真核生物に最も近縁なアーキア、細胞の中は単純・外は複雑―突起を介した共生から、私たちの祖先像に迫る―

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概要

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村知彦、以下「JAMSTEC」という。)生命地球科学研究部門の井町寛之上席研究員と延優(Masaru K. Nobu)主任研究員、京都大学大学院農学研究科の中川聡准教授らは、私たちヒトを含む真核生物に最も近縁なアーキア群「ヘイムダルアーキア」に属する2株を、世界で初めて分離・培養することに成功しました。さらに、その細胞構造や生理・代謝を詳しく調べることで、真核生物の祖先となったアーキアの姿や生き方を、これまでで最も高い確度で描き出しました。

 真核生物がどのように誕生したのかは、生命科学における大きな謎の1つです。現在では、アーキアの一群である「プロメテアーカエオータ門(旧称:アスガルドアーキア)」に属するアーキアが、ミトコンドリアの祖先となるバクテリアと共生・融合することで誕生したとする説が有力です。私たちは2020年に、深海の泥からこの門に属するアーキア(MK-D1株)の分離・培養に世界で初めて成功し、その細胞構造や代謝に基づいて、真核生物誕生の新しい仮説「E3モデル」を提案しました(2020年1月16日既報 文献1および2024年7月12日既報 文献2)。

 その後、環境中の微生物ゲノムや進化的な関係を調べる研究が進み、この門の中でも「ヘイムダルアーキア」が真核生物に最も近縁であることが示されました。ヘイムダルアーキアは、すでに真核生物のような複雑な細胞内部構造(核や小胞体など、膜で囲まれた細胞内小器官)や酸素呼吸能を持つと予測する研究者もいましたが、実際の姿や生き方は不明でした。本研究では、戦略的な培養手法を用いてヘイムダルアーキアに属する2株を分離・培養し、これらの特徴を直接調べました。

 その結果、培養株には真核生物のような複雑な細胞内構造は全く観察されず、細胞内部は単純でした。一方、細胞の外側には長い突起や膜小胞といった複雑な構造が形成され、突起を使って他の微生物に付着し、共生する姿が確認されました。また、培養株は無酸素環境で生きる嫌気性生物でしたが、そのうち1株は、酸素を消費するバクテリアを共存させると、培養開始時に微量の酸素が存在する環境でも生育できることが明らかになりました。

 これらの結果は、真核生物の祖先となったアーキアが、単純な細胞内部構造を持ちながら、細胞の外側に長い突起などの複雑な構造を発達させ、他の微生物と積極的に共生していたことを示唆します。また、ミトコンドリアの祖先バクテリアとの初期の共生は低酸素環境で始まり、酸素の解毒がその成立を支えた可能性も示しています。つまり、嫌気性であったアーキアが、他の微生物との共生によって毒である酸素の影響を軽減しながら、やがてミトコンドリアの祖先バクテリアを細胞内に取り込み、その後、細胞内部を複雑化させることで、真核生物が誕生したと考えられます。

 今回得られた培養株は、「真核生物の起源」を実験的に検証するための重要なモデル生物となります。今後、これらの培養株を用いて細胞構造や共生の仕組みを詳しく調べることで、単純なアーキアから複雑な真核生物が誕生した過程の解明が進むと期待されます。

 本成果は「Nature」に、2026年10月28日(ロンドン時間)/10月29日(日本時間)付で掲載されました。

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(課題番号:19H01005, 22H04985, 23H00154, 23K20307, 23K27145, 24H00582, 25K02343, 26A302, 26H00428, 26H00429)、米国MooreおよびSimons財団助成金(GBMF9743)、公益財団法人発酵研究所助成金(L-2024-1-003)、関西スタートアップアカデミア・コアリション-GAPファンド(JPKSAC2026_24)、先端バイオイメージング支援プラットフォームABiS(22H04926)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR19S5)、生理学研究所共同研究利用(23NIPS201, 24NIPS201)、自然科学研究機構生命創成探究センター共同利用研究(22EXC601)、および国立研究開発法人日本医療研究開発機構 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(JP24ama121005) の支援を受けて実施されました。

画像
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プロメテアーカエオータと真核生物の進化的な関係、および培養株の電子顕微鏡写真
左の図は、真核生物の起源に深く関わるとして注目されているプロメテアーカエオータの各グループと真核生物の進化的な関係を示しています。本研究で分離したHC1株とSC1株が属するヘイムダルアーキアは、真核生物に最も近いグループです。真核生物は、ヘイムダルアーキアの中から進化して誕生したと考えられています。右の電子顕微鏡写真では、培養したアーキアが細胞の外側に長い突起を伸ばしている様子が見られます。白い矢印は、共生相手のメタン生成アーキアを示しています。(B35株の電子顕微鏡写真はRodriges-Oliveira et al., 2023. Nature(doi: 10.1038/s41586-022-05550-y)より転載)
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41586-026-11170-7

【書誌情報】
Hiroyuki Imachi, Masaru K. Nobu, Shun'ichi Ishii, Hiroki Hashiguchi, Yuga Hirakata, Naoki Hosogi, Tetsuro Ikuta, Yuta Isaji, Makoto Miyata, Masayuki Miyazaki, Yuki Morono, Kazuyoshi Murata, Satoshi Nakagawa, Akihiro Narita, Miyuki Ogawara, Satoshi Okada, Yumi Saito, Sanae Sakai, Shigeru Shimamura, Yuhei O. Tahara, Yoshihiro Takaki, Yoshinori Takano, Eiji Tasumi, Katsuyuki Uematsu, Toshihiro Yoshimura, Ken Takai (2026). Eukaryotes' closest relatives are internally simple syntrophic peptidotrophic archaea. Nature.