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追憶の京大逍遥

2020年秋号

追憶の京大逍遥

モラトリアムの時間、闇鍋のごとし地下空間

福原伸治さん
BuzzFeed Japan 動画統括部長

当時、なぜか大学の講義に出るのはカッコ悪いみたいな風潮があった。教養課程を終え、専門に進んでからは講義には出なくなった。その代わりに学部の建物の地下に入り浸るようになった。

サブカルの闇鍋 「カフェ・ガラパゴス」

ある日、壁に貼ってあるビラに浅田彰氏の自主ゼミのお知らせが。当時、『構造と力』を発表したばかりで「ニュー・アカデミズム」の旗手として注目されていた。以前から氏の文章の切れ味に感銘を受けていたので覗いてみようかと。

法経済学部本館の地下にそれはあった。「カフェ・ガラパゴス」という名前。中に入るとコンクリートに覆われた階段下の倉庫といった感じ。壁には「ゲバ字」の立て看板やゴダールのポスター、ずっとジャズが流れていて、なんだか政治やらサブカルの闇鍋みたい。そこは 経済学部同好会の本拠地であった。

奥から、起きたばかりの髪が腰まであるおじさんが出てきた。「たけちゃん」と呼ばれるその人はここにずっと住んでいるらしい。熊野寮にも部屋があるようだけれど、ほぼここにいるらしい。ガラパゴスの主のよう。そのたけちゃんと話して、ここに入る許しをもらったように憶えている。

地下にうごめく烏合の衆

1980年に開催された第22回11月祭のポスター

大学に来て講義も出ずにここに入り浸っていた。そこには次々にいろいろな人がやってきた。院生や助手の方々だけでなく、音楽家崩れの人、学生運動崩れ、たぶんなにかから逃れている人、そこに住んでいる人。人まで闇鍋みたい。ただそこに集まっていろいろな話を聞いていた。哲学や最新経済学から映画や音楽、文学などいわばサロン的な場。

何より面白かったのが、浅田 彰氏の話を聞くことだった。当時、スターダムをのし上がりつつあった浅田氏が東京から持ち帰る最新の文化状況や、膨大な知識から発せられるあらゆるジャンルの話にとてもワクワクしてまるで超高速で映画を見てるようだった。

11月祭の時期になると、浅田氏の知名度を生かして東京から著名人を招き、多くの動員を図ったり、地下でディスコをオールナイトで開催してそこそこ荒稼ぎ。ガラパゴスはこのまま永遠にいたいと思わせるような場であった。

講義だけじゃもったいない

大学で得られる学びのひとつは「人」だと思っている。もちろん講義や本もそうだが、いろいろな考えや背景や属性をもった人が議論やバカ話をすることで世界を拡張していく。生産的とかそういうことを考えずに話し合える時期は、本当は人生において限られる。それが大学時代なのだろう。

京都大学は特にそういう「人」たちの集まりでもある。「自由の学風」だからなのか、そういうことだから「自由の学風」なのか、おそらくは双方だろう。学生時代のそうした資産がいまでも基礎になっている人は多いと信じたい。

講義に出るのがカッコ悪いんじゃない、講義にしか出ないのがカッコ悪いんだ。とはいえ、講義ももっと出ていればよかったかもと今になって思う。

1984年の吉田南構内の雑踏


ふくはら・しんじ
1963年、大阪市に生まれる。京都大学経済学部を卒業。1988年に株式会社フジテレビジョンに入社。前衛的でエッジの効いた番組を多数演出。とくにCGを大胆にもちいて、日本初のヴァーチャルスタジオ番組といわれる科学情報番組『アインシュタイン』(1990年)や子ども番組『ウゴウゴルーガ』(1992年)はその代表作。早くからテレビとネットの融合に尽力するなど活動はテレビ番組にとどまらず多岐にわたる。2018年3月末でフジテレビを退社し現職。

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