京都大学やマレーシア工科大学などの国際研究チームが策定してきた、低炭素社会実現に向けた実行計画である「マレーシア・イスカンダル開発地域における2025年に向けた低炭素社会ブループリント」が、マレーシア政府による承認委員会(AIC)(注1)において、イスカンダル地域開発庁の公式な計画文書として正式に承認されました。これは、地域レベル(日本の県レベルに相当)の実際的な低炭素社会計画づくりとしてはASEAN諸国で初めての例で、アジア諸国の低炭素都市づくりのモデルケースとなることが期待されています。
低炭素社会の実現には、10年以上の長期間にわたるエネルギー、産業、商業、農業、交通など幅広い分野の活動とそれに伴う温室効果ガス排出の削減計画を、その地域の社会・経済発展計画と統合的かつ定量的に結び付け、実施していく必要があります。このような課題に対するアプローチ法として、これまで京都大学や国立環境研究所などの日本の研究機関は、定量的な社会経済シミュレーションモデルと削減技術シミュレーションモデルを主要な道具とする低炭素社会シナリオ手法を開発してきました。
「マレーシア・イスカンダル開発地域における2025年に向けた低炭素社会ブループリント」はこの手法を用い、マレーシア側との共同研究に基づいて策定されたもので、低炭素社会実現に向けた12の具体的かつ定量的な方策から構成されています。地域レベルの低炭素社会実行計画を策定したベストプラクティスとして、アジア地域のショーケースとなることが期待されています。
今回の政府承認を受け同地域では、2025年までに、現状のまま推移した場合(BaU:Business as Usual)に比べて40%の温室効果ガス削減目標を達成するための政策実施体制が整うこととなり、マレーシアの低炭素社会に向けた動きをいっそう加速することが予想されます。
「マレーシア・イスカンダル開発地域における2025年に向けた低炭素社会ブループリント」の策定は、JSTとJICAによる地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(注2)の一環(研究課題名:アジア地域の低炭素社会シナリオの開発、研究代表者:松岡譲 工学研究科教授)として行われ、日本からは京都大学、国立環境研究所、岡山大学、マレーシアからはマレーシア工科大学、イスカンダル地域開発庁、住宅地方自治省都市・地方計画局、マレーシア・グリーンテクノロジー・コーポレーションが参加しています。
なお、同ブループリントの内容は、2012年11月にカタール・ドーハで行われた気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)および京都議定書第8回締約国会合(CMP8)において報告・公表され、また、同年12月11日には、ナジブ・マレーシア首相により、マレーシア国民に向けテレビおよび新聞を通じ紹介されています。
注
注1) AIC: Approvals and Implementation Committeeの略語。マレーシア政府外局のイスカンダル地域開発庁が主催。イスカンダル経済特区に関わる公共団体の活動や戦略立案、投資をモニタリング、調整する機関。
注2) SATREPS: 地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略語。独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が連携し、地球規模課題の解決と将来の 社会実装に向けた国際共同研究を推進します。日本と開発途上国の研究者が共同で3~5年間の研究を行うプログラムであり、39カ国77のプロジェクトが採択されています。
参考URL
http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2204_malaysia.html
本研究プロジェクトでは、マレーシア経済特区・イスカンダル開発地域を対象に、発電・産業・交通・商業・家庭の各部門に関する低炭素化の技術・制度データを収集・整備して、2025年の低炭素社会像を築くためのシナリオと総合評価モデルを構築します。また、アジアの成長を象徴するイスカンダル開発地域での研究成果を発信することにより、アジア全体の低炭素社会の実現に貢献していきます。