奄美群島で起きたカンアオイの急速な進化

ターゲット
公開日

瀬戸口浩彰 人間・環境学研究科教授らの研究グループは、奄美群島に生育する9種のカンアオイ属植物のDNAを解析し、見た目が大きく異なるカンアオイ同士でも、DNA情報の差異が小さいことを明らかにしました。

本研究成果は、2017年3月16日に米国のオープンアクセス誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究者からのコメント

奄美群島は歴史が古い大陸島ですが、その固有植物の一つであるカンアオイ8種は、ガラパゴス諸島や小笠原諸島のような海洋島と似た「急速な適応放散による種分化」を起こしていることがわかりました。このことは奄美群島が世界自然遺産の選定項目の一つ(生態系)である「進行中の生態学的過程または生物学的過程を代表する顕著な見本である」ことを示しており、この地域の登録に役立つことができれば幸いです。

概要

2017年3月7日に奄美群島国立公園として、新たに34番目の国立公園に指定された奄美群島の中でも主要な島々である奄美大島と徳之島は、面積が広くまた標高が高く、多くの固有生物を育んでいます。これらの島の亜熱帯照葉樹林の地表には、9種のカンアオイ属の植物が生育しています。1種は両島に分布しており、奄美大島に5種の固有種が、徳之島に3種の固有種が生育しています。花の形や大きさ、花柄の長さ、雄しべと雌しべの数に大きな違いがあり、外部形態で明瞭に区別ができます。

本研究グループは、島の中で複数種が混ざって生育している集団を中心にして、DNAの多型を指標にした解析を行い、「固有種の起源」、「種分化の程度」と「種間の交配の程度」について調べました。その結果、見た目が大きく異なるカンアオイ同士でも、遺伝情報のみで区別するのが難しいほどDNA情報の差異が小さいことが分かりました。一方で種間の交雑はほぼ起きておらず、花の形を変えて訪花昆虫を違えたり、開花時期をずらすことによって「種の単位」を維持していると考えられます。

図:奄美群島に生育する9種のカンアオイの花形態(上:外観図、下:雄しべと雌しべ)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0173489

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/218970

Junshi Matsuda, Yoshiyuki Maeda, Junichi Nagasawa, Hiroaki Setoguchi. (2017). Tight species cohesion among sympatric insular wild gingers (Asarum spp. Aristolochiaceae) on continental islands: Highly differentiated floral characteristics versus undifferentiated genotypes. PLOS ONE, 12(3): e0173489.