京都大学広報誌
京都大学広報誌『紅萠』

ホーム > 紅萠 > 施設・職員紹介

京都大学をささえる人びと

2021年春号

京都大学をささえる人びと

原子力科学の飛躍は徹底した安全管理があってこそ

藤原靖幸さん
複合原子力科学研究所 / 研究炉部 技術室 研究炉管理計画掛長

原子力の利用は発電だけではない。工学、理学、化学、農学、医学などの学術分野でも実験や分析、技術開発などに広く利用されている。「複合原子力科学研究所」は原子炉や加速器などの利用を通して原子力科学の発展に貢献する研究施設。日々の保守点検から、想定外の自然災害への備えに至るまで、その全てを担う技術室は、日本の原子力科学を支える要石だ。

複合原子力科学研究所は、研究用原子炉の利用を中心とする共同利用研究施設。国内唯一の大学附置中型研究炉「KUR(Kyoto University research Reactor)」と、原子炉そのものの研究や教育活動を目的とする臨界集合体実験装置「KUCA(Kyoto University Critical Assembly)」の2基の原子炉の他、加速器などの関連設備を有する。

原子炉と聞くと発電などの商業利用を思い浮かべるが、研究炉は核反応を研究利用することが主眼。核分裂で生じる中性子を利用する「放射化分析」では、調べたい物質に中性子を照射して放射性物質にすることで元素分析などを行う。小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから持ち帰った物質もその一例。他にも、放射線や粒子線を利用したがん治療の研究や、新型蓄電池の研究開発など、様々な分野の研究者が日本各地から研究所を訪れる。

「いつもと違う」を見逃さない

バラエティに富んだ研究を支え、研究に使用する施設の安全管理を行うのが、藤原靖幸さんが所属する技術室だ。藤原さんが担当するのは中型研究炉KUR。研究者が思う存分に利用できるよう、設備の運転・保守・管理に細心の注意を払う。「しっかりとした安全管理の下で研究炉をコントロールした運転をすることで、様々な研究のための実験に対応しています」。

 安全管理の仕事の一つとして1日2回の巡視点検がある。「点検でチェックしているのは、『異常がないか』だけではなく、『いつもと同じ状態ではないことがないか』。安全性には問題のない範囲の変化でも、確認の対象です」。原子炉内を満たす軽水の水面から核燃料までは約7メートルの深さがあるが、その水面が5センチメートル下がっただけで警報は鳴る。所員同士での連絡・報告を徹底し、些細な変化を見逃さぬよう、一丸となって研究炉を管理している。

「安全」が支える原子力の未来

研究所にとって大きな転機となったのは、2011年の福島第一原子力発電所の事故。以来、法制度や審査基準は厳格さを増し、クリアできない原子炉は活動を停止せざるを得なくなった。「震災以前から厳しい点検ルールを設けてはいましたが、さらに管理を厳密にするために施設の図面を刷新したり、研究炉の細かな変化を記録して報告書にまとめたり、不慣れな作業も増えました」。新たな基準に基づく審査では、滅多に起こらない竜巻などの自然災害まで想定した対策が求められるなど、数々の課題に頭を悩ませる日々。「原子炉は危険」というイメージを払拭しようと、石橋を叩いて渡るような地道な努力を重ねた。

その甲斐あって、KURは稼働の可否を決める重要な審査をクリアし、現在も継続して稼働している。「安全審査のためのヒアリングや審査会合のために東京の原子力規制庁に何度も足を運びました。この審査が一番の大仕事でした」。その奮闘ぶりが評価され、2020年には研究所の運営に貢献した所員を表彰する「所長賞」を受賞した。

原子力を取り巻く環境とともに、研究所もまた変化を求められる。今後新たに取り組むのは、福井県の高速増殖原型炉「もんじゅ」跡地での新規試験研究炉の開発。将来の原子力研究と人材育成を担う中核拠点形成のための文部科学省委託事業に、日本原子力機構、福井大学とともに挑む。新たな課題は増えるが、藤原さんの芯はぶれない。「目指すのはどんなときも安全第一。そのうえで、研究炉としてどれだけ貢献できるのかを追究したい」。その誠実で堅実な仕事ぶりが、未来の原子力科学に架かる橋を支え続ける。

研究所は関西国際空港にも近い、大阪府泉南郡熊取町に位置する。物理学、化学、工学、医学など、22の研究分野の研究者が研究に励む

中型研究炉KUR。直径2メートル、深さ8メートルのタンクに水を張り、底部に炉心が設けられている。日本各地から研究者が利用に訪れる


ふじはら・やすゆき
1978年、大阪府に生まれる。関西大学卒業。

施設・職員紹介

関連リンク

関連タグ

facebook ツイート