体の大きさに合わせて神経細胞の大きさを制御するしくみを解明

体の大きさに合わせて神経細胞の大きさを制御するしくみを解明

2014年3月17日

 上村匡 生命科学研究科教授、下野耕平 同博士後期課程大学院生らの研究グループは、ショウジョウバエの感覚神経をモデル系として用いて、体の大きさに合わせて神経細胞の大きさを制御するしくみを解明しました。

 この研究成果は、英国学術誌「Scientific Reports」(Nature Publishing Group)誌に掲載されました。

研究者からのコメント

左から上村教授、下野大学院生

 ある種の神経細胞は、進化の過程において動物の体が大きくなるにつれて、その形を保ったままでサイズが増すことが知られています。今回発見したCHORD遺伝子やTORC2は植物からヒトまで広く保存されています。それぞれの動物種において CHORD は、体の大きさに合わせて神経細胞のサイズを調節することに重要な役割を果たしているのではないかと予想しています。

 もしもこのような神経細胞のサイズの調節が破綻すれば、神経細胞、ひいては脳の機能に障害が発生する怖れがあります。

概要

 体の大きさは人それぞれ異なっており、体が大きい人ほど脳や心臓といった臓器も大きいことが知られています。臓器を体の大きさに合わせたサイズに調節する様式の一つとして、体の大小に応じてそれぞれの細胞のサイズを調節する方法があり、近年その調節機構が明らかになってきました。しかしながら、神経細胞のような複雑な枝分かれの形態を示す細胞のサイズがどのように制御されているかについては、これまでほとんど分かっていませんでした。

 本研究グループは、ショウジョウバエの感覚神経をモデル系として用いて、体の大きさを変化させた時に神経細胞の「サイズ」と「形(枝分かれのパターン)」がどのような影響を受けるかを調べました。その結果、飢餓条件にして体が通常より小さくなったショウジョウバエでは、神経細胞は形を保ったまま小さくなっていること、つまり通常の神経細胞のミニチュア型(精巧な縮小コピー)となっていることを発見しました。さらに本研究グループは、この「形を保ったままでの神経細胞のサイズの制御」に重要な遺伝子を見つけるために、遺伝学と次世代シーケンサを用いた解析を行い、ヒトのゲノムにも保存されているCHORD遺伝子を発見しました。神経細胞が CHORD遺伝子の機能を失うと、適正な栄養条件下で体全体は十分に成長しているにも関わらず、神経細胞の突起はミニチュア型になってしまいます。遺伝学的な解析の結果、CHORDタンパク質はTor complex 2 (TORC2)を介して栄養条件あるいは体の大きさを感知し、神経細胞のサイズを制御していることを見出しました。


図:CHORDタンパク質はTor complex 2(TORC2)を介して栄養条件あるいは体の大きさを感知し、分岐パターンを保ちながら神経細胞のサイズを調節している。

詳しい研究内容について

体の大きさに合わせて神経細胞の大きさを制御するしくみを解明

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep04415

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/185056

Kohei Shimono, Kazuto Fujishima, Takafumi Nomura, Masayoshi Ohashi, Tadao Usui, Mineko Kengaku, Atsushi Toyoda & Tadashi Uemura
"An evolutionarily conserved protein CHORD regulates scaling of dendritic arbors with body size"
Scientific Reports 4, Article number: 4415 Published 19 March 2014

掲載情報

  • 京都新聞(4月8日 25面)および中日新聞(3月23日滋賀版 27面)に掲載されました。