国際戦略(平成17年度~21年度まで)

 

国際戦略(平成17年度~21年度まで)

この国際戦略は、京都大学が平成17年度から同21年度までの5カ年にわたり、諸外国の研究教育組織等と緊密に連携しつつ展開する教育研究活動推進の要綱を示すものである。

第1章 京都大学の国際交流の基本理念

「京都大学の基本理念」(地球社会の調和ある共存に貢献、世界に開かれた大学)の結実に資する国際交流

京都大学の基本理念(平成13年12月4日制定)は、その前文において、本学が「創立以来築いてきた自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献するため、自由と調和を基礎に、ここに基本理念を定める」としている。そこに語られる「地球社会」とは、人類のみならず、地球に生きる動植物、地球を構成する無生物 のすべてを含めている(基本理念検討WG座長解説、京大広報564号)。その大きな共同体のなかの「調和ある共存」に貢献すること-それが、本学の教育研究が目指すところであり、国際交流の戦略的推進にあたっても、この理念の現実化に資することを常に念頭におかなければならない。

本学の基本理念はまた、「京都大学は、世界に開かれた大学として、国際交流を深め」る決意を明らかにしている。本学は1897年の創設からわずか6年後の1903年に初の留学生を受け入れて以来、絶えず世界に開かれた大学を目指してきた。しかし、本戦略は、たんに留学生の受入れにおいて開かれた大学を目指すにとどまらず、本学の研究者、学生の海外派遣を積極的に支援し、すぐれた研究者を海外から受け入れ、連携、共同の楽しみをわかち合い、またその成果を世界の多様な教育研究組織や地域社会に効果的に伝えてゆくための具体策を推進、展開しようとしている。

地球規模の視野と地域文化への敬意に支えられた国際交流

京都大学は、世界水準の教育研究を実現させてきたが、国際交流の実績においては、いまだ必ずしも十分とは言えない。本戦略は京都大学の教育研究の特性、すなわち地球規模の視野と多様な地域文化への理解と敬意を根底にすえた教育研究の伝統を活かしつつ、長期的な、創造的国際共同への展開が期待しうる多様な交流を、統合的に推進しようとするものである。

京都の文化的蓄積を活かす国際交流

上記の京都大学の教育研究の特性は、京都における1200年におよぶ東西交流が生みだした重層的な文化の蓄積のなかで育まれたものであり、本戦略も、洛中洛外の新旧の施設利用にとどまらず、独特の自然観や美意識をもつ京都の生活文化と呼応するかたちでの国際学術交流事業の機会を増すことにより、比類のない創造性をはらみつつ展開されるものと考える。

※ 国際戦略の権限と責任

京都大学は、平成17年4月、全学レベルの国際交流活動の実施に関する意思決定を行う組織として国際交流推進機構を発足させた。それは、これまで並列的にあった国際交流関連の学内の委員会等を束ねる唯一の組織であるとともに、いわゆる「国際戦略本部」との位置づけを持つ。また、役員には国際交流推進機構を所掌する担当理事がおかれ、総長、国際交流推進機構長と共に、本学の国際戦略に権限を有し、同時に責任を負っている。そのほか国際交流の実務組織として国際交流センターおよび研究・国際部が国際交流推進機構を支援する。また、国際交流推進機構は、国際的な産学官連携活動については国際イノベーション機構と 協同し、情報通信技術の活用については、情報環境機構と協同して推進を図る体制をとっている。

第2章 国際戦略の二つの展開域

京都大学の国際戦略は、「人材育成・獲得戦略」と「研究拠点形成戦略」の二つ展開域を措定している。「人材育成・獲得戦略」は、国際性の高い人材を出身国の違いを越えて育成・獲得することを目指す戦略であり、特に外国の教育研究組織で育った人材にもキャリア形成の道が充分開かれた大学の実現に努める。また、「研究拠点形成戦略」は、京都大学の優れた研究活動を海外に向けて有効に示すことにより、京都大学の研究者と海外の研究者の間で多様な拠点が形成されることを目指す戦略である。

人材育成・獲得戦略

大学における海外の人材とのかかわりは、学部・大学院・ポストドクター・常勤の教職、の四層である。そのうち、本戦略では海外出身者が本学において大学院からポストドクターへ、またポストドクターから常勤の教職への移行の道の拡充に努める。さらに、常勤の教職の中でも、いわゆる終身の身分の獲得への道が円滑に確保されることを目指す。

