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輝け!京大スピリット

2019年春号

輝け! 京大スピリット

溢れる意欲が引きよせた最先端の世界での〈おもろい〉経験

2017年度「おもろチャレンジ」採択者
高橋唯基さん 理学部4回生

「極低温分子の量子系に対する制御および測定技術を用いた素粒子物理学への画期的な応用に関する研究」。報告書に書かれた46文字に目をパチクリさせていると、高橋唯基さんが一言。「『おもろチャレンジ』の中で一番おもろくなさそうなタイトルですよね」。おおらかな表情に安堵したのもつかの間、「でも、内容は誰にも負けませんよ」。自信に満ちた語り口に引きこまれた。

既存の留学制度に頼らず、活動内容を自ら計画し、海外で学ぼうとする学生を支援する「おもろチャレンジ」。2016年度にスタートし、これまでにのべ90件が採択された。高橋さんが合意を取り付けた渡航先は、ノーベル賞受賞者を多数輩出する名門、ハーバード大学。原子物理学の世界的権威であるジョン・M・ドイル教授の研究室で2か月を過ごした。きっかけはランチタイム。「来日中のドイル教授と昼食をご一緒できる機会があり、自分から積極的に研究の話をしたんです。すると後日、『研究室に来てみる?』とメールが届いたんです。迷わず飛びつきました」。

関連論文を入念に読みこんで留学に挑んだ。この分野の最先端を独走するチームに加わり、実験データの収集や解析など、成果に直結する材料を生み出す重要な役割を担った。「莫大な研究費が注がれる本気のプロジェクトですから、責任も重い。実力が試される機会だと思って、食らいつきました。研究を少しでも前進させる結果を残せたことは大きな成果です」。帰国前には、次の研究留学先としてカリフォルニア工科大学との約束を取り付けるなど、大きな土産を持って日本に帰国した。

素粒子物理の実験には、スーパーカミオカンデのような大型の施設を使うのが主流だが、近年は技術の進歩で、実験室に収まる装置での実験が可能になった。ドイル教授の研究室が参加しているプロジェクトの測定精度は、世界で最も高い

渡航中は、日本に興味のあるハーバード大学の学生で構成されるジャパン・ソサイエティのメンバーとも交流。今でも連絡を取りあい、定期的に会っているという

「思いついたら即行動」派にみえる高橋さんだが、その行動は意外にも冷静な判断に基づいたもの。「つねに自分が最も成長できる場所に身を置いて、先頭から見える景色を知りたいんです」。奮励の源には、科学への強い思いがある。「宇宙はどのように始まったのかという疑問に物理学で挑みたい。紙と鉛筆だけでこの世を理解しようとする理論家としてではなく、実験によって新しい現象を探したり、既存の理論を検証する実験家として世界のトップを走りたい。これまでの挑戦で、世界の最先端を肌で実感できました」。

卒業まで残り数か月、海外の大学院への進学も視野に入れ、進路をじっくりと見定めている。「夢を語るだけでは食べていけないことも痛感しましたが、物理学の謎を解くために、自らの知識を総動員して挑む実験は人生をかける価値がある」。まっすぐなまなざしと言葉は、「彼ならば、宇宙のふしぎの一片を明らかにするに違いない」、そんな期待を抱かせる。

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