鳥類の音声シーケンス情報処理能力の解明

鳥類の音声シーケンス情報処理能力の解明

2011年6月27日


左から 安部助教、渡邉教授

 安部健太郎 生命科学研究科助教、渡邉大 同教授らが、鳴禽類には音声シーケンス中の音の並びの法則性を自発的に獲得・識別する能力があることを新たに明らかにしました。この研究成果は米国誌「Nature Neuroscience」のオンライン速報版で公開されました。
論文名: Songbirds possess a spontaneous ability to discriminate syntactic rules

背景

 鳥類の多くを占める鳴禽類(スズメ目)は、「歌」と呼ばれる複雑な音声シーケンスを用いて他個体とコミュニケーションをとります。さらに、鳴禽類の一部の種は生後にそのような音声シーケンスの使い方を学習して獲得するなど、鳴禽類の音声コミュニケーションとヒトの言語コミュニケーションとはいくつかの似た特性を持つことが知られていました。一方で、ヒトの言語には語の並びを規定する文法法則が存在し、ヒトはこの法則を逸脱する「異常な」文を敏感に識別する能力をもちますが、鳥類が発する音声シーケンス中の音素の並びそのものにどれだけの意味があるのか、鳥類はそれらのシーケンスの違いを識別しているのかは不明でした。

研究成果の概要

 研究グループは、鳴禽類の一種ジュウシマツが発する音声シーケンス「歌」に人為的に音素の並びの改変を施し、そのような改変「歌」を判別できるかを行動学的に解析しました。その結果、ジュウシマツは些細なシーケンス改変も敏感に識別することができることを明らかにしました。また、その際、識別できるシーケンス改変と識別できないシーケンス改変が飼育している複数個体に共通することを見出しました。

 さらに、このような音声シーケンスの識別能力は、ジュウシマツのヒナが巣立ち、他個体の多彩な音声シーケンスに接する生後40~70日にかけて発達すること、また、生後間もなくから隔離し、生後発達期に接する音声情報の多様性を制限して育成したジュウシマツではこれらの識別が十分にできなくなることを明らかにしました。このことは、ジュウシマツの音声シーケンス中にヒトの言語の文法法則のような、複数個体に共通する法則性があり、ジュウシマツはこのような法則性を後天的に獲得することを示唆しています。

 また、本研究では、特定の法則性をもつように人工的に音を組み合わせて作成した人工音声シーケンスを聞かせることで、その法則性を学習し、新規シーケンスがその法則に逸脱するかの判別ができることを明らかにし、さらにそのような識別に関わる脳内の神経領域を明らかにしました。

研究の意義

 生物の遺伝情報としてDNA(デオキシリボ核酸)が重要ですが、ヒトなどの種では、DNA上の情報のみでは生存し、子孫を残すことはできません。ヒトにおいては家族や社会を通じて受け継がれる言語や文化などの情報も遺伝すると考えることができ、このような世代を超えた知識の蓄積が今日の現代人類の繁栄をもたらしていると推測されます。一方で、言語など、ヒト固有と考えられている後天的な能力の多くは、適切なモデル動物の不在からその神経メカニズムなど多くの部分が分かっていません。鳥類も、音声を介して他個体とコミュニケーションをとることが生存に必要であり、その音声にはヒトの言語のような特性があることが分かっています。本研究においてこれまで想定されていた以上にヒトの言語情報処理に類似した能力を鳴禽類が保持していることが明らかとなりました。ヒトの言語コミュニケーションと鳴禽類の音声コミュニケーションは進化上独立に生じたものですが、今後、このような能力を可能にする神経メカニズムの詳細を明らかにすることで、ヒトの言語のような高次音声情報処理能力の生物学的な基盤を明らかにすることにつながることが期待されます。

研究チーム

 本研究は、安部助教が渡邉教授(生命科学研究科 高次脳機能学分野・医学研究科 生体情報科学講座)の研究室で行ったものです。安部助教は科学技術振興機構さきがけ研究者を兼任しています。

関連リンク

 

 

  • 朝日新聞(6月27日夕刊 10面)、京都新聞(6月27日 24面)、産経新聞(6月27日 24面)、毎日新聞(6月27日夕刊 10面)および読売新聞(6月27日 30面)に掲載されました。