ヒトiPS細胞から血小板を安定的に大量に供給する方法を開発

ヒトiPS細胞から血小板を安定的に大量に供給する方法を開発

  2014年2月14日

 江藤浩之 iPS細胞研究所(CiRA)教授、中村壮 同研究員らの研究グループは、ヒトiPS細胞から自己複製が可能な巨核球を誘導することに成功し、大量に血小板を生産する方法を確立しました。これまでにもiPS細胞から血小板をつくることはできていましたが、輸血に必要なスケールで血小板を生産するのは困難でした。今回は血小板を生み出す細胞である巨核球に着目し、これまでよりも大きなスケールで、医療現場で使用できる量の血小板を生産することを可能としました。

 このシステムを用いた臨床研究を2015~2016年に計画しており、最終的には臨床試験を経て10年後の実用化を目指しています。

 本研究成果は、2014年2月13日正午(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Stem Cell」で公開されました。

研究者からのコメント

左から江藤教授、中村研究員

 今回の手法で250億個の自己複製する巨核球を使用して、5日で輸血に必要な量の血小板を得ることができるようになりました。培養する装置も、複雑な設備を使わずに大量に培養することが出来ます。

 このシステムにより、日本人に多いHLA型のiPS細胞から血小板製剤を生産するための巨核球のストックや、ドナーが見つかりにくいHLA型やその他の特殊な血小板型(HPA型)の患者さんへの血小板製剤の安定供給が可能となります。

ポイント

  • 従来の方法では、iPS細胞から輸血に必要な血小板量の100分の1程度しか作れなかった。
  • 生体外で自己複製し凍結保存が可能な不死化巨核球を誘導する方法を確立した。
  • 巨核球をストックすることで血小板製剤の供給を安定化できる。

概要

 血小板は止血に重要な役割を果たす血液細胞で、巨核球という細胞から分離することで生み出され、血液の中を循環しながら、止血で利用されるか一定の寿命で崩壊します。自ら分裂することはできないので、常に巨核球から作られ、必要量が補充されています。現在、深刻な貧血および出血素因をもたらすような血液疾患の患者さんは、献血による血液製剤を用いた輸血に頼らざるを得ない状況です。しかし、献血ドナーの数は少子高齢化等もあり、減少しています。

 また、特に血小板は機能を維持するために室温で保存する必要があり、採血後4日間しか有効期間がありません。そのため、必要なときに必要な量の血小板を供給することが困難です。こうした状況を改善するためには、ドナーに依存しないで血小板などの血液製剤を生産する仕組みが必要です。

 本研究グループは2010年に皮膚細胞由来のiPS細胞から培養皿上で血小板が生産できることを発表しました。しかし1回の輸血では患者さん1人につき2000~3000億個もの血小板が必要ですが、これまでの方法では、10億個程度しか生産できませんでした。そこで今回は血小板前駆細胞である巨核球に着目し、長期間にわたって自己複製することができる巨核球の誘導を試みました。

 その結果、これまでの研究で、c-MYCを働かせることで、血小板の生産量を増やすことができることが分かっていましたが、本研究ではiPS/ES細胞から2週間かけて誘導した造血前駆細胞に、造血幹細胞の細胞分裂に重要な働きをするBMI1やアポトーシスを抑制するBCL-XLという遺伝子を利用することで、5ヶ月以上自己複製可能な巨核球をiPS細胞から誘導することができました(図)。

 この自己複製できる巨核球をストックしておくことで、さまざまな型の血小板の患者さんへ血小板製剤を安定して供給することも可能になります。


図:複製可能な巨核球の作製方法

詳しい研究内容について

ヒトiPS細胞から血小板を安定的に大量に供給する方法を開発

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2014.01.011

Sou Nakamura, Naoya Takayama, Shinji Hirata, Hideya Seo, Hiroshi Endo, Kiyosumi Ochi, Ken-ichi Fujita, Tomo Koike, Ken-ichi Harimoto, Takeaki Dohda, Akira Watanabe, Keisuke Okita, Nobuyasu Takahashi, Akira Sawaguchi, Shinya Yamanaka, Hiromitsu Nakauchi, Satoshi Nishimura, and Koji Eto
"Expandable Megakaryocyte Cell Lines Enable Clinically Applicable Generation of Platelets from Human Induced Pluripotent Stem Cells"
Cell Stem Cell 14 Available online 13 February 2014

掲載情報

  • 産経新聞(2月14日 26面)、中日新聞(2月14日 32面)、日刊工業新聞(2月14日 21面)、日本経済新聞(2月14日 38面)、毎日新聞(2月14日 4面)および読売新聞(2月14日 1面)に掲載されました。