また、国際戦略の観点から京都大学側の人材の育成にも努めることとする。このため、学生の海外留学機会、教員の海外との研究交流の機会を拡充する。さらに、事務職員の海外研修の機会を増大させ、得られた能力を有効に活かしての国際交流実務の推進をはかる。

研究拠点形成戦略

京都大学の研究活動にとって、国の内外において国際水準の研究を可能とする拠点形成を行っていくことが重要である。特に国際交流推進機構の役割としては、いわば研究現場からの自発的な拠点形成への動きを支援しつつ、それを大学の戦略的な拠点形成に役立てることが肝要である。なお、海外における拠点の形成は、海外における国際研究集会の開催や、各研究科、研究所等が設置している海外拠点の全学利用化への支援、さらに海外の学術機関との協力による教育研究拠点やそれらのネットワークの形成などが含まれる。

拠点は、ヨーロッパ、北米を中心とした、いわゆる世界の卓越した科学研究の中心における先端的研究拠点の拡充のみならず、本学が長い間に培ってきた学術交流の伝統を有するアジア地域、アフリカ地域などを含めた世界の全ての地域を念頭に置き形成されるよう努める。

一方、国内では、既に各研究科、研究所等あるいは個々の研究者・研究グループにおいて国際的にも優れた拠点が形成されており、これを更に発展させることとする。具体的には国際研究集会の開催やホームページの整備等に対する支援、あるいは海外研究者の来訪支援など、全学的に支援を行うことによる発信機能の充実や、研究成果の知的財産面での国際評価を高める戦略が含まれる。

第3章 四つの基本軸とそれに基づく国際戦略

人材育成・獲得と研究拠点形成という、上述した二つの展開域に向けて、つぎのような四基本軸を設ける。すなわち、I.「受信型」から「発信型」へ、II.「バイラテラル交流」の充実と「マルチラテラル交流」への発展、III.特定分野への重点的支援、IV.国際交流基盤の充実、である。これらの基本軸は、人材育成・獲得と研究拠点形成という両展開域において共通して追求されるべき具体的な目標を示す。

これら四つの基本軸は、文部科学省大学国際戦略本部強化事業に基づく国際戦略本部計画作成のため、平成16年9月27日に開催された役員懇談会での了承に基づき、国際交流委員会および国際戦略本部整備予算検討ワーキンググループが行った検討の結果に依るものである。

I.「受信型」から「発信型」へ

京都大学には、海外から適切な評価を受けている教育研究活動も少なくないが、より積極的に外国語での発信、あるいは海外での発信を行えば、なお高い評価を受けるものも数多いと考えられる。このため教育研究活動における高感度の受信能力を保ちつつ、発信能力の向上を意識的にはかる。このような「発信型」に向かうための手法は、具体的には、(1)研究者・学生が自ら海外において行う情報発信の推進、(2)京都発の外国語による情報提供の充実、(3)海外における研究教育拠点の拡充、の三つである。

