耐圧20,000ボルト(世界最高)の半導体素子を実現

耐圧20,000ボルト(世界最高)の半導体素子を実現

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用語解説

SiC(シリコンカーバイド、炭化珪素)

シリコン(珪素)と炭素(ダイヤモンド)の1:1の化合物である。原子間の結合力が強く、絶縁破壊や高温に強い半導体材料である。その優れた性質を活かせば、革新的な高性能パワーデバイス(電力用半導体素子)を実現できると期待され、日米欧で研究開発が活発化している。近年の研究開発の進展により、600~1,700ボルト級の素子の実用化が始まっている。我が国においても、内閣府が主導した「最先端研究開発支援プログラム」30課題のうちの一つに選ばれ、戦略材料と位置づけられている。

Si(シリコン、硅素)

優れた性質を有しており、大型の高品質結晶が容易に得られる半導体として、1970年に半導体の主流となった。現在においても半導体の代名詞的存在である。ダイオードやトランジスタ、集積回路(メモリ、プロセッサ)、電力用半導体素子、デジタルカメラに使われるCCDやCMOS撮像素子、太陽電池など、ほとんどすべて半導体素子はSiで作られている。例外として、発光ダイオードや半導体レーザなどの光デバイス、衛星放送の受信機や携帯電話基地局などの高周波デバイスは、GaAs(ガリウム砒素)やGaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体で作られている。

電力の変換を行うパワーエレクトロニクスにおいて、さらなる低損失化が強く求められている。Siを使ったパワーデバイスは、Siの物性(材料の特性)から理論的に予測される限界にほぼ近づいており、これ以上の飛躍的な性能向上は難しいために、新しい半導体材料が待望されている。

電力変換

交流→直流変換、直流→交流変換、周波数変換、電圧変換など、電気信号の形態を変換する操作を電力変換と呼ぶ。なお、直流から任意の周波数の交流を発生する回路を逆変換器、インバータと呼ぶ(昔からあった交流を直流に変換する装置の反対なので逆変換器)。また、このように電力を自在な形態に操り、負荷(モータ、電源など)に最適な電力を供給する工学をパワーエレクトロニクスと呼ぶ。このような電力変換を行う装置(電力変換器)は、比較的大電流、高電圧の電気信号を扱うことのできる半導体素子、コンデンサ、コイルなどで構成される電気回路で構成されている。変換器の性能は、これに搭載される半導体素子(電力用半導体素子、あるいはパワーデバイス)で決まると言って過言ではない。電力変換時の変換効率(出力電力/入力電力)は、現在85~95%程度であり、電力変換の度に約10%の電力が熱として捨てられている。この変換効率を限りなく100%に近づける切り札として注目されているのが、SiCを用いた電力用半導体素子である。

整流素子、PiNダイオード

アノード(陽極)、カソード(陰極)の二端子からなり、アノード側に正電圧を印加したときには通電し、逆方向に電圧を印加した場合は電流を流さない素子を整流素子と呼ぶ。交流→直流変換だけでなく、様々な電力変換器に用いられる。一般に、整流素子は、金属/半導体界面の機能を活用するショットキー障壁ダイオード(SBD)と、p型/高純度領域/n型半導体の多層構造を活用するPiNダイオードに分類される。ショットキー障壁ダイオードは、比較的低電圧・高周波応用、PiNダイオードは高電圧・低周波応用に適している。様々な電力変換器を構成するためには、同じ耐圧と同じ通電機能(定格電流)を有する整流素子とスイッチング素子(トランジスタ、サイリスタなど)の両方が必要である。整流素子とスイッチング素子を比較すると、整流素子の方が構造、動作原理ともにシンプルである。特に、PiNダイオードは、あらゆる電力用半導体素子の基本構造となる。