iPS細胞によりデュシェンヌ型筋ジストロフィーの初期病態を再現

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庄子栄美 iPS細胞研究所特定研究員、櫻井英俊 同講師らの研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さんから作製したiPS細胞を筋肉の細胞へと分化させることにより、細胞レベルで病気の初期病態を再現することに成功しました。

この研究成果は2015年8月20日(英国時間)に英科学誌「Scientific Reports」で公開されました。

研究者からのコメント

左から庄子特定研究員、櫻井講師

今回の手法では、アンチセンスオリゴヌクレオチドを利用することで、同一細胞株においてデュシェンヌ型筋ジストロフィーの病態の改善を確認することができました。96穴の細胞培養皿で検出可能な評価系を確立できたことで、今後、創薬研究に活かされることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さんのiPS細胞から筋肉細胞を作製し、初期病態を細胞レベルで再現
  • DMD患者さんの場合、iPS細胞から作製した筋肉細胞に電気刺激をあたえることで、カルシウムイオンが細胞内に過剰に流入する様子や、クレアチンキナーゼが細胞外に漏れ出す様子を観察
  • 初期病態は96穴の培養皿で検出可能なので、DMDの創薬のための評価系として期待

概要

DMDは、筋肉細胞中のジストロフィンタンパク質の欠損により筋細胞が変性して、筋肉が衰弱する病気です。現状の治療法では進行を止めることができず、病気の初期病態を把握して筋細胞の変性を食い止めることが治療法開発の上でも鍵となっています。

本研究では、iPS細胞からまず筋管細胞に分化させました。すると、形態学的にも生理学的にも、健康な方の筋管細胞との違いはみられませんでした。と ころが、電気刺激を与えたところ、DMD患者さんの筋管細胞ではカルシウムイオンの過剰な細胞内への流入がみられました。薬剤により、欠損していたジスト ロフィンタンパク質の発現を回復したところ、カルシウムイオンの流入は抑えられ、筋細胞破壊の指標となるクレアチンキナーゼの漏出量も減りました。今後、 DMD治療法開発に向けた創薬のための評価系として利用が期待されています。

ジストロフィンタンパク質の発現回復により、DMD患者さんの細胞のカルシウムイオン過剰流入は抑えられる。

筋芽細胞細胞にアンチセンスオリゴを加えることで、ジストロフィン蛋白の発現を回復させると、カルシウムイオンの流入を意味するFluo-8強度変化の差が小さくなった。Untreated:未処理、CO: コントロールオリゴヌクレオチド、AO: アンチセンスオリゴヌクレオチド

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep12831

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/199692

Emi Shoji, Hidetoshi Sakurai, Tokiko Nishino, Tatsutoshi Nakahata,
Toshio Heike, Tomonari Awaya, Nobuharu Fujii, Yasuko Manabe, Masafumi
Matsuo, Atsuko Sehara-Fujisawa
"Early pathogenesis of Duchenne muscular dystrophy modelled in
patient-derived human induced pluripotent stem cells"
Scientific Reports 5, Article number: 12831
Published online: 20 August 2015

  • 京都新聞(8月21日 23面)、産経新聞(8月21日 26面)、中日新聞(8月21日 5面)、日刊工業新聞(8月21日 27面)、日本経済新聞(8月21日 38面)、毎日新聞(8月21日 30面)および読売新聞(8月21日 33面)に掲載されました。