1300世代暗黒に保たれたショウジョウバエの活動リズム

1300世代暗黒に保たれたショウジョウバエの活動リズム

2011年3月1日


左から、原村リサーチフェロー、今福教授

 理学研究科動物学教室では、故 森主一 京都大学名誉教授が1954年11月から開始したショウジョウバエの暗黒飼育を、現在まで維持しています。今福道夫 京都大学名誉教授らの研究グループは、700~900世代と現在の1300世代のハエで、運動活動リズムを調べました。その研究成果がZoological Science(オンライン版)に掲載されます。

(論文)
タイトル:Activity rhythm of Drosophila kept in complete darkness for 1300 generations(1300世代暗黒に保たれたショウジョウバエの活動リズム)
著者:今福道夫(京都大学名誉教授)・原村隆司(京都大学理学研究科リサーチフェロー)
発表雑誌:Zoological Science(日本動物学会 学会誌)28巻3号(2011年3月1日発行)

研究の概要

 地球上に生活するほとんどの生物は、昼夜変化に対応した生理的、行動的活動を示す。彼らを光や温度変化のない恒常条件下に移しても、そうした活動性は約24時間の周期で推移する。これを概日リズム(あるいはサーカディアン・リズム)と言っている。

 一方、昼夜変化のない洞穴のような暗黒に生息する動物では、ふつう概日リズムは見られない。では、洞穴に侵入したあと、動物はどのくらい経ったら無リズムになるのだろう。この問いかけのもと、故 森主一 京都大学名誉教授は、1954年11月にショウジョウバエの暗黒飼育を開始した。そのハエは現在に至るまで、理学研究科動物学教室に維持されている。そこで、700~900世代と現在の1300世代のハエで、運動活動リズムを調べた。

 1匹のハエを透明セルに入れ、その動きを赤外線でモニターした。実験条件は三つ。一つは、ずっと暗黒に保たれたものを、1世代のみ(卵から)明暗条件(12時間照明12時間暗黒)に置いて、親になったら3日後に恒常暗黒に移して活動を記録したもの(DD)。あとの二つは、ずっと暗黒に保ち、親になったら1回だけ3.5時間(P3)あるいは7.5時間(P7)の光パルスに曝し、以後暗黒に置いて活動を調べたもの。

 結果は、世代を問わず、いずれの条件下でも、暗黒バエは対照群の明暗バエ(ずっと自然光ないし明暗条件下に置かれたもの)と変わらない明瞭なリズムを示した。つまり、54年1300世代という長期に渡る暗黒経験も、彼らのリズムを弱らせていなかった。

 この結果を人間に置き換えるとこうなる。ハエの1世代は2週間であるが、人間の1世代を25年とするなら、ハエの1300世代は、人間の25×1300=3万2500年に相当する。つまり、旧石器時代の終わり頃に洞窟に入ったまま一度も光を見ずに過ごした人を、現代に至って初めて外に出して、その活動リズムを調べたら、外の人のリズムと変わらなかったということである。リズムというのは、随分強固だといった印象である。


左から、1954年からの暗黒バエ研究ノート、暗黒バエ、暗黒バエ飼育の缶

 なお、この研究は理学研究科生物科学専攻が推進するGCOEプロジェクトの一部である。

 

  • 朝日新聞(3月8日 19面)、京都新聞(3月1日 3面)、産経新聞(3月1日 25面)、日刊工業新聞(3月1日 21面)、日本経済新聞(3月1日夕刊 14面)、毎日新聞(3月1日 31面)および読売新聞(8月8日 26面)に掲載されました。