問題の解決に向けた課題は少なくない。

京都府地球温暖化対策条例

 京都府は、府内の地球温暖化対策を推進することを目的として2005年12月に「京都府地球温暖化対策条例」を制定し、2006年4月に施行した。この条例は、13のアクションを提示するとともに、2010年までに1990年度から温室効果ガスの排出量を10%削減することを目標としている。

京都市地球温暖化対策条例

 京都市は、市内の地球温暖化対策を推進することを目的として2004年11月に「京都市地球温暖化対策条例」を公布し、2005年4月に施行した。この条例は、2010年までに1990年度からCO2排出量を10%削減することを目標としている。

 事業者に対しては、1年間の温室効果ガス排出量が一定以上になる場合、定期的に排出量の削減計画や達成状況の報告書を提出するよう義務付けており、この義務を怠った場合には事業者名を公表するという制度を採用している。

COLUMN

京都大学からの二酸化炭素(CO2)の排出

年間排出量は、2005年度で132,000,000kg-CO2/年

一人あたりでは、3,900kg-CO2/年であり、家庭生活における 一人あたり平均排出量(1,300 kg)の3倍に相当!

京都大学からの二酸化炭素排出量(2002~2005年度)

 京都大学からのCO2の排出量は、2002年度から増加傾向が続いていることがわかります。これは、吉田及び桂キャンパスの規模拡大(床面積増加)が影響しているものと考えられます。

 今後は、京都議定書発効の地に根をはる大学としても、学内の排出源などについて調査・解析を進めると同時に、削減目標及び削減策を検討・設計し、実行に移すことが急務と考えられます。また、地域/国際社会とも連携を図りながら、京都議定書の目標達成やその後の展開に資する取り組みを進めることが重要と考えられます。

※京都大学における温室効果ガスの排出源としては、教育・研究・医療活動における照明、OA機器、実験機器、冷暖房機等の利用、物品利用、キャンパス工事、構成員の移動(交通)等に伴うものが考えられます。そのうち、現在把握できているのは、キャンパス内におけるエネルギー利用及び焼却炉(実験廃液及び医療系廃棄物処理用)利用に伴うCO2排出量です。

※京都議定書における削減約束の対象物質は、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン、PFC)、六価フッ化硫黄ですが、エネルギー消費に起因するCO2の寄与が大きいと考えられるため、今回は、CO2のみを対象としています。

「地球温暖化防止に向けて」のより詳しい情報は

作品2