京都大学の新輝点

高橋 智隆

01 好きなものを追い求めて挑んだロボットクリエイターへの道(株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長 高橋 智隆)01 好きなものを追い求めて挑んだロボットクリエイターへの道(株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長 高橋 智隆)

 スマホとロボットが融合した「ロボホン」や、世界で初めて宇宙に滞在したロボット宇宙飛行士「キロボ」、大ヒットとなった組み立て式コミュニケーションロボット「ロビ」、乾電池のコマーシャルで数々のギネス記録を獲得した「エボルタ」。先進性とかわいさを兼ね備えた独自のロボットを生み出してきた、ロボットクリエイターの高橋智隆さん。私立大文系学部を卒業後、再受験して京都大学工学部に入学。独学でつくりはじめた自作ロボットを足がかりに、起業し、学内入居ベンチャー第1号となった高橋さんに、活動の原点をたっぷり語っていただきました。

高橋 智隆 Tomotaka Takahashi

1975年京都府生まれ。滋賀県大津市出身。ロボットクリエイター。2003年、京都大学工学部物理工学科卒業と同時に(株)ロボ・ガレージを起業し、京都大学の学内入居ベンチャー第1号となる。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「Coolest Inventions 2004」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。開発したロボットによる4つのギネス世界記録を保持。東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、(株)MarineX取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問等も務める。

ベンチャーたちの共同オフィス

 学生時代はキャンパスの裏に駐車場を借りて、無駄に大きいアメ車で通っていました。そこから大学の石垣を越え、植え込みをかき分けると、最短ルートで校舎に辿り着けるので、いつもこの「裏口通学」していました。そのちょうど通り道に、ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(VBL)の建物があり、そこに特許相談室があり、その後私が会社を置くインキュベーション(学内入居)オフィスが出来ました。

 建物の階段を上がってすぐの場所にあったインキュベーションオフィスは、窓に囲まれて眺めの良い場所でした。でも、ただ仕切りで囲っただけの壁のないスペースだった為、冬はめちゃくちゃ寒かったですね(笑)。最初は私1人で使っていたのですが、そのうちだんだん会社の数も増え、シェアオフィスみたいになっていきました。私が起業した2003年は、ちょうど国立大学の独立行政法人化の法律が施行された年で、学内ベンチャーの気運が高まり、起業をめざす学生も出始めていました。

 ちなみに、この「ロボ・ガレージ」の社名は、スティーブ・ジョブスなどの多くの起業家がガレージで創業したことにならって、自分の会社も工房でコツコツ何かを生み出すようなベンチャー精神を持ち続けたいという思いから名付けました。

コミュニケーションロボット開発の苦労

 よく、「かわいいロボットのデザイン」について質問を受けますが、そこには誤解があります。人型ロボットの開発時にこだわっているのが、「人間らしさ」です。単なる外形的な要素にとどまらず、その動き、あるいは会話の内容なども含め、可能な限り不自然にならないよう細部にまで気を配っています。さもないと、「不気味」に見えるからです。そうやって完成度を高めていくと、結果的に愛着を感じる「かわいいロボット」になるのです。逆にひとつでも不自然な外観や仕草が気になると、途端にその愛着は消え失せ、怪物にすら見えてしまう。だから外観だけでなく、内部の構造や機能、さらにはそれを実現するための加工技術、ビジネスモデル、商流まで、すべてに考えを巡らせなければならない。特に、人型のコミュニケーションロボットは、部品を入れるスペースがあまりに小さく、制約が厳しい。デザイン的な理想と構造上の制約はいつも必ず衝突するし、部品の加工、デバイスの調達やコストなど、考えなくてはならない要素が山積みです。しかも、それらがすべて複雑に絡み合っていて一つ一つに分けられない。デザインだけ、設計だけなんていう分業は不可能なのです。全体をコントロールしながら最良のバランスを見出す、それがロボットクリエイターの仕事だと思っています。だから小さな部品を削り出す作業も、大手IT企業の社長と商談をするのも、ロボットをつくり上げるのには不可欠なのです。

組み立て式コミュニケーションロボット「ロビ」(中央)と、ロボット電話「ロボホン」(左・右)

組み立て式コミュニケーションロボット「ロビ」(中央)と、ロボット電話「ロボホン」(左・右)。「人間らしさ」にこだわったからこそ、万人に愛される「かわいいロボット」になる。

孤独が独創性を生む
道を拓いた先駆者の言葉に勇気づけられた

 ロボ・ガレージには社員がいません。商談や取材などは大学の共同オフィスを使い、実際にロボットをつくる作業は、実家の工房で夜中に1人で行う。もともと、そうやって1人でやっていくことに、当初不安や疑問がなかったわけではありません。周りはみんな、大学院に行くか、就職しているわけですし、当時はロボットベンチャーなんてものも皆無でした。

 そんな私を勇気づけてくれたのが、青色発光ダイオードの発明者で、後にノーベル物理学賞を受賞された中村修二先生の存在です。ちょうど私が起業準備をしている頃、京都大学の学園祭で講演会が開催されました。誰よりも早く会場に並んで、最前列正面かぶりつきで話を聴きました。1人で取り組むからこそ独創的なアイデアが生まれ、実験装置を自作することで試行錯誤を高速に繰り返せる、という話に「1人」への確信を持つことができました。

高橋 智隆

ロボットづくりは、常に1人で行う。最初から最後まですべて1人で取り組むからこそ、細部にまでこだわった独創的なロボットが生み出される。

スマホがロボットになる
ヒトとロボットの未来を創りたい

 “1人1台ロボットを持ち歩く未来”を目指しています。スマホの次の情報端末は、ロボット電話「ロボホン」のような小型のコミュニケーションロボットだと思っています。例えば、ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじや、魔女の宅急便のジジ、ピノキオのコオロギ君みたいなイメージの、主人公を助ける小さくて物知りなパートナーです。10年ほど前、携帯電話にインターネット接続が付加されてスマホが生まれ、皆しばらく併用していましたが、やがてスマホが性能向上すると携帯電話を解約しました。次はスマホに「人格」を加えてロボット電話が生まれ、スマホと併用し始めるのだと思います。そして「20年後にスマホは無くなる」という予想もあります。人の感性や感情に訴えかける情報端末を、今のスマホの技術やビジネスモデルを活用しながらサプライチェーンを使って実現させる、それが今取り組んでいる開発プロジェクトです。単なる道具を超えて、愛着や信頼、共体験を実現するロボットは、人と機械、人と情報の関係を大きく変えていくことでしょう。

 大学への提言ということですが、京都大学の未来は、正直、何も心配ないと思っています(笑)。いろいろな大学のあり方はあると思いますが、これだけユニークな個性と地位を築いてきた大学は他にありません。この京都大学らしさは、時代が変わっても不変でしょう。だから125周年も、京都大学にとっては、ただの通過点に過ぎないように思います。ユニークでイノベーティブな京都大学ならではのインパクトを更に発揮し、社会をもっと面白く変えていって欲しいと願っています。

高橋 智隆

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