  1. 研究者・学生が自ら海外において行う情報発信の推進
    「発信型」への重心移行のために最も効果的な手法は、研究者・学生が自ら海外に出向き、その教育研究機会に触れ、研究成果を発表することである。
    • 人材育成・獲得戦略
      京都大学学生の海外派遣の推進(情報発信力の高い人材の育成)
      「発信型」人材の育成は、特に学生に対し海外の教育研究機会を提供することにおいて大きな成果が期待される。京都大学の学生が海外における教育研究の経験 を積むための戦略の第一はその動機づけであり、第二は資金面での支援である。動機づけに有効な方法は、海外留学経験者あるいは海外の留学促進機関から刺激を受け、励まされることである。この目的のため、平成16年に第一回が開催され多数の学生の参加を得た「留学フェア」を毎年定期的に開催する。また、コロンビア大学、ハーバード大学、スタンフォード大学等米国の13有力大学が加盟し京都に拠点を置く「京都日本研究センター(KCJS)」との連携を強め、同センターが実施する英語による日本文化集中教育プログラムに本学学生を参加させることにより、語学能力や海外留学への意欲を高める。
      また、京都大学のフィールドワークの伝統を活かし、現地の自然・文化・歴史・政治・経済などを学ぶことを目的として、学部学生を短期間海外で教育する「国際交流科目」を充実させ学部学生の留学志向を高める。
      海外留学に係る資金の問題は学生の海外留学の際の障壁となっていたが、各種民間資金(京都大学アカデミックパートナーズプログラム、寄附金に基づく基金等を含む)による派遣留学生向奨学金を拡充することによりその解決を図る。
      研究者としてのキャリアを志向する本学の大学院学生にとって、内外で開催される国際的な学術会合で自らの研究成果を発表することは貴重な経験となる。この ため、例えば次項に述べる「京都大学国際シンポジウム」に参加できる機会を提供するなど、国際的な舞台で活躍できる環境の整備に努める。
    • 研究拠点形成戦略 
      海外における国際シンポジウムの開催
      京都大学は、本学独自の研究成果を海外において広めるため、平成12年度に米国カリフォルニア州サンタクララにおいて第一回を開催して以来、毎年度研究テーマとそれにふさわしい海外の主要都市を選び、「京都大学国際シンポジウム」を開催している。平成17年度は、北京(第六回)、バンコク(第七回)の二都市で開催したが、以後も原則として、毎年、二都市において開催する。なお、この選定にあたっては、全学的に開催計画案を募集し、国際交流推進機構において審議を行うとともに開催責任者と協議を重ね、「京都大学らしさ」が諸方面に伝わるシンポジウムとなるよう努める。
      国際的な学術会合の成功事例(および要再考事例)の集積・共有
      近年、京都大学の研究グループや部局が主催する国内外の「発信型」の国際的な学術会合、すなわち、海外において日本側研究者が主導的に開催する学術会合 や、日本において開催されるものであっても特に来訪外国人研究者に対して本学の研究活動の成果を伝えることを強く意識した学術会合が開催されるようになっている。これらの学術会合が高い成果をあげるためには、開催準備、実施運営、事後整理にわたる知識と経験の蓄積が重要であるが、各々の学術会合は独立した研究グループや部局内で単独で開催されることが多いため、全学的なノウハウの共有は行われにくい。このため、国際交流推進機構において各学術会合の報告書・アンケート等を集積し、分析を行いホームページその他のメディアで公表する。これにより全学的に情報を共有し、「発信型」の学術会合の有効性を高める。
  2. 京都発の外国語による情報提供の充実
    海外への発信の第二の有力な手法は、インターネット等のメディアを活用することである。
    • 人材育成・獲得戦略
      外国語ホームページ、国際学術誌における英語等による教員募集の拡充
