第3回湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞受賞者

第3回湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞受賞者

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受賞者

氏名: 早田 次郎(そうだ じろう)
所属・職名: 京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室 准教授

業績の題目(和文および英文)

「高次元重力理論における宇宙論とブラックホール」
Cosmology and black holes in higher dimensional gravity

受賞理由

 重力を含んだ力の統一理論として、超弦理論という物質の基本的構成要素がひも状のものであるとする理論が最も有力である。その超弦理論は、我々の住む空間の次元は実は3次元ではなく、9ないしは10次元という高次元の空間であることを予言している。しかし、そうした高次元空間はいまだに観測されていない。すなわち、その余分な6つないしは7つの空間次元、余剰次元は、何らかの理由で簡単には観測されないようになっていなければならない。余剰次元の存在を宇宙論的な観測で検証することは人類の夢といってよい。

 一方で、現在我々の宇宙の膨張速度が加速していることが観測されており、万有引力の法則と一見矛盾している。現在の標準的な宇宙論はこのような矛盾を解決する手段として得体のしれないダークエネルギーと呼ばれるものの存在を仮定している。しかし、高次元に拡張された重力理論を考えることによって、このダークエネルギー問題が解決できる可能性があり、その研究の重要性が益々高まっている。特に近年、ブレーン宇宙という新しいアイデアが提案された。これは、我々の宇宙が高次元空間に浮かぶ膜であるというもので、従来の世界観を覆すアイデアである。そのため、従来の宇宙論的解析手段を超えた新たな理論体系が必要とされていた。

 早田次郎氏は、余剰次元の検証を目指した基礎研究を行い、高次元重力理論に基づいたブレーン(膜)宇宙論や高次元ブラックホールに関して、数々の優れた業績を挙げている。中でも、(1)ブレーン宇宙の密度揺らぎの進化理論、(2)ブレーン上の強重力場を扱う理論、(3)回転する高次元ブラックホールの安定性解析理論、の3つの業績は、それぞれ1つのみでも本賞の対象としてよい、極めて優れた業績である。同氏は、これらの基礎的な問題に対して独自の方法を開発することで重力理論の理解の進展に対して重要な貢献を行っており、宇宙論・重力理論分野において今後も指導的役割を果たすことが十二分に期待される。