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輝け!京大スピリット

2017年秋号

輝け!京大スピリット

分かれた枝の先に宿る有機化学のおもしろさ

平成28年度 京都大学総長賞
大木暁登さん
大学院工学研究科 博士後期課程2回生

「木材」を意味するラテン語から命名されたリグニンは、木材の成分の約3割を占める高分子化合物。これを加熱して分解するとフェノール類とよばれるさまざまな物質が得られる。しかし、そのままではプラスチックなど化成品の原料にはならず、リグニンは不要なものとして捨てられることがほとんどだった。大木暁登さんが発見したのは、このフェノール類を有用な原料に効率よく変える反応だ。(図1)

「太陽光などの石油を代替する再生可能エネルギーの活用は拡がっていますが、これらは身のまわりの化成品の原料にはなりません」。大木さんの発見は、再生可能な木材を原料として化成品をつくる第一歩。この成果を認められ、GSC Student Travel Grant Awardを受賞、日本の大学院生の代表の1人として、香港で開催された国際会議でポスター発表をした。「化学の幅広い領域からの参加者を前にした発表に緊張しました。ふだんの聴衆は、専門領域の近い人たちがほとんど。この領域に詳しくない人たちにも自分の研究をわかりやすく説明することのむずかしさと重要性を再確認しました」。

香港での国際会議までにも、海外での発表や留学の経験を積んできた大木さん。海外に行ってわかったことは、京大生のレベルなら海外の学生とも充分に勝負ができるということ。でも、学会などで著名な学者にも気軽に話しかける、そんな積極性が足りないという。「帰国してからは、どんな方にも臆せずに話しかけるようにしています。一流の研究者との対話から学ぶことはたくさんあります」。香港での国際会議では、参加されていたノーベル化学賞受賞者の根岸英一先生に毎日のように声をかけ、質問攻めにしたとか。「有機化学のことからノーベル賞の裏話まで、いろいろな話を聞きました」。

高校時代、塾の先生だった大学院生に有機化学研究のおもしろさを教えてもらったのが、この道にすすむきっかけだった。「数学や物理は、才能のある人が一本道をどんどん切り拓いていくイメージでした。でも有機化学は、炭素を中心とする限られた種類の元素の、無限の組み合わせを探求する学問です。むりに先頭に立とうとしなくても、思いもしないところからおもしろい脇道が見つかる学問だと知り、魅力を感じました」。現在の研究室を選んだのも、そんな脇道の探索に寛容だったことが理由の一つ。

科学における大発見は偶然から生まれることが多いが、大木さんの発見も、べつの目的の実験をすすめるなかで、偶然気がついたことを突きつめた成果だという。「『なんであの研究室なのにこんな研究をしているの?』と言われるのが目標です」。大木さんの研究がその名のとおり「大きな木」に成長したとき、その枝の先には意外な成果がたくさん実っていることだろう。

フェノール類を有用な原料に効率よく変える反応

(図1)フェノール類を効率よく分解することができるようになると、木を原料としてさまざまな化成品をつくれるようになる

香港での国際会議に参加されたノーベル化学賞受賞者の根岸英一先生との一枚

香港での国際会議に参加されたノーベル化学賞受賞者の根岸英一先生との一枚

研究仲間を集めてのキャンプの様子

最近とくにハマっているのは、研究仲間を集めてのキャンプ。「研究の話もしますが、たいていは関係ない話でもりあがります。自然のなかでいったん頭をリセットすることで、それまでとはちがう発想で研究に取り組めます」

青い実験着を着て研究する大木さん

青い実験着は留学先(カリフォルニア大学アーバイン校)のブラム先生からのプレゼント。本来は教員と在学生しか買えない一品だとか

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