      京都大学の教育研究の更なる発展のためには、国の内外を問わず優れた人材を求めることが必要である。しかしながら言語の障壁や組織運営をめぐる文化の相違などもあり、本学の教授、助教授等の中に占める外国人の数は少ない。また、海外から優れた人材を獲得しようとする意欲も必ずしも高いとは言えない。例えば本学のホームページ上での教員の公募において英文でも行われているものは少数である。国際交流課に設置される「国際交流サービスオフィス(仮称)」は、全学における英語による公的文書作成支援の業務を実施するが、その一環として大学ホームページにおける教員募集の英文要項作成の支援や、有力国際学術誌への教員募集広告掲載のための支援を行う。
    • 研究拠点形成戦略
      英文ホームページの研究情報の拡充
      京都大学ホームページにおいては、大学全体のページに加え、各部局のページにおいても各研究者・研究グループの研究活動の状況が掲載されているが、量的には日本語によるものが多く、英語をはじめとする外国語による情報は限られている。「国際交流サービスオフィス(仮称)」においては、大学本部、各部局におけるホームページの英文化の支援を行い、例えば研究者が作成した英文の研究成果情報には英語のページからアクセスすることが可能となるようにする。また、国際交流推進機構のホームページは、その機構の役割や機能にかかる情報にとどまらず、次第に内容を拡充させ、外国人が本学のホームページを利用する際の魅力的な窓口機能を果たすべく努める。
  3. 海外における研究教育拠点の拡充
    海外への発信の第三の方針は、海外に設置された研究教育拠点の拡充である。現在京都大学は、各部局がそれぞれに設置した30を超える海外拠点を有しているが、いずれも各部局における特定の目的に沿った活動を行っており、全学的な観点からは必ずしも有効に利用されているとは言い難い。このため、これらの海外拠点のいくつかについては、他部局にも有用で、運営部局をも利する活用法を探り、さらには全学的な海外拠点へとその位置づけを改める方向性の検討を行う。
    • 人材育成・獲得戦略
      海外拠点における現地学生・研究者への広報機能の強化
      現在の海外拠点の主な目的は、京都大学各部局の研究者の研究の遂行にあるが、全学をあげての対外広報の強化のためには、これらの拠点においてもその機能を 担うようにすることが重要である。このため、例えば派遣者の在留資格において認められる範囲で、現地の学生や研究者に対し本学の資料提供や意見交換等を意欲的に推進し、京都大学の理解者の増加をはかる。
      また、本学の各拠点がこのような活動を行っていることについて現地の学生、研究者への周知をはかるため、それらの拠点活動を国際交流推進機構ホームページに積極的に掲載する。
      海外大学との共同による教育協力拠点の形成
      京都大学は、200を超える部局レベルの学術交流協定を締結しているが、それらの中にはその部局の特長を活かした教育研究活動が行われているものも多い。 特に、平成17年10月に清華大学深セン研究生院に開設された寄附講座「日中環境技術研究講座」など、海外の有力大学との共同による本学学生・相手校学生の教育のための拠点の設置は、「発信型」の人材育成に有効である。国際交流推進機構は、各部局において行われるこのような努力に対して可能な支援を検討し実施する。
    • 研究拠点形成戦略
      海外拠点の連携強化による研究交流の活性化
      各部局が設置した30を超える海外拠点は、その設置目的に対して成果をあげているが、例えば同一都市に、機能の重複する複数の拠点が設置されていたり、ある部局が設置した拠点の運営のノウハウが他の拠点において活かされてなかったりするといった非効率面も見受けられる。各拠点が独自性を発揮することは重要であるが、同時に情報や施設を共有することにより高い成果をあげることも考えうる。
      情報の共有化については、国際交流推進機構においてこれら部局毎に設置された海外拠点の運営情報をとりまとめ、部局を越えた研究活動の促進を図る。また、施設の共有化については、国際交流推進機構において海外拠点の統合や現地法人化に向けた問題点を検討し、本戦略期間中に全学的研究拠点の形成を促進させる。
      なお、海外拠点における新たな活動が、派遣者の在留資格に反するなどの法令面における問題が生じないよう注意する必要があることから、この問題を検討する場を国際交流推進機構に設ける。

