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輝け!京大スピリット

2021年春号

輝け! 京大スピリット

青春とロマンを 手作りの飛行機に託して

鳥人間チーム ShootingStars
代表 松本響輝さん(工学部2回生)


代表の実務の他、パイロットが乗り込むフェアリング部の製作も担当。安全面はもちろん、空気抵抗も考慮しながら納得のいく機体に仕上げていく

全長30メートルの両翼に、水の入ったペットボトルを慎重に吊るしていく。1本増えるごとに翼のたわみは増し、緊張が走る。翼が重さに耐えたことを確認し、メンバーの表情は和らぐ。「設計図は完璧でも製作段階でほんの1ミリメートル多くヤスるだけで結果は変わります。空を飛ぶ姿を見るまで気は抜けません」。「鳥人間コンテスト」出場への第一関門、荷重試験を完遂し、松本響輝さんは晴れやかな表情を浮かべる。

琵琶湖を舞台に、人力飛行機の滞空距離を競う「鳥人間コンテスト」。「空を飛ぶ」という夢を手作りの飛行機に託す人たちの姿に、松本さんは魅せられてきた。その情熱は、入学と同時に入部を決めたほど。

しかし、2020年、新型コロナウイルス感染症の影響でコンテストは中止。課外活動の制限で製作もできず、3回生は自分たちの機体を完成させることなく引退を迎えた。松本さんたち2回生は、製作を通して身に付けるはずの技術と経験を充分に得られぬまま、後輩を率いる立場に。「おまけに新歓の中止で新入部員は現状いない。30年以上続くチームが終わる。僕が動かなければ、京大鳥人間はもう飛べないと......」。

責任感に背中を押され、10月に制限が緩和されるとすぐさま奔走。感染防止のガイドラインなど、必要な事務書類を何十枚と作成した。「いち早く活動を再開し、オンライン新歓で17人もの1回生が入部してくれたのは大きな希望です」。先代の機体を引き継ぎ、2021年7月のコンテストに向けた挑戦が始まった。

2020年の荷重試験。機体のフレームが安全強度を満たしているかを確認する

京大チームの機体の特徴は、最後尾に付いたプロペラ、通称〈ケツペラ〉。「機能上の利点もありますが、〈かっこいいから〉というロマンとこだわりで選んだ部分が大きい。ケツペラで遠くまで飛べると証明したいのですが、なかなか......」。工学の知識をもとに設計する機体は高性能だが、コンテストでは記録を残せていないのが現状。しかし、「順位は気にしていない」と屈託なく笑う。「勝ち負けは考えたことすらないかも。設計から製作、運用まで全てを担った機体を飛ばしたい、飛んでほしいという想いだけ」。

滑走路や広い河川敷のない京都では、活動のほとんどは分割された機体と向き合う時間。翼を広げた姿を見られるのは、テスト飛行と本番のみ。そのため、機体が飛び立つ瞬間の感動は大きい。「やっぱり飛行機は飛んでこそ。あの光景を見て、僕は鳥人間の〈沼〉から抜け出せなくなった。後輩たちを早く、あの場所まで連れて行きたい」。淀んだ雲を熱意が切り裂き、松本さんの目は再び青空を捉えている。雲が晴れるまであと少し。2021年の夏、彼らの前には、どんな景色が広がっているのだろう。

2019年に岡山県で実施した試験飛行。OBも集まり、チーム一丸となり機体を見守る

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