ビフィズス菌「LKM512」摂取による寿命伸長効果を発見

ビフィズス菌「LKM512」摂取による寿命伸長効果を発見

2011年8月17日

 栗原新 元生命科学研究科特定助教、芦田久 生命科学研究科准教授、松本光晴 協同乳業株式会社主任研究員、辨野義己 理化学研究所特別招聘研究員らの研究グループは、プロバイオティクスの代表的菌種であるビフィズス菌の経口摂取により、マウスにおいて顕著な寿命伸長効果が得られることを発見しました。

 本研究成果は、8月16日午後2時(米国標準時間)に米国オンライン科学誌PLoS ONE で発表されました。

研究の概要

  • ビフィズス菌「LKM512」の経口投与により大腸内で増えたポリアミンの作用に起因する寿命伸長効果を、マウスを用いた試験により確認
  • 腸内ポリアミン濃度を増やすことによる大腸の老化抑制や抗炎症効果が、寿命伸長につながることを示した、世界で初めての研究
  • メチニコフのヨーグルト不老長寿説に基づいた、腸内環境改善によるアンチエイジングの証明

 今回の研究は、プロバイオティクスのひとつであるビフィズス菌「LKM512」を摂取し、腸内細菌にポリアミンを生成させることで、老年病の原因である慢性炎症を抑えることが可能になるという仮説を検証するために実施しました。実験は、10ヶ月齢のマウス(ヒト換算:30~35歳)を用い、LKM512投与、ポリアミン投与、生理食塩水投与の比較試験の形式で行いました。その結果、LKM512は大腸内のポリアミン濃度を上昇させることで、大腸のバリア機能を維持し、抗炎症効果を促進し、寿命を伸長させることが明らかになりました。一方、ポリアミンの経口投与でも一定の寿命伸長効果はあったものの、LKM512と比較すると弱いものでした。今回の研究成果は、カロリー制限以外の方法で、マウスの寿命伸長効果が得られることを証明した数少ない成果となっています。

 通常の環境下で飼育中の10ヶ月齢(ヒト換算:30~35歳)のメスのマウスを3グループ(各19~20匹)に分け、それぞれにビフィズス菌LKM512、スペルミン、生理食塩水(対照群)を週に3回経口投与しました。

 図1は、LKM512を投与したマウス群の寿命が対照群と比較して有意に伸びていることを表したグラフです。生存率が70%になる時点で比較すると、30%以上の寿命伸長効果が認められました。スペルミン投与群も同様の伸長傾向を示しましたが、有意ではありませんでした。つまり、ポリアミンを直接摂取するよりも、腸内細菌叢に産生させた方が効果的であることを示しています。

   

  1. 図1.LKM512、スペルミンの経口投与が生存曲線に及ぼす効果

 図2は、LKM512の経口投与がマウスの外見、腫瘍および潰瘍発生に及ぼす影響を調べた結果です。対照群には、皮膚に腫瘍や潰瘍の発生が多く見られましたが、LKM512を投与したマウスには投与期間中ほとんど観察されず、毛並みも非常に良く、動きも活発でした。

   

  1. 図2.LKM512の経口投与がマウスの外見、潰瘍や腫瘍の発生に及ぼす影響

研究組織

松本 光晴(協同乳業株式会社 研究所技術開発室、独立行政法人 理化学研究所イノベーション推進センター)
栗原 新(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科、京都大学大学院生命科学研究科)
木邊 量子(独立行政法人 理化学研究所イノベーション推進センター)
芦田 久(京都大学大学院生命科学研究科)
辨野 義己(独立行政法人 理化学研究所イノベーション推進センター)

本研究への支援

 本研究は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出基礎的研究推進事業」の支援を受けました。

論文情報

Mitsuharu Matsumoto, Shin Kurihara, Ryoko Kibe, Hisashi Ashida, Yoshimi Benno
Longevity in mice is promoted by probiotic-induced suppression of colonic senescence dependent on upregulation of gut bacterial polyamine production.
PLoS One (http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0023652)

用語解説

プロバイオティクス

腸内細菌叢を改善することによって、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物。

ポリアミン

DNA、RNA、タンパク質の合成および安定化や細胞の増殖および分化に関与している生理活性物質であり、全ての生物の細胞に普遍的に存在する。抗炎症作用、抗変異原作用、オートファジーの誘導、腸管バリア機能の維持・促進などの作用が報告されている。

スペルミン

ポリアミンの1種で、最も生理活性が強い。

 

  • 朝日新聞(8月18日 30面)、京都新聞(8月18日 23面)、産経新聞(8月18日 21面)、中日新聞(8月18日 3面)、日刊工業新聞(8月26日 27面)および日本経済新聞(8月18日夕刊 14面)に掲載されました。