超極細ナノ炭素細線の画期的高効率合成法を開発 -高効率太陽電池への応用に期待-

ターゲット
公開日

2014年4月8日

坂口浩司 エネルギー理工学研究所教授、中江隆博 同助教らの研究グループは、炭素と水素から成る次世代半導体として期待される、1ナノメートル以下の幅を持つ極細ナノ炭素細線(グラフェンナノリボン)を従来に比べ飛躍的な高効率で合成する手法を開発しました。今回開発した方法により、理論的に予測されていた3種類の極細幅のGNR(アームチェアエッジ型)を全て合成することに成功し、従来材料と比べ大きな光電導性を持つことを明らかにしました。高効率太陽電池としての応用が期待されます。

本研究成果はドイツの出版社(Wiley-VCH)が発行する先端材料科学の専門誌「Advanced Materials」のオンライン版に日本時間4月8日に掲載されました。

研究者からのコメント

左から坂口教授、中江助教

今回の成果は、非常に安価な装置を用いてGNR合成の課題であった収率と種類を飛躍的に向上させる革新的な技術であり、これまで知られていなかった極細炭素細線の基礎物性の理解・応用研究への展開が飛躍的に加速するものと期待されます。また、軽く強靭かつ省エネルギー素子として期待される有機デバイスの基幹素材として炭素原子の配列制御によるGNRによる導線・半導体回路を組み上げたオール炭素デバイスの実現につながると考えられます。さらに、元素資源として豊富に存在する炭素材料は希少元素に依存しない持続可能型エネルギー社会の実現にも貢献するものと期待できます。

今後は、今回開発した「ラジカル重合型化学気相成長法」を発展させ、未踏ナノ炭素材料の高効率合成と機能評価に取り組みたいと考えています。また、太陽電池等のデバイス応用に向け、GNRのデバイス性能の評価を進めていく予定です。ありふれた元素である炭素を用いて厳密な構造制御を達成することにより、従来では成し得なかった機能を創発することは、基礎的な科学的の観点からも大変興味深く、有用な新規素材開発に有用な科学的知見の発見につながっていくものと考えています。

概要

GNRとは、炭素原子の二次元シートであるグラフェンをリボン状に切り出した細線状のナノ物質です。二次元シート状のグラフェンは金属的性質を示すため応用が限定されますが、GNRは細線幅、炭素の六角形格子の構造を制御することにより、望みの特性を持つ半導体となることが理論的に分かっており、現在主流のシリコンに代わる次世代半導体材料として太陽電池や電子素子への応用が期待されています。

従来のGNR合成法では、超高真空(10-10Torr)環境が必要であり、かつ反応中間体であるラジカルを低密度でしか発生できないため合成収率が非常に低く、また幅を制御した細線を作るのが困難であることが問題でした。

今回開発した「ラジカル重合型-化学気相成長法」は、2ゾーン独立加熱を用いることで、原料分子から非常に高密度にラジカル中間体を発生させて金属基板に吹きかけることにより、低真空(1Torr)にもかかわらず、従来法の10倍の高効率でさまざまな線幅を持つ極細GNRの合成に成功しました。この極細GNRのフィルムは、従来の有機太陽太陽電池に用いられる共役系高分子(ポリ3-ヘキシルチオフェン)の3倍の光電導性を示し、高効率太陽電池材料としての応用が期待されます。

詳しい研究内容について

超極細ナノ炭素細線の画期的高効率合成法を開発 -高効率太陽電池への応用に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/adma.201305034

Hiroshi Sakaguchi, Yoshiyasu Kawagoe, Yoshitaka Hirano, Taku Iruka, Maki Yano, and Takahiro Nakae
"Width-Controlled Sub-Nanometer Graphene Nanoribbon Films Synthesized by Radical-Polymerized Chemical Vapor Deposition"
Advanced Materials Published online: 8 APR 2014

掲載情報

  • 京都新聞(4月9日 25面)、日刊工業新聞(4月9日 21面)および科学新聞(4月25日 4面)に掲載されました。