中赤外レーザーを用いた格子振動の選択励起を世界で初めて直接観測 -原子の振動を光で自在に操作-

中赤外レーザーを用いた格子振動の選択励起を世界で初めて直接観測 -原子の振動を光で自在に操作-

前のページに戻る

用語解説

中赤外、赤外

光の波長域で、波長の短い方から、0.72~2.5μmを近赤外、2.5~25μmを中赤外、25~1000μmを遠赤外と呼び、これらを総称して赤外と呼ばれる。中赤外域には、多くの分子の吸収線が存在し、指紋領域と呼ばれている。この波長域の強力かつ短パルスの単色光を用いれば、特定の分子結合を狙った選択的な励起や解離が可能となる。しかしながら、従来この波長域には強力な広帯域波長可変光が存在せず、依然として未開拓な部分が多く残されている。

格子振動

結晶中の原子の集団的な振動のこと。格子振動としては多くの振動数の振動が存在し、それぞれで原子の振動方向が違っている。高温になるほどたくさんの振動数・方向に強い振動が起こるようになり、逆に低温では振動が抑制される。電気伝導特性、磁性特性や熱伝導特性に密接に関係しており、電気抵抗や超電導などの物性は、格子振動と電子が相互作用することによりもたらされている。

自由電子レーザー


図:自由電子レーザー装置の概念図

光速近くまで加速された電子ビームが、一対の合わせ鏡で構成された光共振器の間に置かれたアンジュレータと呼ばれるNS極が交互に変わる磁場によって蛇行させられる。そして、一定周期で蛇行するごとに発生するシンクロトロン放射が干渉して生じた準単色な光を、共振器の中に閉じ込め、電子ビームによりさらに増幅することで発生させるレーザー

ラマン散乱

光子が、気体分子、液体分子、固体中の原子の振動と相互作用するときに発生する非弾性散乱現象。光子が自身の持つエネルギーの一部を原子の集団である分子や結晶格子の振動に付与、または光子が原子集団・分子・結晶格子の振動のエネルギーを受領することで、物質に入射された光子よりも低いエネルギーを持つ光子(ストークス散乱光)、もしくは高いエネルギーを持つ光子(アンチストークス散乱光)が発生する。それらの光子のエネルギーを解析することで、化合物の特定、固体材料の特定、物性や結晶性の評価といったことが可能。

ストークス散乱は、光子のエネルギーを格子振動に付与するという現象であるため、格子振動の励起が抑制された極低温条件でも観測される。

反対に、アンチストークス散乱は、格子振動からエネルギーを受領するという現象であるため、格子振動が抑制される極低温状態では入射した光子にエネルギーを供与できない。したがって、極低温条件では、アンチストークス散乱光は観測されない。

超電導現象

特定の材料を極低温まで冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象。抵抗による送電ロスなく電流を流せる性質を用いた超伝導磁石の利用により、医療用の核磁気共鳴画像撮影(MRI)装置、超電導リニア、核融合炉などへの応用が実用化および実証・計画されている。特定の金属酸化物を用いた場合、比較的高温である液体窒素温度の冷却で超伝導現象が起こる(高温超電導)ことが知られているが、超伝導一般において本質的な格子振動が、高温超電導ではどのように、どの程度の役割を果たしているかなど、そのメカニズムは未だ明らかになっていない。より高温条件(室温)で超伝導性を有する材料の開発には、そのメカニズムの解明が重要となる。