高齢者の転倒予防のための新しいコンセプトを発表~コンセプトを活かしたエクササイズマットを京都精華大学との共同プロジェクトで制作

高齢者の転倒予防のための新しいコンセプトを発表~コンセプトを活かしたエクササイズマットを京都精華大学との共同プロジェクトで制作

2012年3月1日


左から山田助教、青山准教授

 青山朋樹 医学研究科人間健康科学系専攻准教授、山田実 同助教らの研究グループは高齢者の転倒予防に関する新しいコンセプト(Multi-Target Step)を開発しました。このコンセプトを社会に汎用化させるため、京都精華大学(学長:坪内成晃)との共同プロジェクトにおいて、このコンセプトを活かしたエクササイズマットを制作し、フィージビリティー研究を開始しました。

転倒予防の新たなコンセプトの開発とその経緯

 高齢者において寝たきり、介護が必要になる大きな原因として運動能力低下による転倒骨折があります。この転倒を減らすことは重要な社会課題であり、現在さまざまな取り組みが行われています。医学研究科人間健康科学系専攻ではこれまで高齢者転倒要因を調査してきました。この調査研究の結果、転倒を起こしやすい高齢者には「dual-task:二重課題」遂行能力が低下していることが明らかになりました。このdual-task遂行能力というのは二つの課題を同時に遂行する能力を指し、この能力が低下している人は、歩行中に考え事をしていて障害物に気がつかないなどという理由から転倒しやすいことがわかりました。

 今回発表する新しいコンセプトは、このdual-taskの応用版のようなものです。10mの歩行路に3色のターゲット(10cm×10cm)を15枚ずつ(計45枚)、ランダムに配置させます。被験者には指定された1色のターゲットのみを踏み、それ以外の2色のディストラクターについては踏まないように歩くように指示します(Multi-Target Stepping test)(図1)。


図1 Multi-Target Stepping test

 山田助教らが行った研究の結果、転倒の危険性の高い高齢者では、指示されたターゲットを踏み外す割合が非常に高く、足元に対する注意が不十分になると転倒の危険性が高まることが分かりました(Yamada M, Aoyama T, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2011)。

 さらに、ターゲットを踏み外す要因を解明するために、視線解析装置という機械を用いてMulti-Target Stepping test遂行中の視線行動を計測したところ、踏み外し傾向がなく転倒危険性が低い高齢者では、常に1.5~2m程度前方に視線が向けられていたのに対して、踏み外し傾向があり転倒する危険性が高まっている高齢者では0.3~0.6mほど前方という身体に近い箇所に視線が集中していることが分かりました(図2)。また、転倒の危険性の高い高齢者では、Multi-Target Stepping test遂行における方向転換時に、両足を交叉させるようなターンを取ることが多く(クロスオーバーステップ)、自ら転倒の危険性を高めるような戦略を選択していました(Yamada M, Aoyama T, et al. Arch Gerontol Geriatr. 2011)。


図2 Multi-Target Stepping test遂行中の視線行動
左:模式図、右:実際の視線(カーソルが視線を示す)


京都大学と京都精華大学で共同制作した
高齢者の転倒予防マット「ココカラマット」

 つまり、転倒リスクの高い高齢者では、身体に近い箇所に視線が集中していることで、方向転換等の予測が不十分となり、とっさの判断が行いにくい。その結果、クロスオーバーステップのような危険な動作を選択してしまい、ターゲットを踏み外してしまっていたと考えられます。このような現象が日常生活で起これば、勿論、転倒という結果になってしまいます。

 また、このMulti-Target Stepを継続することで、視線が前方に推移し、踏み外し傾向が消失、さらには転倒予防効果も認められることが示唆されています。

京都精華大学とのエクササイズマット制作について

 新しいコンセプトのマットを広く一般の方々に普及させるために、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻理学療法学講座と京都精華大学デザイン学部の教員、学生が共同プロジェクトを実施しました。京都精華大学の学生がデザインを担当し、両大学の学生および教員が汎用化マットのアイデアなどについて、分野を超えた議論と協力を重ねエクササイズマットを制作しました。

今後の取組と展開について

 Multi-Target Steppingのコンセプトを用いたトレーニングには一定の効果があることが無作為化比較対象試験により認められましたので、今後は新たに制作したエクササイズマットを用いたフィージビリティー研究を開始します。


京都大学と京都精華大学で共同制作した高齢者の転倒予防マット「ココカラマット」


京都大学と京都精華大学のマット作成メンバー

 

  • 朝日新聞(3月5日夕刊 1面)、京都新聞(3月2日 26面)、産経新聞(3月2日 24面)、日刊工業新聞(3月2日 17面)、日本経済新聞(3月2日夕刊 16面)および毎日新聞(3月5日 21面)に掲載されました。