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2026年春号

巻頭特集

坂口志文 名誉教授 ノーベル生理学・医学賞 受賞記念 バナー写真

坂口志文 名誉教授

ノーベル生理学・医学賞 受賞記念

納得して一歩ずつ前に進む。
向かい風を突き抜けて掴んだ大きな成果

坂口志文 名誉教授

坂口志文

京都大学 名誉教授
大阪大学 特別栄誉教授

32歳でアメリカに渡り、制御性T細胞の研究を始めた当時は、免疫反応を抑える細胞の存在に多くの研究者は懐疑的でした。逆風に負けずに研究を進められたのは、持ち前の楽天さがあったから。「運鈍根」という言葉がありますが、重要さからすると「鈍根運」。周囲の声に振り回されず、納得して前に進むことが重要です。粘り強く続けていれば、運はあとからついてきます。

それに、正常なマウスの胸腺を除去すると自己免疫疾患に似た症状が現れるという確固たる現象が目の前にはあった。行き詰まっても、その現象に立ち戻れば何度でも再出発できました。主流の考え方と自分のアイデアとをつねに比較し、「私たちの研究も悪くない」と一歩ずつ前に進むうち、その先に新しい景色が見えてきた。気がつけば、臨床応用への展開にまで辿り着くことができました。

焦らず、独自の視点を育んで

免疫学との出会いは、京大医学部の学生時代。自己免疫疾患では、体を守るはずの免疫が逆に体を攻撃したり、過剰に反応してアレルギーを引き起こしたりすることを知り、「なぜそんなことが起こるのか」と、「免疫」という現象のメカニズムに惹かれたのが出発点です。

大切なのは、興味をもったことには、まずは一歩踏み出す姿勢。それと、成果がでるには時間がかかることを前提にじっくりと構えてほしいと思います。そうすることで、芽生えた興味は他人とは違う視点へと成長します。

この世界の現象のうち、サイエンスの理解が及んでいるのはほんの一部。新しい発見を目指すなら、現象を固定的に捉えず、さまざまな視点から眺めることが重要です。京大は主体的に学び、独創的なアイデアに価値を置く場所で、私もその風土に影響を受けました。焦らず、独自のものの見方を育んでください。

さかぐち・しもん

京都大学大学院医学研究科博士課程修了。ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員など、アメリカで12年間を過ごし、1995年に帰国。その後、京都大学再生医科学研究所(現・医生物学研究所)所長、大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授などを経て、2025年から現職。

坂口先生とは
25年来の
関係です

河本宏 医生物学研究所 教授

案内役 メタ爺
河本 宏
医生物学研究所 教授

数十年、追い求めた制御性T細胞

1977

マウスの胸腺を取り除くと自己免疫疾患を発症する現象と出会う。免疫反応の要のT細胞ができる場所を除去したのに、なぜ?

坂口先生

では、攻撃を抑制する細胞も胸腺にいるのではないか?

手がかりは、T細胞の表面を構成する分子。T細胞の種類ごとに、発現する分子が違うのだ。

まずはCD5分子に注目してみよう!

1985

胸腺を除去したマウスにさまざまなT細胞を移植

CD5分子を強く発現する細胞と自己免疫疾患の発症に関連あり。この細胞に免疫を抑制する機能があると確信

しかし、CD5分子はT細胞の約80%で発現

もっと特異的な分子に絞り込まなければ!

1995

CD25分子の発現がより信頼できる目印であることを発見

この分子が発現する細胞が

「制御性T細胞(Tレグ)」

制御性T細胞の存在を
世界で初めて
証明しました

1999

京都大学再生医科学研究所(現・医生物学研究所)に着任し、さらなる研究を展開。

ノーベル賞学者を2人輩出!
京大再生研の先見の明

河本坂口先生が再生研に着任した当時、Tレグの存在に世間はまだまだ懐疑的でした。しかし、再生研の教授は「これは本物だ」。世間の潮流とは違う視点を恐れない、京大の校風だからこそ、Tレグ研究は発展したのかもしれません。1998年に胸部疾患研究所と生体医療工学センターが統合され、再生研が発足。次々とすごい教授が着任され、当時の活気には、私も刺激を受けました。

2003

Tレグの遺伝子

Foxp3を発見

Tレグを分子レベルで
同定できるようにした大発見。
多様な実験や検証が可能になり、
論文の引用数が爆発的に増加

2025

ノーベル生理学・医学賞「末梢性免疫寛容に関する発見」

制御性T細胞(Tレグ)の発見がいかに免疫学の重要な発見かというと……

制御性T細胞は、
最大の難問
「自己寛容」の仕組みを
解明する重要なピース

獲得免疫の重要なピース
「自己寛容」

獲得免疫の重要なピース「自己寛容」

そもそも免疫の仕組みとは……

免疫の仕組み
イラスト:河本 宏

Tレグが拓く医療の未来

Tレグの働きを強める=免疫反応を抑えれば……

  • 自己免疫疾患やアレルギーの治療
  • 臓器移植時の拒絶反応を抑制

Tレグの働きを弱めたり、取り除く=免疫を高めれば……

  • がん治療への効果が期待

免疫学の大先輩、そしてともに戦う同志

河本宏 医生物学研究所 教授

河本 宏
医生物学研究所 教授

坂口先生との出会いは25年前。当時の印象は、なにを尋ねても誠実に教えてくれる先輩。会話の節々から、免疫学の本質を学びました。

私の専門は、制御性T細胞と同じ獲得免疫系のキラーT細胞。坂口先生とは、T細胞を使う治療法の考え方で意気投合し、T細胞療法の開発を目指す「レグセル」の創業メンバーに加わりました。対象疾患の違いなどから分社化した今も、ともに戦う同志として協力を続けています。

暗闇の中でランプを灯してTレグを見つける坂口先生と教子先生のイラスト
(作画:河本 宏 国際KTCC 2026 HPから転載)

坂口先生がよく口にするのは、「街灯の下で鍵を探す」というアラブのたとえ話。暗闇に鍵を落としたのに、「なにも見えないから」と街灯が照らす場所ばかり探す男の話です。これを引用しながら、「明るい場所ばかり見ていてもだめだ。真実は影の中にある」と。学問のトレンドに流されることなく、逆風にも負けずに向き合い続けた先生の姿そのものです。

右のイラストは、そんな話に着想を得て、暗闇の中、自身でランプを灯してTレグを見つける坂口先生の姿を描いたもの。先生と研究をともにされ、自身でも論文を発表されている奥様・教子先生の姿も描きました。
(作画:河本 宏 国際KTCC 2026 HPから転載)

蘇州での坂口先生との散歩写真
坂口先生といえば散歩。思索を練りながら、川沿いを小一時間歩くそうです。2016年9月に中国の蘇州で開かれた学会で「早く到着したから散歩しよう」と誘われ、会場の周囲を歩いたときの写真。目的地は決めずに、好奇心の赴くままに歩きながら、とりとめない話をしました

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