II.「バイラテラル交流」の充実と「マルチラテラル交流」への発展

海外の有力大学と協定を取り交わし、二大学間の交流を進めることは、国際交流の大きな柱となるものである。一方、地域を代表する複数の大学が大学連合を形成し交流を行うことは、二大学間交流の不足面を補い、教育研究交流に新たな地平を拓くものである。このような理由により京都大学は、「バイラテラル交流」を充実させるとともに「マルチラテラル交流」を推進する。

  1. 協定に基づく二大学間交流の強化
    二大学間において取り交わされる協定は、包括的な協定である「学術交流協定」と、教育交流(留学)を対象とした「学生交流協定」に大別される。人材育成・獲得戦略においては、「学生交流協定」に基づく交流の改善が大きな意味を持ち、また、研究拠点形成戦略においては、定期的に「学術交流協定」による交流のレビューを行い、実効性や問題点を明らかにすることが肝要である。
    • 人材育成・獲得戦略
      協定校を中心とした海外有力大学との間の単位相互認定に関する調査の実施とその結果に基づく制度の改善
      現在、京都大学は15か国26大学3大学群との間で授業料等を不徴収とする大学間学生交流協定を締結しているが、協定に基づく交換留学生が留学先で取得した単位が自国の大学において卒業に必要な単位としては必ずしも認定されていないという問題が、留学生の受け入れ側・派遣側双方において生じている。この問題を解決するため、国際交流推進機構において、海外有力大学との間の単位相互認定の実態や単位互換制度の実施可能性について、調査、検討を行う。
      多様な学生交流の検討の実施
      これまでの二大学間の学生交流協定に基づく交換留学プログラムは、双方の学生が1年間相手大学に留学するものが基本であったが、「京都日本文化センター(KCJS)」との間の協定に基づく交流(第3章「I.「受信型」から「発信型」へ」、「1. 研究者・学生が自ら海外において行う情報発信」参照)の開始に加え、2、3週間から1か月程度の短期学生受入制度の開始等、多様な学生交流の検討を実施する。
      「国際交流科目」による京都大学学生に対する海外経験提供の推進
      第3章「I.「受信型」から「発信型」へ」、「1. 研究者・学生が自ら海外において行う情報発信」において示された「国際交流科目」について、二大学間の枠組みにおいても実施する。
    • 研究拠点形成戦略
      学術交流協定に基づく交流の成功事例(および要再考事例)の集積と共有
      学術交流協定に基づく研究交流は、各研究者・研究部局が主体的に行うもので、協定発効時から全学交流枠が設定されている少数事例(ウィーン大学、パリ第7 大学、ストラスブール大学)を除き、全学的な支援は行われてこなかった。しかしながら、学術交流協定の多くが文言のみに終始していることから、国際交流推進機構は、協定に基づく学術交流について、それらを活性化させるための方策について調査を行い、その結果をとりまとめ公表する。また、協定に基づき交流を行った研究者に対しアンケート、面談等による調査、分析を行い、その成功・失敗要因を分析するとともに、要点を全学に公表、共有知識とする。
      国際連合大学との協定に基づく交流の促進
      国際連合大学は、国際連合とその加盟国および国民が関心を寄せる、緊急かつ地球規模の問題解決の努力に、学術研究と能力育成をもって寄与することを目的として設立された機関である。本学は平成17年7月に締結された学術交流協定に基づき、両機関に共通する研究テーマにおいて交流の促進を図る。
  2. 国際大学連合(APRU、AEARU)の主要メンバーとしての責務の遂行
    環太平洋大学協会(The Association of Pacific Rim Universities-APRU/1997年設立、同年加盟、加盟大学数36)は、環太平洋圏の主要大学により構成される大学連合であり、東アジア研究型大学協会(The Association of East Asian Research Universities-AEARU/1996年設立、1997年加盟、加盟大学数17)は、共通の関心を持つ東アジア地域の主要な研究型大学による大学連合である。京都大学は、これらの大学連合における主要なメンバーとしての責務を積極的に担うこととする。
    特にAEARUにおいては、本学の尾池総長が2006年~2007年の副議長に選出されており、任期満了後は更に重責を担うという慣行もあることから、3~5年間を視野に入れ戦略的に参画する。
    • 人材育成・獲得戦略
      APRU、AEARUの学生・若手研究者対象プログラムへの参画
      APRU、AEARUにおいては、APRUフェローズ・プログラム、APRUドクトラル・スチューデント・コンファレンス、AEARUスチューデント・ キャンプ等、学生・若手研究者向けのプログラムが多く開催されている。本学では、国際交流推進機構を通じ学内への周知をはかり、これらのプログラムに参加する学生、若手研究者を募り、経費面を含めた支援を行うとともに、参加した学生が次の催しの推奨役となるような仕組みを工夫する。また、財政的に可能である場合には、本学主導でこれらのプログラムを開催することにより、アジア・太平洋地域の学生、若手研究者の本学に対する関心と理解を高める。
      「東アジア圏学生交流推進ワーキンググループ(仮称)」の設置
      AEARUは、日本、中国、香港、韓国、台湾を代表する主要17大学により構成されているが、これらの大学を中心とした東アジア圏における二大学間、多大学間の学生交流に関するワーキンググループを国際交流推進機構に設置し、検討を行い、その成果としての交流モデルをAEARU加盟大学に提示する。なお、この検討においては、ヨーロッパや北米地域における交換学生プログラム等も参考とし、学位の質の保証、科目履修制度、単位認定、教授言語、授業料の徴収・ 不徴収、リスク管理など、幅広い対象を取り上げることとする。
    • 研究拠点形成戦略
      APRU、AEARUシンポジウムへの参画
      APRU、AEARU加盟大学が開催するシンポジウム、ワークショップ等について、国際交流推進機構を通し参加を募り、経費面での支援を行う。
      また、本学は2005年にリサーチ・シンポジウム「環太平洋地域における地震危険度-その予測と防災-」を開催し、APRU、AEARU加盟大学より高い評価を得るとともに、以後他の加盟大学が主催するリサーチ・シンポジウムのモデルとなった。将来的には、再び本学がリサーチ・シンポジウムを開催することにより、APRU、AEARUにおける更に高い責務を担うことも考えられる。

III.特定分野の交流への重点的支援

最も効果的と考えられる分野に集中的な交流支援を行うことは京都大学の重要な戦略である。本学の幅広い教育研究活動の中でも政府機関などの支援を得て行われる比較的大規模なプロジェクト、特に顕著な研究の蓄積がある地域との交流、新たに発展中の分野や学際領域における研究などに対し、国際交流推進機構が中心となり国内外における国際的な研究拠点の形成を促す。

