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私を変えた あの人・あの言葉

2022年春号

私を変えたあの人、あの言葉

ドラマティックなことなんてない。でも、意味は確かにあったのだ

山西利和さん
愛知製鋼陸上競技部/東京オリンピック競歩代表

2016年9月4日、大学3回生で出場した第85回日本学生対校選手権(熊谷インカレ)。10000m競歩を40’38”01で優勝(左が山西さん)

想像していたより、「変な人」は少ないんだな、それが京都大学に入っての感想でした。ドラマのような出来事がある訳ではなく、毎日粛々と競歩と学問に打ち込む4年間を過ごしました。と言うと、あまり面白味のないように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。先輩の姿、未来のオリンピック、目の前にはいつも目指すものがあり、がむしゃらにそれを追いかけ続けていました。

京大という選択に後悔はない

陸上の強豪校にも声をかけられましたが、高校時代と同じ、京都という環境で練習できる京大を選びました。学問は手を抜けないし、陸上競技部には指導者はおらず、陸上で上を目指すには決して万全の環境ではありませんでした。温度差を感じることもありましたが、強豪校へ行けば良かったと思ったことは一度もありません。競技へのモチベーションや能力は人それぞれで違います。それはどんな強豪校にいたとしても当たり前。ならば、この場所で、私らしく競技をしよう。そう思っていました。

与えられた環境で私には何ができるのかを考え、多様な人との関わりの中で最善手を探し続ける。指導者がいない分、活動の自由度は高く、無限大の可能性の中で、自分に問い、思考し続ける環境は、私に合っていたように思います。

信じてくれる人たちとの出会い

「変な人」は少なかったのですが、「エネルギッシュな人」はそこかしこにいました。自分の好きなことに邁進する人に囲まれた環境は、今振り返ればとても恵まれていたと感じます。アカデミックな分野では、到底敵わないと感じさせる人がそこら中にごろごろいましたし、陸上でも尊敬すべき競技者にたくさん出会えました。

練習後、部室で寝そべりながらフォームを分析する私に付き合ってくれた友人が、私の競技生活の大きな心の支えでした。動画をコマ送りしながら自分のフォームをああでもないこうでもないと熟考する私に、文句も言わずによく付き合ってくれたものだと、今思っても感謝の念が尽きません。

東京オリンピックの20km競歩で獲得した銅メダル

大学での競技生活は決して順風満帆ではありませんでした。あと一歩のところで手が届かなかった代表への切符、思うように伸びない記録。実力が第一の競歩の世界で、迷い立ち止まりかけることはありました。そんな中で支えてくれたのは、やはり仲間の言葉。「山西ならできる」と信じてくれる人がいたから、私はここまでやってこられたのだと思います。その思いは、オリンピアンとなった今でも変わりません。

京大での4年間で、特に劇的な変化があったという訳ではありません。しかし、京大での出会いと経験とを胸に歩みを進める私がいるのもまた確かなのです。


やまにし・としかず
1996年、京都市に生まれる。2018年、京都大学工学部を卒業。高校時代に競歩を始め、世界ユース陸上競技選手権大会に日本代表として出場するなど活躍。2018年に愛知製鋼に入社。2019年に世界陸上選手権男子20km競歩で日本人初の金メダルを獲得。東京オリンピックの20km競歩では銅メダルを獲得した。

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