3D化石と「汚物だめ」: カンブリア紀オルステン化石の保存の謎を解明

3D化石と「汚物だめ」: カンブリア紀オルステン化石の保存の謎を解明

2011年4月12日


前田准教授

 前田晴良 理学研究科准教授、田中源吾 群馬県立自然史博物館主任(学芸員)、下林典正 理学研究科准教授、大野照文 総合博物館長、松岡廣繁 理学研究科助教の研究グループの研究成果が学術誌「PALAIOS」に掲載されることになりました。

研究の概要

 生物の多様性が一気に増大した「カンブリア紀爆発」を裏付ける貴重な証拠の一つとしてスウェーデンのオルステン化石生物群は世界的に有名である。この化石群は、古生代カンブリア紀末期(約4億9,500万年前)のもので、体長0.1~2mmの小型海生動物が、眼や付属肢がついたまま立体的な化石として保存されている(3D化石)。この驚異的な化石の正確な産出層準や、そもそもどうしてこんなに見事な化石となったのかという過程については、全くわかっていなかった。

 今回、京都大学・群馬県立自然史博物館の古生物学・鉱物学合同研究チームは、オルステンの3D 化石が、当時の海に棲んでいた別の生物が排泄した大量の糞(うんち)にまみれて保存されていることを初めて突き止めた。さらに、高解像度の元素マップ解析の結果から、大量の糞から化石保存の鍵になるリンが供給されて化石化するという「汚物だめ保存」の仕組みでオルステンの3D化石が保存されたことも明らかにした。

 この成果は、2011年4月に古生物学でもっとも権威ある専門学術誌「PALAIOS」上で公表されると同時に、その写真が同誌の表紙を飾ることとなった。

研究の背景

 スウェーデン南部に分布するエイラム頁岩中の有機物に富む石灰岩(オルステン)を酸で溶かした残渣から、遺骸全体がリン酸塩で交代されたきわめて保存のよい小型化石が1970年代に発見され、おもにドイツ人研究者によって調べられてきた。

研究の意義

  1. 3D保存を示すオルステン化石の産出層準を世界で初めてcmレベルの精度で調査、糞粒が濃集している厚さ約3cmの薄い層(ペレット層)にのみ3D保存の化石が含まれていることを確かめた。
  2. 周囲の糞粒が化石保存の鍵となるリンの供給源となり、遺骸の3D保存を促進させるという「汚物だめ(≒肥溜め)保存」の仕組みによって小動物の遺骸が保存されたことを解明した(=うんちにまみれた遺骸→化石として残る)。
  3. 世界各地のさまざまな時代の地層中に今回と同じような糞が濃集した地層がある。今後それらを精査すれば、オルステン化石に匹敵する驚異的な保存状態の未知の化石群が新たに発見される可能性がある。

アウトリーチ

 今回の研究成果を発信するため、京都大学総合博物館・群馬県立自然史博物館の共催で、一般市民を対象とするミニ特別展を企画中である(5月中旬。地質の日イベントを中心に検討中)。オルステンの化石を産する石灰岩の実物を実際に手にとって観察できるようにし、3D化石の実物や詳細な電子顕微鏡写真のパネルを展示し、さらに実際に研究に携わった研究者による普及講演会を計画している。

公表誌および版権

Maeda, H., Tanaka, G., Shimobayashi, N., Ohno, T., and Matsuoka, H.,Cambrian Orsten Lagerstätte from the Alum Shale Formation: Fecal pellets as a probable source of phosphorus preservation. PALAIOS (2011), vol. 26, no.4.
(C) SEPM (Society for Sedimentary Geology).

関連リンク

  • 論文は以下に掲載されております。
    http://dx.doi.org/10.2110/palo.2010.p10-042r
  • 以下は論文の書誌情報です。
    Maeda H, Tanaka G, Shimobayashi N, Ohno T, Matsuoka H. Cambrian Orsten Lagerstätte from the Alum Shale Formation: Fecal pellets as a probable source of phosphorus preservation Palaios. 2011;26(4);225

 

  • 朝日新聞(4月16日夕刊 10面)、京都新聞(4月13日 23面)、産経新聞(4月13日 23面)、中日新聞(4月13日 29面)、日本経済新聞(4月13日 35面)および毎日新聞(4月20日 20面)に掲載されました。