  1. 先端研究プロジェクトの国際展開に対する支援
    本学においては21世紀COEプロジェクトをはじめとする数多くの先端的な教育研究プロジェクトが実施されているが、これらに対し、人材と研究拠点の両展開域において支援を行うことにより成果を高める。
    • 人材育成・獲得戦略
      先端的な研究プロジェクトにおける海外人材の活用
      多くの先端的な研究プロジェクトにおいて海外の人材が活用されているが、「国際交流サービスオフィス(仮称)」や国際交流センター等において、各種文書の英訳から新規入洛者の生活支援にいたるまでの幅広いサービスを提供することにより、さらに多くの優れた海外人材の活躍の場を広げることを可能にする。
    • 研究拠点形成戦略
      先端的な研究プロジェクトの国際シンポジウムの開催
      先端的な研究プロジェクト(21世紀COEプログラム等)の中から、国内外において国際的な重みを持つシンポジウムを開催しようとするものを全学から募り、国際交流推進機構において審議の上、開催経費や開催に向けた事務手続きの面において可能な支援を行う。
  2. アジア・アフリカ地域との交流拡充(フィールドサイエンスの伝統に立脚した研究教育の新たな展開)
    京都大学がこれまで行ってきた海外との研究交流の中でもアジア・アフリカ地域との長期にわたる交流の実績には顕著なものがある。この実績を踏まえ、アジア、アフリカ地域の全域、すなわち、朝鮮半島からアフリカ南部までの幅広い地域を戦略対象として捉え、それぞれの地域の特性に応じた交流の一層の充実をはかる。
    • 人材育成・獲得戦略
      アジアからの人材の育成・獲得
      人材育成・獲得面で特に重視すべき対象は東アジアを中心としたアジア地域である。この地域からは既に多数の留学生が本学で勉学に励んでいるが、「東アジア圏学生交流推進ワーキング・グループ(仮称)」(第3章「II「バイラテラル」の充実と「マルチラテラル」への発展」、「2. 国際大学連合(APRU、AEARU)の主要メンバーとしての責務の遂行」参照)の検討結果に基づきアジア地域から優れた学生を獲得する。
    • 研究拠点形成戦略
      アジア・アフリカ地域における多様な拠点の形成
      研究面でのアジア・アフリカ地域との交流は、これまでも様々な形態で実施されてきたが、今後更に地域的な特性を踏まえ多様に展開する。具体的には、現地の拠点(在外事務所、フィールド・ステーション等)を核とした研究活動の実施(アフリカ・東南アジアを中心)、大学間交流協定に基づく交流(各地、特に西・南アジア地域との全学レベルの交流の開始)、現地の大学等機関との間の包括的な教育研究共同プログラムの実施(中国をはじめとし、他の地域にも拡大)などが含まれる。
  3. 国際的な産学官連携の推進
    本学では、国際イノベーション機構を設置し、産業界等との共同研究の実施、知的財産権の取得・管理および活用ならびにベンチャー企業の育成等の支援業務を総合的かつ機能的に行っている。また、産学官連携活動は、外国企業との共同研究など国際的な広がりを持っており、これら国際的研究活動を支援する体制も同機構において整えているところである。
    なお、国際交流推進機構は、国際的な産学官連携活動支援に携わる人材育成等について、国際イノベーション機構との連携を密にする。
    • 人材育成・獲得戦略
      国際イノベーション機構の人材の拡充
      国際イノベーション機構に知的財産部を設置し、産業界で長年国際的な知的財産活動に携わってきた専門家を産学官連携研究員として採用し配置している。当面は、即戦力である実務経験者を採用することにより同機構における国際的業務の充実を図る。また、技術移転に係わる人材育成研修等を実施する関係機関と連携し、国際的な産学官連携活動支援業務を行うことのできる人材養成を行う。
    • 研究拠点形成戦略
      国際イノベーション機構による事業の支援
      国際的な産学官連携活動を行うにあたっては、外国企業等との共同研究の実施により生み出される知的財産権の取り扱いなどを定める共同研究契約書の作成や国際特許出願手続きなど、専門的知識を備えた教職員による支援が必要である。国際イノベーション機構では、経験豊富な産学官連携研究員による支援を充実させる。

IV.国際交流基盤の充実

上記I~IIIの基本構想の実現のためには、それを可能とする共通の基盤が必要であるが、これらの基盤の充実のためには、国際交流推進機構を中心とした全学的な地道な努力が不可欠である。なお、国際交流基盤は、教育研究全般にわたる幅広い事項を対象としていることから、戦略展開域としての「人材育成・獲得」と「研究拠点形成」の両域とは別に「共通戦略」域を設けた。

