マイクロリアクターを使った環境調和型化学合成

マイクロリアクターを使った環境調和型化学合成

2011年5月30日


吉田教授

 吉田潤一 工学研究科合成・生物化学専攻教授、永木愛一郎 同助教、金煕珍 同博士課程学生の研究グループは、マイクロリアクターによる保護基を使わない環境調和型合成の新手法を開発しました。これは、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「反応集積化の合成化学 革新的手法の開拓と有機物質創成への展開」の補助により行われた研究成果であり、4月5日の英国科学誌「ネイチャー・コミニケーションズ」電子版に掲載されました。また、NPG ネイチャー アジア・パシフィックのウェブサイトに「注目の論文」として、5月26日に掲載されました。

研究の概要

 医薬品などの複雑な有機化合物を合成する場合、原料や中間体にいくつかの官能基が共存することが多く、特定の官能基のみを選択的に反応させることは一般的には容易ではない。そのため反応させたい官能基以外の官能基を保護した後に望む分子変換反応を行うことがこれまでの常識であった。分子変換を完了したのち保護した官能基を元の官能基に戻して(脱保護)、さらに次の分子変換を行う。しかし、このような保護・脱保護は合成に必要なステップ数を増加させ、合成効率を低下させるだけでなく、廃棄物も生み出す。保護基を必要としない分子変換法が開発できれば、環境負荷の小さい合成が可能となり、その開発は合成化学の最重要課題の一つであり、大きな注目を集めている。

 多くの有機化合物中に頻繁に見られる官能基であるケトンカルボニル基は、有機リチウム化合物と極めて速く反応するため、それに影響を与えずに反応を行う場合には一旦保護する必要があった。今回の研究は、マイクロリアクターを用い、フロー系で滞留時間を3ミリ秒~1.5ミリ秒と極めて短く精密に制御することにより、有機リチウム種を発生させ、それが分子内のケトンカルボニル基と反応する前に、後で加えたアルデヒドと素早く反応させるという、従来の常識を覆す分子変換を実現したものである。

 また、本法を利用して、天然物ポリフェノールの一つであるPauciflorol Fの全合成を行い、複雑な化合物の合成に本手法が有効であることを実証した。本法のようなマイクロリアクターを用いた超高速反応による精密合成化学(フラッシュケミストリー)では、連続的に溶液を流しながら合成を行うので(フロー合成)、年間トンオーダーの製造も可能であり、医薬やファインケミカルズなどの工業的製造への応用が期待される。これらの研究成果は、4月5日にNature Communications, 2011, 2: 264で発表された。また、NPG ネイチャー アジア・パシフィックのウェブサイト(http://www.natureasia.com/japan/ncomms/)に「注目の論文」として、5月26日に掲載された。

関連リンク

  • 以下は論文の書誌情報です。
    Kim H, Nagaki A, Yoshida J. A flow-microreactor approach to protecting-group-free synthesis using organolithium compounds.
    Nat Commun. 2011;2:264.