ヒト多能性幹細胞を光らせる化合物を発見

ヒト多能性幹細胞を光らせる化合物を発見

  2014年3月7日

 上杉志成 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)教授/化学研究所教授、植田和光 iCeMS教授/農学研究科教授、中辻憲夫 iCeMS設立拠点長/再生医科学研究所教授、山中伸弥 iPS細胞研究所(CiRA)所長/iCeMS教授、中内啓光 東京大学医科学研究所教授らの研究グループは、ヒト多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)と分化細胞を簡便に見分けることができる蛍光化合物を発見しました。ヒト多能性幹細胞を用いた再生医療の安全性の向上に役立つことが期待されます。

 本成果は、2014年3月6日午後12時00分(米国標準時間)に米国誌「Cell Reports」にて公開されました。

研究者からのコメント
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左から上杉教授、植田教授

 今回発見したKP-1はヒト多能性幹細胞と多種の分化細胞を染め分けることができます。欠点は、神経幹細胞を含めた神経系の細胞はKP-1で染め分けることができないことです。しかしながら、培養液中に短時間添加するだけで、細胞を固定操作することなく生細胞のままラベルすることができます。

 KP-1を用いることによって分化誘導した時に含まれる未分化のヒト幹細胞を簡単に見つけ出すことができ、より安全性の高い再生医療の実現に貢献できると期待できます。

概要

 ヒト多能性幹細胞は増殖する能力とさまざまな細胞へ分化する能力を合わせ持つ細胞です。このような能力を利用して再生医療へ応用しようとする研究が行われてきました。しかし、未分化の幹細胞が残ったまま体の中に移植すると腫瘍化するといった問題点もあります。ヒト多能性幹細胞を使った再生医療への実現のためには、未分化のヒト幹細胞と分化細胞とを明確に区別しなければなりません。

 同研究グループの平田直 iCeMS研究員らは、326個の蛍光化合物をスクリーニングした結果、ヒト幹細胞中で強く蛍光を発するが分化細胞中では蛍光が弱い化合物を見つけ出し、KP-1(Kyoto Probe1)と名付けました。このような選択性は細胞膜上に発現しているATP結合カセット(ATP Binding Cassette)タンパク質の作用によることをつきとめました。この成果により、簡便で安全性の高い再生医療の実現が期待されます。


図:(A)KP-1の構造、(B、C)KP-1を用いてフィーダー細胞上に形成しているヒトiPS細胞のコロニーを蛍光染色した写真(B:明視野像、C:蛍光像、スケールバー:300µm)、(D、G)KP-1を用いて部分的に分化したヒトiPS細胞のコロニーを蛍光染色した写真(D:明視野像、G:蛍光像、スケールバー:450µm)。外側の未分化状態にあるヒトiPS細胞で優位に蛍光染色している。(E、H)KP-1を用いてヒトES細胞のコロニーを蛍光染色した写真(E:明視野像、H:蛍光像、スケールバー:450µm)、(F、I)KP-1を用いて部分的に分化したヒトES細胞のコロニーを蛍光染色した写真(F:明視野像、I:蛍光像、スケールバー:450µm)。分化した細胞中では蛍光発光が弱くなっている。(一部、DOI: 10. 1016/j.celrep.2014.02.006より改変)

詳しい研究内容について

ヒト多能性幹細胞を光らせる化合物を発見

書誌情報

Nao Hirata, Masato Nakagawa, Yuto Fujibayashi, Kaori Yamauchi, Asako Murata, Itsunari Minami, Maiko Tomioka, Takayuki Kondo, Ting-Fang Kuo, Hiroshi Endo, Haruhisa Inoue, Shin-ichi Sato, Shin Ando, Yoshinori Kawazoe, Kazuhiro Aiba, Koh Nagata, Eihachiro Kawase, Young-Tae Chang, Hirofumi Suemori, Koji Eto, Hiromitsu Nakauchi, Shinya Yamanaka, Norio Nakatsuji*, Kazumitsu Ueda*, Motonari Uesugi*
"A Chemical Probe that Labels Human Pluripotent Stem Cells"
Cell Reports | DOI: 10. 1016/j.celrep.2014.02.006

掲載情報

  • 朝日新聞(3月7日 7面)、京都新聞(3月7日 28面)、産経新聞(3月7日 30面)、中日新聞(3月7日 3面)、日刊工業新聞(3月7日 17面)、日本経済新聞(3月11日 16面)、毎日新聞(3月7日 2面)および読売新聞(3月17日 13面)に掲載されました。