iCeMSと住友ベークライト、NEDO事業でES/iPS細胞の顔「糖鎖」の解析キットを開発、商品化へ

iCeMSと住友ベークライト、NEDO事業でES/iPS細胞の顔「糖鎖」の解析キットを開発、商品化へ

2013年4月11日


左から須藤幸男 住友ベークライト株式会社S-バイオ事業部長、中辻iCeMS教授、藤原一彦 住友ベークライト株式会社常務執行役員、福島雅夫 同事業部研究部長

 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)と住友ベークライト株式会社は、 NEDOプロジェクト「ヒト幹細胞実用化に向けた評価基盤技術の開発」において、ヒト多能性幹細胞の表面の糖鎖を解析して分化・未分化の状態を判別する技術を開発、この成果を活用した「ヒト幹細胞糖鎖精製ラベル化キット(BlotGlyco(R))」を住友ベークライトが商品化しました。

 これまで特殊な解析方法が必要だった、ヒト幹細胞に特徴的な糖鎖の解析を、確実に行うことが可能になり、幹細胞分野における糖鎖研究の進展が期待されます。

 本プロジェクトは中畑龍俊 iPS細胞研究所特定拠点教授・副所長をプロジェクトリーダーとし、五つのサブプロジェクトで構成されています。中辻憲夫 iCeMS教授(設立拠点長)はES細胞領域のサブプロジェクトリーダー(SPL)として、プロジェクトを推進しています。


ヒト幹細胞糖鎖精製ラベル化キット(BlotGlyco(R)

事業概要

 多能性を有する幹細胞(ES/iPS細胞)はさまざまな細胞に分化する能力を有しており、適切に誘導を行うことで神経、心筋、膵臓β細胞などのさまざまな細胞を得ることができます。このため、創薬における薬効評価や安全性薬理試験などの創薬スクリーニング、発生・分化や疾患メカニズムの解明、再生医療への応用など生命科学や医療への貢献が大きく期待されています。ヒト幹細胞を産業利用につなげるためには、「品質の確保されたヒト幹細胞の安定的な大量供給」を可能とすることが求められています。本プロジェクトでは、さまざまな細胞に分化する能力を有するヒト幹細胞の産業利用促進の重要な基盤となる、品質の管理されたヒト幹細胞の安定的な大量供給を可能とする基盤技術の開発を行います。

成果概要

 本成果は、中辻SPLが率いるチームでの研究成果を活用し、住友ベークライトが販売している糖鎖精製ビーズBlotGlyco(R)をベースに、ヒト幹細胞の特徴的な糖鎖が簡便に精製・解析できるようにキット化したものです。本キットを用いることで、ヒト幹細胞の糖鎖を網羅的に精製・ラベル化することができます。さらに目的に応じて、ヒト幹細胞中に多く含まれる糖鎖を簡便に除去することが可能で、これにより発現量の少ない糖鎖を再現よく分析できるようになりました。一連の操作は簡便であり、専用装置は不要です。また得られたラベル化糖鎖は、糖鎖の定量分析で一般的に用いられるLC-MSに持ち込むことが可能です。本キットを用いることで、幹細胞を特徴づける糖鎖の検出感度と分析結果の再現性の両方が向上し、幹細胞分野における糖鎖研究の進展が期待されます。同チームでは引き続きES/iPS細胞などの特性解析と細胞分化の研究を進め、糖鎖プロファイルによる幹細胞の品質評価法の確立を目指します。

用語解説

糖鎖

糖鎖とは、各種の糖(例えばグルコースなど)がグリコシド結合によってつながった一群の化合物のことです。タンパク質やDNAに続く第3の鎖状の鎖状高分子と言われており、その構造は多様性に富んでいます。細胞表面にはさまざまな種類の糖鎖が存在し、細胞の性質を表す「細胞の顔や衣装」とも呼ばれています。したがって、幹細胞の糖鎖プロファイル解析を行うことは、その細胞の基本性質や癌化などのリスクを判別することができると考えられます。

BlotGlyco(R)

住友ベークライトと北海道大学が開発した高密度にヒドラジド基が導入されたポリマービーズです。糖鎖のみを選択的かつ網羅的に捕捉回収し、糖鎖以外のあらゆる夾雑物を容易に排除できます。さらに糖鎖回収後に測定機器に合わせた任意のラベル化が可能です。

LC-MS=Liquid Chromatography-Mass Spectrometry

液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析法を接続した機器分析法です。二つの方法をうまく組み合わせることで相補的に利用し、多成分系の定性・定量分析を可能としています。

関連リンク

iCeMSウェブサイトでのニュースリリース(2013年4月11日)
http://www.icems.kyoto-u.ac.jp/j/pr/2013/04/11-nr.html

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  • 京都新聞(5月2日 21面)、日刊工業新聞(4月12日 17面)、日本経済新聞(4月12日 9面)および読売新聞(4月12日 29面)に掲載されました。