京都大学の新輝点

山西 利和

04 目指すは東京五輪金メダル 積み上げる鍛錬とデータ、勝利の先への思考(愛知製鋼陸上競技部/東京オリンピック競歩代表 山西 利和)04 目指すは東京五輪金メダル 積み上げる鍛錬とデータ、勝利の先への思考(愛知製鋼陸上競技部/東京オリンピック競歩代表 山西 利和)

 2019年10月にドーハで開催された世界選手権男子20km競歩で優勝し、同種目の東京五輪代表に決まった山西利和さん。高校時代に競歩の才能を開花させ、2013年の世界ユース選手権(現U18世界選手権)10000m競歩で金メダルを獲得。翌年2014年に京都大学工学部へ現役入学を果たしてからも、数々の記録を残しています。そんな京都大学でも異色のアスリート卒業生に、大学が自身に与えた影響や競歩への想いをうかがいました。

山西 利和 Toshikazu Yamanishi

1996年京都府生まれ。堀川高校(京都市中京区)卒業後、2014年に京都大学工学部物理工学科(機械コース)に進学。陸上競技部にて日本インカレ10000m競歩での2回の優勝のほか、日本選手権で学生新記録を樹立した。2018年、実業団陸上競技部のある愛知製鋼株式会社に入社。スペイン・ラコルーニャで開かれた国際陸連グランプリ競歩(男子20km競歩)、カタール・ドーハで開催された世界選手権(男子20km競歩)で日本人初の優勝を獲得。東京オリンピック内定を果たす。

勉強が得意な子どもが目覚めた
長距離を「淡々と走る」楽しさ

 走る楽しさに目覚めたきっかけは小学校のマラソン大会です。それも別に優勝とかじゃなくて20位ぐらいだったんじゃないかな。でも普段からすごく運動をしているわけじゃない自分が、陸上部やサッカー部で毎日走っているような子たちに混じって、いい結果を出すことができた。それが嬉しく、また純粋に淡々と走る長距離走という競技が楽しかったんですね。それで中学から陸上部に入りました。

 それまで水泳教室には3年ほど通っていましたが、小学校時代はどちらかというと勉強系の習い事が多かったですね。公文式に小学3年生から通い始め、塾に行き始めたのも小学5年生の冬だったかな。勉強は嫌いじゃなかったです。できるから楽しいという感じで。でも「スポーツをしてみたい」という欲求もあって、中学から陸上競技を始めたんです。「長距離走ならできるんじゃないかと」という消去法の選択ではあったんですけどね(笑)。

山西 利和
陸上強豪大への道が拓けるも
京都大学への進学を選択

 中学卒業後に京都市内にある堀川高校に進学し、陸上部に入部。そこで顧問だった船越康平先生と出会い、競歩に真剣に取り組むようになりました。「レース後半でも崩れない歩形(フォーム)の美しさ」が私の競歩選手としての持ち味ですが、それは船越先生が「歩形の美しさ」をスローガンに指導してくださったことが大きく影響しています。競歩という競技は、一番美しい動きが結果的にいちばん速いんですよ。そうした指導を経て、高校では最終的に18歳以下での世界一獲得へとつながりました。

 京都大学に進学した理由は、端的に言うと、通学圏内にあって学力水準が高い大学だったからです。強豪陸上部がある私立大学からの誘いもありましたが、競技はいつかはやめるときが来ます。将来のことを考えたら学業は大切だと考えました。また堀川高校からも近いので、恩師である船越先生に週に1、2回は練習を見てもらえるというメリットもあり、あえて京都から出ることもないなと。もうひとつの理由としては、強豪大学には高校時代から陸上競技一筋で取り組んできた選手が集まってきますよね。でも私は朝から晩までガチガチに練習していたわけではありません。自分とはバックグラウンドの違う選手が集まる環境に入ることは、必ずしも正解ではないのではという考えもありました。

京大時代に山西さんが優勝した熊谷インカレ(第85回日本学生対校選手権)でのレース風景。イメージ

京大時代に山西さんが優勝した熊谷インカレ(第85回日本学生対校選手権)でのレース風景。

勝つために「世界一」という
大きな目標を掲げて進む

 京大の陸上競技部は指導者がいて競技に集中できる環境…というわけでは正直ありませんでした(笑)。でも過去にはベルリン大会の三段跳びで優勝した田島直人さんや、2005年の世界陸上選手権大会に男子20km競歩の代表選手として出場した杉本明洋さんなどの卒業生がいます。不思議とそうした人材が輩出される土壌や風土があるというか。「何かある」というぼんやりとした表現しかできませんが、そんな雰囲気のあるクラブでした。

 京大で改めて競歩選手としての活動を始めるにあたり、念頭に置いたのが「シニアでも世界一を獲る」ということです。私にとって高校でU18世界一を獲れたのは偶然という印象があって、大学では目標をどこに据えるかをしっかり考えなければと思ったんです。これからは高校時代以上に、陸上一筋の選手や、働きながら競技に取り組む実業団選手とも競うことになる。ということは、単に「大学日本一」や「日本代表」を目指すようではダメですよね。大学日本一や日本代表は「世界一」になるための第一条件であり第一歩なわけですから。それならば、たとえ遠い目標であっても「世界一」を目指さなければと考えたんです。

中部実業団陸上競技連盟提供

ドーハ世界選手権男子20km競歩にて優勝。山西さんの掲げた「世界一」という目標は現実になった。

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