京都大学広報誌
京都大学広報誌『紅萠』

ホーム > 紅萠 > 学生・卒業生紹介

2016年春号

輝け!京大スピリット

最小限の動きのなかに、ゆれる心を映しだす

観世会
総務 竹内真理さん(工学部3回生)
   清水桜子さん(工学部3回生)

ボックス棟地下の部室に招かれた。磨きあげられた白木の舞台、正面の鏡板には堂々たる松。

出迎えてくれた総務の竹内真理さんは、ジーンズに白足袋姿。30cmほどもある扇を手に、舞台に上がる。松を背に並ぶ地謡たちと対座し、丁寧に一礼。くるりとふり返り、扇を開くと、彼女の謡が部屋に低く響く。見せ場だけを抜き出した5分ていどの「仕舞」の練習だが、緊張感が漂う。

京都大学能楽部には流派ごとに観世会、金剛会、宝生会と狂言会の4つのグループがあり、この舞台を共有する。観世会の部員は15人。稽古は週3回で、月に数回はプロの能楽師の指導を仰ぐ。神社や寺院での年に数回の合宿で鍛えあげた舞を、11月の「京都大学観世能」で披露する。京都観世会館を貸し切り、プロの能楽師さながらに面や装束をつけて上演する大舞台だ。「来年の観世能は集大成。悔いのない舞台にしたい」と竹内さんは意気込む。

竹内さんが演じるのは「難波」の王仁。王仁が老翁のすがたを借りて治世を祝福する。入学して間もなく能と出会い、「わからなさ」を「わかりたい」と一念発起し、能の世界に。「一筋縄でいかない」能の深みにはまっているという

部員の清水桜子さんは、謡本を取り出して、基本となる所作や型をやさしいことばで教えてくれた。能には何百もの演目があるが、立ち方から手足の動かし方まで、型はすべて決まっている。「最小限のシンプルな動きで最大限の演出をする。それが能の奥深さです」。ほかの流派とくらべて、とくに観世流の型はわずかな動きで表現されるという。

能は謡と足踏み、囃子がかけあわされて、独特のリズムを生み出す。「西洋のとはまったくちがうリズム。それでいて調和があって、心地よい」。清水さんはその音楽性に惹かれるという

能の表現は、私たちが慣れ親しむテレビドラマや映画の演技とはまったくちがう。声に出して泣きわめいたり、笑ったりはしない。竹内さんはうつむき加減に、きれいにそろえた指先をほんの少し目元に近づける。「この動作を『シオリ』といいます。泣くときは、『シオル』だけ。感情が凝縮されたしぐさで、悲しみを伝えるのです」。

「能のために心がけていることは?」とたずねると、「稽古や礼儀作法を『ちゃんとする』ことに尽きる」と二人は声をそろえる。「能は日々の鍛錬が欠かせない武道のようなもの。かたちだけ整えることはできても、真摯に取り組むことでしか表現できないものがある。そういう域にまで到達したい」。姿勢を正して稽古に挑む彼女たちの声は、檜舞台に凛と響く。

能では、扇を刀や鏡に見たて、さまざまな動作を表現する。これは布団で眠るようすなどを表す「枕ノ扇」

4時間半の稽古で、「謡」と「舞」の型をくり返し練習する。先輩が後輩を1対1で教えるのが基本。「ことばで伝えられることは、限られています。最終的には自分で体得しなければ、身につきません」

学生・卒業生紹介

関連リンク

関連タグ

facebook ツイート