サイトカインIL-15を産生する細胞の可視化に成功 -免疫系の微小環境の解明に期待-

サイトカインIL-15を産生する細胞の可視化に成功 -免疫系の微小環境の解明に期待-

2014年1月21日


左から、生田教授、原助教、崔大学院生

 生田宏一 ウイルス研究所教授、原崇裕 同助教、谷一靖江 同助教、崔広為 医学研究科大学院生らの研究グループは、石井優 大阪大学医学研究科教授、シェンドール・シモンズ 同免疫学フロンティア研究センター特任助教らとともに、免疫系の形成と維持に重要なはたらきをしているサイトカインの一つの、インターロイキン15を産生する細胞を体内で可視化することに世界で初めて成功しました。

 この研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」の電子版(米国東海岸標準時2014年1月20日)に掲載されました。

研究の背景

 ウイルスや細菌などの病原微生物と戦っている免疫系は、リンパ球とそのはたらきを支える微小環境の細胞(支持細胞、ストローマ細胞)から成り立っています。ストローマ細胞は、サイトカインと呼ばれるタンパク質を分泌しリンパ球に与えることで、免疫応答を制御しています。しかし、サイトカインは量が少ないために直接検出することが難しく、サイトカインを作るストローマ細胞の実態は長く不明でした。

 インターロイキン15(IL-15)というサイトカインは、Tリンパ球の一部やナチュラルキラー(NK)細胞の分化と維持に必要であることがわかっていました。生田教授らのグループは、IL-15を産生する細胞を蛍光タンパク質で可視化したマウスを作製し、IL-15を産生するストローマ細胞の生体内における分布と実態を初めて明らかにしました。

研究結果

(1) IL-15-CFPノックインマウスの作製

 まず、IL-15遺伝子の発現パターンを正確に再現するために、内在性IL-15遺伝子座に蛍光タンパク質CFP (cyan fluorescent protein) 遺伝子を導入したIL-15-CFPマウスを作製しました。

(2) IL-15産生細胞の同定

 IL-15-CFPマウスの免疫組織においてCFPを検出することで、IL-15産生細胞を同定しました。胸腺では、胸腺髄質のもっとも成熟した胸腺上皮細胞が、IL-15を産生していました(図1)。骨髄では、間葉系細胞の一部(VCAM-1陽性PDGFRβ陽性CD31陰性Sca-1陰性のストローマ細胞)が、IL-15を産生していました。リンパ節では、一部のストローマ細胞(細網線維芽細胞)と血管内皮細胞がIL-15を産生していました。脾臓では、一部のストローマ細胞(VCAM-1陽性細胞)がIL-15を産生していました。


図1:IL-15-CFPマウスの胸腺におけるIL-15産生細胞。EpCAM陽性(赤)の髄質胸腺上皮細胞の一部でIL-15(緑)が検出される。

(3) 老化や炎症によるIL-15産生レベルの上昇

 マウスの加齢とともに、脾臓内のIL-15産生細胞が増加しました(図2)。さらに、マウスにリポ多糖を投与し炎症をおこすと、IL-15産生が増加しました。


図2:IL-15-CFPマウスの脾臓おけるIL-15産生細胞。IL-15(赤)を産生する細胞が加齢とともに著しく増加している。

まとめ

 今回の研究で、IL-15が限られたストローマ細胞だけで作られることが明らかになりました。また、一部のIL-15産生細胞はIL-7産生細胞と共通していましたが、まったく異なる場合もあることがわかりました。これらの結果から、一見同じように見えるストローマ細胞がサイトカイン産生能によっていくつかのグループに分けられる可能性が出てきました。今回の研究をきっかけにして、これまで不明であったストローマ細胞の分類とそれぞれの機能が明らかになることが期待されます。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1318281111

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/180642

Guangwei Cui, Takahiro Hara, Szandor Simmons, Keisuke Wagatsuma, Akifumi Abe, Hitoshi Miyachi, Satsuki Kitano, Masaru Ishii, Shizue Tani-ichi, and Koichi Ikuta
"Characterization of the IL-15 niche in primary and secondary lymphoid organs in vivo"
Proceedings of the National Academy of Sciences published ahead of print January 21, 2014

 

  • 京都新聞(1月25日 9面)および日刊工業新聞(1月21日 25面)に掲載されました。