座談会

総長×環境安全保健機構長×学生 座談会

一人でも多くの学内の方と。Think globally, Act locally in the campus of Kyoto University

今回が初めてとなる「京都大学環境報告書」の作成にあたっては、学生のみなさんも活躍してくれました。そして2006年4月26日、尾池和夫総長と大嶌幸一郎環境安全保健機構長、ステークホルダー委員の学生たちとの座談会が行われました。その内容は、京都大学キャンパス内から地球環境問題まで多岐にわたりました。

京都大学における環境問題への取り組みの歴史的な流れについて

京都大学総長 尾池 和夫

尾池 社会における環境問題は、公害問題から地球環境へと時代とともに変わってきました。京都大学においても、キャンパス内の公害問題の歴史があり、そして今や地球環境のことまで考えようという動きになっています。持続可能性という言葉がよく使われますね。流行りすぎているくらいに。

大嶌 京都大学における環境管理に関する最近の本格的な取り組みは、桂キャンパス(工学研究科)移転計画・構想の頃から始まったと思います。建物の造りから植栽、景観まで、どのように環境配慮型の設計にするか、キャンパスの構成要素ごとに、かなり意識して立案したものです。それと同じころ、全学的な組織(環境保全委員会)において「京都大学環境憲章」の検討作業が進められ、2004年2月に制定されました。

佐藤 ずばり、京都大学環境憲章の達成度は?

大嶌 客観的に見て、60%くらいでしょうか・・・。当憲章は、大学のHPにも掲載され、普及を目指してはいますが、まだ学内における認知度は高いとはいえません。大学の全構成員に浸透させるにはどうしたらよいでしょうか。逆に、こちらが、みなさんにお聞きしたいですね(笑)。

竹井 普及用には、文章が長すぎるので、似たような表現を削ってもっと簡潔で、わかりやすいものにしたほうがよいと思います。総長のご意見は?

尾池 読んでみましょうか…私が少し気になった点は、基本理念の言葉。京都大学の「伝統によって培われた自然への倫理観」という表現は、ちょっとどうかな。本学における研究姿勢とは、自然、つまり対象をありのままに見つめ、その本質を知ること。その意味で「倫理観」という表現は少し違和感があります。ですがまあ、その過程で築かれていく倫理観というものがあるのかもしれませんね。このくらいにしておきましょうか(笑)。

大嶌 当憲章については、色々なご意見もあるでしょう。ですが、桂キャンパスの建物への入場パスとして構成員全員に配布しているセキュリティーカードの裏面に、憲章の全文を張り付けるといった取り組みもしているんですよ。吉田・宇治キャンパスにおいても、普及に力を入れなければと考えているところです。さて、京都大学の環境取り組みの流れに話を戻しますと、2005年度は環境安全保健機構の発足が大きなターニングポイントになりました。そして、アスベスト問題にも取り組みました。

尾池 アスベスト問題で、本学においてシンポジウムを開催した意義はとても大きかったのではないか、と思っています。こうした問題の解決には、まずその本質をよく知ることが大事です。研究機関である大学が、地域に向けて専門性に根ざした情報発信を行い、問題への対応・対策を模索することができた。これこそ、大学の果たすべき 役割のひとつ、社会貢献といえるでしょう。

環境報告書の意義や具体的なアイデアについて

環境安全保険機構 大嶌 幸一郎

大嶌 今回の環境報告書は、およそ3万人おられる全構成員に読んでいただきたいという意気込みで作成しており、ダイジェスト版は、全員に行きわたるように印刷します。

福井 より多くの人に手にとってもらうためには、表紙などのデザインから悩んでしまいます。表紙は公募作品ですが、ふさわしいメッセージも入っていると良いと思うのですが。

尾池 有名な“Think Globally,Act Locally”という言葉がありますね。この後に“in the campusof Kyoto University”と続けてはどうでしょうか?グローバルに物事を考えつつ、ローカルに…京都大学において実践する。さらに“Open the Window”を加えると、サイクルになりますね。

大嶌 なるほど。“Open the Window”がこの環境報告書だと捉えると、環境コミュニケーションツールとしての機能・位置づけも明確になります。そうなると、なおさら、報告書を通じて、具体的にどのような訴えかけをしていくかが重要となりますね。

竹井 学生としては、注目点です! 何か、アクションを呼びかけるものをと思います。

押川 総長カレーやビール(ホワイトナイル:早稲田大学・京都大学共同ブランド)などは、尾池総長自ら実現に動かれ、話題を呼び、好評のようですが、環境アクションについても何かアイデアを伺えませんか?その前に、まず、尾池総長が普段の生活で心がけておられることは何ですか?

