山中伸弥 京都大学物質-細胞統合システム拠点iPS細胞研究センター長(注1)(同再生医科学研究所再生誘導研究分野教授を兼務)と幹細胞エンジニアリング企業のノボセル社(米国サンディエゴ本社:アラン・ルイス社長兼CEO)(注2)は、iPS細胞からヒト膵臓細胞を作製する研究で協力することについて合意に至りました。
山中センター長は、2006年に世界に先駆けて胚性幹(ES)細胞に近似した人工多能性幹(iPS)細胞の樹立に成功しました。iPS細胞はヒトの皮膚などの体細胞から作製される多能性幹細胞で、さまざまな組織に分化する能力を持っています。
ノボセル社は、ヒトES細胞から、膵臓形成に必要な胚体内胚葉や膵細胞へ分化誘導する技術のパイオニアです。また、今年、ヒトES細胞由来の膵前駆細胞から、ブドウ糖応答性を有するインスリン分泌膵島細胞への分化誘導に成功しました。また、疾患モデル動物を用いた膵細胞移植実験で糖尿病改善効果がみられたと報告しています。
両者はお互いの技術力を高く評価しており、この提携は、近い将来に糖尿病患者のための新たな治療法をもたらすものと期待されます。
山中センター長は、iPS細胞を一日でも早く医療応用するために、国内外を問わず、公的研究機関や企業と積極的に連携していくことを表明しており、本提携はその一環です。
今回の合意は、基礎研究段階での協力に限られ、ライセンス供与などの商業的な内容は現時点では含まれていません。
両者のコメント
- 山中センター長
「ノボセル社の膵分化の技術力は高く、協力関係を築くことができ嬉しく思います。彼らのヒトES細胞からの膵細胞への分化誘導技術と、我々が開発したiPS細胞技術とを融合して、糖尿病の細胞モデルや細胞治療法開発の可能性を探索していきます。」 - ノボセル社のエマニュエル・ベツゲ最高科学責任者
「今回の提携は、山中教授のヒトiPS細胞とノボセル社のヒトES細胞の分化・カプセル化技術を融合して、新世代の糖尿病細胞治療法の開発を目指すものです。」
注1) 山中伸弥
京都大学物質―細胞統合システム拠点iPS細胞研究センターのセンター長。同再生医科学研究所再生誘導研究分野教授を兼務。2006年にマウスで人工多能性幹(iPS)細胞樹立に成功し、翌年、ヒトの皮膚細胞からのiPS細胞樹立を達成。
ホームページ: http://www.icems.kyoto-u.ac.jp/cira/j/index.html
注2) ノボセル社
1999年に設立された、米国カリフォルニア州・サンディエゴに本社を置く幹細胞エンジニアリング企業。ジョージア州にも研究拠点を持つ。2004年にサイテラ社とブレサジェン社と合併した。糖尿病などの慢性疾患に対する細胞治療法開発や創薬を行っている。幹細胞エンジニアリング、細胞カプセル化、創薬を主要3分野としてビジネス展開をしている。
ホームページ: http://www.novocell.com(外部リンク)