第1回湯川・朝永奨励賞授賞者を決定しました。

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京都大学大学院理学研究科・准教授 望月 拓郎 氏 業績の要旨等

業績の題目 (和文及び英文)

ツイスターD-加群と半単純偏屈層の研究
Study of Twister D-Modules and Semisimple Perverse Sheaves

業績の要旨

 望月拓郎氏は、幾何、解析、代数の接点において、純ツイスターD-加群の大理論を建設するという優れた業績を挙げました。 Beilinson-Bernstein-Deligne-Gabberは、DeligneのWeil予想の解決と偏屈層の概念を用いることによって、ガロア群の作用の存在のもとに、正標数における構成可能偏屈層が強Lefschetz定理、分解定理、完全可約性などの性質を持つという深い事実がなりたつことを示しました。一方、対応する標数零の理論は、斎藤盛彦によりホッジD-加群の理論として研究され、正標数の場合とほぼ同様な性質が成り立つことが示されています。この事実から数多くの深い帰結が導かれ、まさに20世紀の数学の最高峰の1つと言っても過言ではありません。
 しかし、ホッジD-加群の構造を持つ構成可能偏屈層は、半単純な構成可能偏屈層のクラスよりかなり狭いクラスです。1996年に柏原正樹は、任意の半単純な構成可能偏屈層に対しても強Lefschetz定理、分解定理などの性質が成立するだろうと予想しました。望月氏は、この予想を代数・解析の両者を駆使して肯定的に解決したのです。
 この解決には、解析的には、調和計量が重要な道具として用いられています。これによりコホモロジー群を調和形式で表現するという古典的な調和積分論を適用することが可能になります。調和計量の存在定理は、準射影的多様体上の半単純平坦束に対しては証明されていましたが、開いた多様体上の場合に適用するには、無限遠で良い挙動をもつ調和計量が存在することを示す必要があります。望月氏は、このような良い調和計量が存在することを証明しました。
 代数的には、C.Sabbahによって導入されたツイスターD-加群の概念を用いて純ツイスターD-加群の理論を建設しました。上記の強Lefschetz定理、分解定理が純ツイスターD-加群に対して成立することを示すとともに、調和計量の存在定理をもちいて、半単純平坦束が純ツイスターD-加群の構造を持つことを示しました。こうして、望月氏は、任意の半単純な構成可能偏屈層に対して強Lefschetz定理、分解定理などの性質が成立することを証明することに成功したのです。
 柏原予想は、解決には50年を要するだろうと思われていましたが、望月拓郎氏はこれを8年あまりで肯定的に解決したのです。