尾池 無人なのに、つけっぱなしの照明のスイッチを消してまわること(笑)。

一同 ええー?!

尾池 私の役目は無駄な電気を消すことなんです。電力の消費を抑える重要性は、以前から訴えてきました。理学部のエレベーター内に、電力消費量を工夫して記載したのもその一例です。漢字ではなく、英数字で料金を書いたんですね。すると、ゼロがずっと並びます。みんなゼロの数を数えて、びっくりするのです。いかに多額か、使用量 が多いか、一目でわかるし、実感として残ります。アイデアも様々ありますよ。例えば、大学の紙の消費量は膨大ですが、必要不可欠なものでもあります。そこで、無駄な消費を抑えると同時に、不要になったものはしっかり循環させることに力を入れたいと思っています。京都大学が排出した紙で作った再生紙を「京都大学知恵故紙」と名づけ、取り組みのシンボルにするアイデアは、実現に向けて動いているところです。

大嶌 私も、全学に先駆けて、桂キャンパスで取り組んできました。成果が出ている部分もあり、手応えを感じていますが、シンボルとなるようなシンプルな取り組みの重要性を感じます。

尾池 キャッチフレーズも重要ですね。例えば「ABCプロジェクト」など、いかがでしょう?わかりやすくて、みんなで取り組めそうな感じがしませんか?具体的な問題に対するアイデアは、みなさんからも、たくさん湧いてくるでしょうから、それをわかりやすいフレーズで共有すればいい。

鷲野 アイデアではありませんが、キャンパス環境で気になる問題は、景観です。工事されて建物が整った一方、ちょっと読書したり、友人と話をしたりするための空間がなくなった気がします。

尾池 確かに、整備に伴って、緑のスペースや統一的な美しさが失われているかもしれません。開学当初からみれば、構成員の数は激増し、建物も増改築されていく過程で様々に変化してきました。計画的な整備も必要かと思いますが、敷地面積や予算構造などの制約もあって、難しいですね。ですが、現在のキャンパス環境を少しでも良くするため、「このような空間にしたい!」という絵を描くことはできるでしょう。そうすれば、実現するものに発展してゆくかもしれない。個人的には、「蛍プロジェクト」を実現したいと考えています。蛍が生息できるようなキャンパス、すばらしいと思いませんか?

竹井 わぁ! いいですね! 今、京大生協で、リターナブル弁当箱(購入時にデポジット¥600を払い、お弁当箱返却時に、返金される)を売り出していて、私も企画段階から関わっているのですが、緑や木陰が近くにあれば、より美味しく、気軽に食べられると思います。

鷲野 暁子(地球環境学堂D1)、竹井 さゆり(法学部4)、福井 和樹(工学研究科M2)、佐藤 明子(文学研究科M1)、押川 由希(地球環境学堂M2)

今後の展開について

福井 僕は、研究でも、環境問題を専攻していますので、これからの研究のあり方が気になります。社会からの要請や評価の問題など、どのように考えれば良いと思われますか?

鷲野 教育面などでも、学部・研究科でそれぞれ取り組んでおられると思いますが、全学的な動きもあり得るのでしょうか?

尾池 研究・教育は、大学の中核的役割ですから、いろいろな可能性を探らなければなりません。幸い、京都大学は、基礎からフィールドまで、理系から文系まで、またそれらの枠組みを超えたものまで、多様な研究分野を持つ総合大学ですから、様々な形で環境問題と向き合い、社会と連携してゆく資質があると思います。

座談会は和気あいあいとした雰囲気で行われました。

大嶌 環境安全保健に関する全学的業務の支援を目的に、機構も発足しています。全学的な環境教育も、その一つの重要なミッションと考えており、引き続き力を入れていきたいと考えています。

尾池 2008年度は、北京オリンピックが開催される年であると共に、地球温暖化防止に向けた京都議定書の第一約束期間の開始年です。また、京都大学においても、国立大学法人となって第二期となる目標・計画立案の最終年であり、節目の年になると思います。その2008年を意識して、京都大学でも環境問題に関する、何らかの話題提供ができればと考えています。みなさんからも広くご意見を伺いたいですね。この報告書がそのための大きなきかっけになると思っています。