2018年春号
輝け!京大スピリット
優秀女性研究者奨励賞
久保田結子さん
工学研究科 博士後期課程3回生
「直観的に『宇宙だ』と思いました」。大学でしかできないテーマを探すなかで、久保田結子さんに研究者として輝く自分を強くイメージさせたのが「宇宙」だった。「地球には固有の磁場があり、その影響で地球付近の高いエネルギーをもつプラズマ粒子は地球を取り囲むように高速で動き回ります。このプラズマ粒子群を放射線帯とよびます。放射線帯は宇宙飛行士の被曝や、人工衛星運用の障害を引き起こす場合があり、その発生メカニズムを知ることは人類の宇宙環境利用を発展させるうえで必要不可欠です。放射線帯の増減に影響する現象を探るのが、私たちの研究です」。
放射線帯の変動原因として久保田さんが着目するのが、放射線帯粒子よりも大量に存在する低いエネルギーのプラズマ粒子によって生成される電磁波動だ。「大量の粒子がつくり出す波動が一部の特別な粒子を加速させて、放射線帯を構成する高速粒子を生みだすのです」。この現象を証明し、京都大学の優秀女性研究者奨励賞を受賞した。「30年前までは、対象の粒子の動きを単純化して全体の動きを捉える『近似の研究』が主流でしたが、それでは実際の観測結果に現れる急激な変化は表現できません。現在のスーパーコンピュータの性能ならば、粒子一つひとつの軌跡を厳密に求めながら放射線帯全体の変化を定量的に確認できるはずです」。
現在、その放射線帯全域を評価できるシミュレーターを開発中だという久保田さん。「この手法に着手できるのは、数十年間でパソコンの性能が飛躍的に上がったからです。過去の研究者が近似でしか表せなかった現象もいまならすべて計算できるはず。この研究が地球物理学の発展の一端を担えたらとてもうれしいです」。 「この研究の分野では、私たちは新興勢力です。しかしそのぶん、いまだだれも確認していない現象や結果をいちばんに発表できます。この研究に興味を示された著名な先生が学生ではなく『一人の研究者』として私と議論してくださる、研究をつづけてよかったと思う瞬間です」。
「京都大学には研究のかたわら、多くの得意分野や趣味をもつ人が多いです。なにごとにもエネルギッシュで、尊敬できる方がたくさんいます。私も追いかけたいです」。そう聞いて、波動粒子の話を思い返した。個性豊かな人たちの集う京都大学という空間にいる彼女が、仲間との交流や学会での刺激を得て、勢いよく突き進む姿は、一粒の加速粒子と重なる。シミュレーション研究のトップをねらう、久保田さんの加速はとまらない。