共通戦略

  1. 「国際交流サービスオフィス(仮称)」による全学的な支援
    全学的に外国人研究者や留学生の滞在を支援するとともに、各部局における業務の国際化のために必要な支援を行う施設として「国際交流サービスオフィス(仮称)」を設置する。同オフィスは、在留資格認定証明書代理申請の実施、留学生・外国人研究者に対する総合案内窓口業務、事務文書の英訳などを行うことにより、各部局・研究室の国際化を支援する。
  2. リスク管理知識の開発と学内共有
    リスク管理は大学の教育研究の場において極めて重要な課題である。特に国際交流については、海外における本学学生・教職員、そして本学における外国人研究者・留学生の安全・健康や被害者・加害者としてのリスクについて検討を重ね、理解を深め知識を共有する。具体的には、リスク管理ワーキンググループを設置し、検討結果を平成17年度末をめどにマニュアル等にとりまとめ、ホームページに掲載する。そして日常の国際交流においては、この検討結果に基づく危機管理を強く意識した業務を遂行する。
  3. 海外の大学運営等に関する調査の実施
    海外の大学における先進的な管理運営、国際交流、知的財産などに対する取り組みに関する実情調査のため、教職員を派遣する。また、その調査成果を国際交流推進機構においてとりまとめ、ホームページ等に掲載することなどにより全学的な知識の共有化を図る。
  4. 情報通信技術の活用
    情報環境機構との連携により情報通信技術を利用した国際的な教育研究活動を推進する。特にAPRU、AEARUなど国際的な大学連合に加盟する大学との間で情報通信技術を活用した遠隔教育、遠隔研究交流などを進める。
  5. 「国際交流セミナー」の開催
    国内外の大学の国際交流戦略の企画、実施等について、共通の問題を提起し解決策を探る場として「国際交流セミナー」を開催する。

人材育成・獲得戦略

  1. 海外出身人材が活躍可能なキャリアパスの明示
    京都大学は、留学生、ポストドクターの外国人研究員、客員教授、有期雇用の教員、終身の身分を有する(いわゆるテニュアードの)教授など、様々な形態により海外の人材を受入れ、勉学や研究の機会を供し、また、それら海外の人材は本学の教育研究水準の向上に大きく寄与してきた。しかしながらこれらの本学における機会は個別部局に受入れの事例はあっても全体的な制度的構図を描けるようにはなっていない。このため、国際交流推進機構を中心として、これら海外人材を受入れる一貫したキャリアパスのモデルをまとめ、それに基づき外国人向けの英文案内書を作成する。
    また、外国人が日本(特に本学)においてキャリアを形成する際の諸課題(資金提供機会、宿泊施設等の利用条件、英語による募集案内、社会保険・年金等)について検討を行い、改善策を提案する。
  2. 留学生・外国人研究者の受入環境の整備
    留学生・外国人研究者の受入れ環境の整備は緊急の課題となっている。このため、全学をあげて、以下の受入れ環境改善の検討を進める。
    • 多様な住宅提供の方途
    • 民間住居入居の際の大学として連帯保証制度の充実
    • 海外における、外国人学生を対象とした入学試験の実施と渡日前の正規学生としての入学許可の付与
    • チューター制度に加えたソフト面での留学生に対する支援
    • 事件、事故等に巻き込まれた際に経済的支援を行う基金の創設
    • 国内企業への就職や研修機会の開拓・斡旋活動の充実
  3. 民間資金によるスカラーシップ、フェローシップ制度の活用
    京都大学は、京都大学教育研究振興財団などの支援を受け研究者の派遣や招へいなどの国際交流事業を実施しているが、これらの支援は本学の国際交流の発展に大きく寄与している。また、本学は現在、京都大学アカデミックパートナーズプログラム、寄附金に基づく基金等、民間の資金を募り、各種の事業を実施する計画を進めている。これらの資金によるスカラーシップ、フェローシップの創設について資金提供者の意向を尊重しつつ検討を行い、可能となったものについて実施する。
  4. 元本学滞在の外国人研究者・留学生のネットワークの構築と活用
    比較的長期間、本学に滞在し帰国した外国人研究者や、本学を卒業した留学生等のメーリングリストを作成し、定期的な本学の情報の送信、アンケート調査等を実施することにより、本学と外国人研究者やの間のネットワークの構築に資する。
  5. インターンシップ等による国際交流担当事務職員の育成
    学生や研究者に加え、国際交流を担当する事務職員の人材育成も大学の国際化にとって極めて重要である。このため、カリフォルニア大学デービス校との協定に基づく事務職員の相互インターンシップの実施や、文部科学省の「国際教育交流担当職員長期研修プログラム(LEAP)」、日本学術振興会海外研究連絡センター研修生等の派遣制度等を利用し、国際経験豊かな人材を育成する。

