平成24年度湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞 受賞者を発表(2012年10月23日)

平成24年度湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞 受賞者を発表(2012年10月23日)

 このたび、平成24年度(第6回)湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞の受賞者として、細道和夫 基礎物理学研究所特定准教授(グローバルCOE)を決定しました。
  おって、授賞式は、平成25年1月23日(水曜日)に基礎物理学研究所において行う予定です。

業績の題目(和文および英文)

曲がった空間上の超対称ゲージ理論の厳密解
Exact Solutions of Supersymmetric Gauge Theories on Curved Space.

業績の要旨

 細道氏は、3次元超対称ゲージ理論の解析、とくに局所化原理を用いた厳密解の構成で顕著な業績をあげており、11次元の究極理論とされるM-理論の構成要素であるM2ブレーンやM5ブレーンの理論の研究に大きく寄与している。

 その主なものとしては、まずチャーン・サイモンズゲージ場と物質場の結合する高い超対称性を持った3次元の場の理論を群論的な分類に基づいて系統的に構成した業績がある。それまで注意を払われていなかった部類の理論に先駆的に取り組んだもので、その後のM2ブレーンの理論の発展を切り拓く一つの契機となった。

 次に、歪んだ3次元球面上の超対称チャーン・サイモンズ理論に局所化の方法を適用し、歪みのパラメータを含む厳密な分配関数を与えた。このパラメータはM5ブレーン上の理論が4次元ゲージ理論と2次元リュービル理論に分解する様子を表すAGT対応に現れるパラメータに類似しており、M5ブレーン上の理論が3次元超対称ゲージ理論と3次元の双曲幾何学とに分解する状況を記述する例を与えている。さらに、細道氏は曲がった時空上の超対称性を特徴づける方程式を拡張して超対称性理論をより一般の空間上に構成する枠組みを研究した。

 細道氏は、以上のように超弦理論・M理論の進展において優れた研究業績をあげており、日本の超弦理論分野における指導的な役割を果たしている。今後も超弦理論・場の量子論の国内外での研究をリードして活躍することが期待され、木村利栄理論物理学賞にふさわしい研究者である。

受賞者略歴

2000年3月 東京大学理学系研究科博士課程修了
2000年4月 京都大学基礎物理学研究所 日本学術振興会特別研究員
2003年4月 トロント大学 ポスドクフェロー
2005年10月 フランス原子力庁サクレー研究所 ポスドクフェロー
2007年10月 韓国高等科学院(KIAS)助教授
2009年1月 京都大学基礎物理学研究所 GCOE特定准教授(現在に至る)

湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞の概要

  1. 賞創設の経緯
     旧広島大学理論物理学研究所教授であった故木村利栄博士は、平成17(2005)年12月17日に旅先で急逝されましたが、遺産の一部が浩子夫人より財団法人湯川記念財団へ寄附されました。これを木村基金として、木村博士が大きな功績を上げられた重力・時空理論、場の理論と、その周辺の基礎的な理論研究において顕著な業績を上げた研究者を顕彰するために平成19年度より「湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞」を設けました。その候補者の選考や木村基金の運用は、旧広島大学理論物理学研究所と統合した京都大学基礎物理学研究所に委託されています。
  2. 対象
     重力・時空理論、場の理論と、その周辺の基礎的な理論研究において顕著な業績を上げており、かつ、受賞以降も対象分野で中心的な役割を果たしていくことが期待される研究者。
  3. 候補者の推薦
     他薦に限る。
  4. 選考
     選考は、基礎物理学研究所運営委員会の下に組織された選考委員会が行い、年1件を運営委員会に推薦。それを受けて運営委員会が受賞者を決定。
  5. 正賞および副賞
     賞状およびメダルを授与。副賞として賞金60万円。

木村利栄(きむら としえい)博士

  • 略歴

 大正15年8月10日生まれ。昭和23年3月京都帝国大学卒業。同年4月広島大学理論物理学研究所助手に着任。その後、助教授・教授を経て平成2年3月定年退職。その間、昭和54年4月から昭和58年3月まで広島大学理論物理学研究所長。平成2年4月広島大学名誉教授。平成2年4月から平成6年3月まで広島県立大学教授。平成15年に素粒子メダル受賞。平成17年春には瑞宝中授章を受章。

  • 主な業績

 木村博士は、重力理論の分野で常に先駆的研究をされてきた。中でも、1969年の重力場中での量子異常の発見は大きな功績である。重力の量子異常は、その後、超弦理論の量子論において最も重要な性質の一つになっており、その意味でも木村博士の先駆性は明らかである。また、木村博士は1973年頃から点粒子間の多体重力ポテンシャルの研究を始められ、一般相対論による2次の補正項を初めて求められた。この業績は、現在国際的に研究が進められている重力波天文学において中心的役割を果たしている相対論的2体問題の先駆けとなった。