患者さん由来iPS細胞でALS病態解明・治療薬シーズを発見

患者さん由来iPS細胞でALS病態解明・治療薬シーズを発見

用語説明

ALS(筋萎縮性側索硬化症)

筋肉が次第に萎縮し、全身の筋肉が動かなくなる病で、呼吸筋麻痺により亡くなる方が多い。運動ニューロン(神経細胞)に異常が生じることが原因であることがわかっているが、これまで有効な治療法は確立されておらず、日本では特定疾患に認定されている。

iPS細胞

人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。2006年に山中教授の研究により世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。

治療薬シーズ

治療薬を開発する際にヒントとなる物質やアプローチ方法のこと。今回発見した治療薬シーズとは、アナカルジン酸がもつ分子構造と、アナカルジン酸によるストレスへの脆弱性の改善、神経突起長の改善、TDP-43発現量の改善という、ALSを抑制する効果のことである。アナカルジン酸と似た構造を持つ他の物質の方が、より効果が高い可能性もあり、また安全性や薬物動態なども確認する必要もあり、今回見つかった物質がそのまま薬剤になるとは限らない。

運動ニューロン

脳からの司令を骨格筋に伝える神経細胞のこと。突起を長いものでは数十センチにも伸ばして信号を伝えている。ALSの患者さんではこの神経細胞が変性・死滅することで骨格筋が動かせなくなる。ALS患者さんの運動ニューロンにはTDP-43というタンパク質が凝集していることが知られていたが、ALSの病態や発症メカニズムにどう関わるのか不明であった。

病態モデル

その病気に特徴的な症状や性質を再現したもの。研究を行う際には、病態モデルを用いて病気の原因究明や治療薬の開発を行う。これまでも病態を再現した実験動物が、病態モデルとして多くの基礎研究に利用されていた。ヒトの疾患特異的iPS細胞から病態が再現できれば、ヒト細胞を用いた基礎研究が容易になることが期待されている。

RNA(Ribo nucleic acid:リボ核酸)

大きく分けて3種(mRNA・tRNA・rRNA)がある。mRNA(メッセンジャーRNA)は遺伝子の情報を写しとったもの、つまり設計図のコピーのようなもの、RNAの情報をもとにタンパク質がつくられるので、mRNAの数と種類を調べることで、細胞がどのようなタンパク質をどのくらい作ろうとしているのか、知ることができる。

RNA代謝

DNAの情報を写しとった核内でRNA鎖が合成され、細胞質へと運搬され、タンパク質の合成に用いられるなどの役目を終えたRNAが分解される一連の流れをのこと。

孤発性

ALSなどの疾患は家族性と孤発性の2種類にわけられる。家族性とはその疾患を発症する人が家系に集中することをいい、遺伝的要因が発症に大きく影響を与える。一方孤発性とは、発症する人が散発的に現れ、遺伝子以外の要因があることが推測されている。

JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)

  • 研究領域:「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」
    (研究総括:須田年生 慶應義塾大学医学部教授)
  • 研究課題名:「iPS細胞を駆使した神経変性疾患病因機構の解明と個別化予防医療開発」
  • 研究代表者:井上治久(京都大学iPS細胞研究所准教授)
  • 研究期間:平成21年10月~27年3月

 

JSTはこの領域で、iPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発に基づき、その技術の高度化・簡便化をはじめとした研究によって、革新的医療に資する基盤技術の構築を目指している。上記研究課題では、基礎および臨床の研究者を結集して、患者由来iPS細胞を用いて神経変性疾患の病因メカニズムの解明および個別化予防医療開発を目的としている。