研究拠点形成戦略

  1. 国際的な知的財産の利用に関する業務の充実
    国際交流推進機構と国際イノベーション機構との連携により知的財産に関する業務における国際競争力を強化する。
  2. 京都の歴史的、文化的蓄積の国際学術交流事業における活用
    京都の豊かな歴史的、文化的蓄積を国際学術交流事業に活かすことが可能となるよう、学術会合等において歴史的施設を利用する場合には、個別事業の企画段階や実施後において、学内への情報開示をうながし、これらの施設利用や信頼関係の維持につき、必要かつ適切な作法の共有をはかる。また、独特の自然観や美意識を持つ京都の生活文化を、海外から注目される環境保護の象徴としての「京都」の存在感の上昇に呼応しつつ取り入れることにより、人文学、社会科学、自然科学を包含する幅広い環境学教育研究分野の拠点の形成を図る。

第4章 本戦略の終了時に期待される状況

冒頭にも示したとおり本戦略は、おおよそ平成17年度から平成21年度に至る5年間に京都大学が採る国際交流における教育研究戦略を示すものであるが、この戦略期間の終了時において期待される京都大学の国際交流の状況は以下のようなものである。

言葉や文化的な差異による障壁を低くするための基盤の整備

本学において勉学や研究を行おうとする外国人にとっての障壁の一つは言葉であるが、ホームページや広報誌における英文の情報量の増加、留学生・外国人研究 者が提出する文書の英文による様式の整備、外国語で対応できる職員の数の増加など、外国人にとって本学の情報を入手し勉学・研究に専念しうる環境が改善される。

また、インターネットを利用した本学の教育研究の情報に対するアクセス性の向上、本学の海外拠点の活動の活発化、母国を離れて勉学・研究を行う際のリスクの低減などにより、相互理解へのゆとりが生まれ、文化的な差異という障壁が薄れ易くなる。

海外に開かれた教育・研究機会の提供とキャリア形成

渡日前に入学許可が与えられるケースの増加、英語による授業の増加、国際的な標準に則った成績証明の発行、派遣留学生に関する数と支援機会の増加、英語による教員公募案内の増加など、京都大学が内外の優れた人材の生涯のキャリア形成の場とすることができる環境が整備され始める。

本学学生および職員の海外派遣数の増大

学生交流協定の拡充、単位互換制度の試行、危機管理体制の構築のもと、学生の海外派遣の増大が図られる。一方で、事務職員の長期海外研修の機会を増加し、国際交流担当事務職員が着実に育成される。

世界各地における京都大学の研究活動の存在感の高まり

海外に設置された拠点が本学の研究者の研究のためだけではなく現地の学生・研究者との交流の場となること、充実したホームページのコンテンツなどにより海外においても容易に本学の研究教育に接することができること、国際シンポジウムの開催などにより本学の優れた研究拠点が世界の研究者から高い評価を得ること、そして外国人研究者による京都大学の研究活動へのアクセスを大幅に高めることなどにより、海外における、あるいは海外からみた京都大学の研究の存在感が高められる。

国際学術交流を軸とした、洛中洛外と本学との互恵関係の高まり

世界歴史都市、世界環境都市京都の新旧の文化的蓄積(先端産業文化も含む)を活かす学術活動の機会の増加により、本学の構成員のあいだに、出身国の差異を 超え、この地の独特の自然観、人間観、周囲への思慮に富む発想法などをよりよく理解し、あるいは体得したいとの機運が高まる。そのなかで、幾人かのすぐれた若手研究者が、「メード・イン・キョウト」という新たな国際ブランドの人材としての性格を帯び始める。

※ 本戦略の評価実施と次期戦略案の策定

なお、国際交流にかかる戦略は、当該期間が終了した時点において必要性がなくなるという性格のものではなく、さらに高い目標に向けた新たな取り組みが開始されることが期待される。このため、本戦略期間の終了年度においては総括的な評価を実施し、その評価の結果を新たな国際戦略の策定に反映する。

 

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