小林俊行 数理解析研究所教授が第24回大阪科学賞を受賞

小林俊行 数理解析研究所教授が第24回大阪科学賞を受賞

小林 俊行数理解析研究所教授が、大阪府・大阪市・財団法人大阪科学技術センターの主催する大阪科学賞を受賞しました。本賞は、創造的科学技術の振興を図り、21世紀の新たな発展と明日の人類社会に貢献することを目的として、昭和58年度に創設されたもので、今年が24回目となります。

小林教授は、昭和62年に東京大学大学院理学系研究科修士課程数学専攻を修了後、同大学助手、助教授を経て、平成13年に京都大学数理解析研究所助教授、平成15年に同教授に就任しました。この期間中、プリンストン高等研究所、バークレイMSRI研究所、シンガポール国際数学研究所、スウェーデン王立科学アカデミーの招聘研究員、パリ第6大学(フランス共和国)、ハーバード大学 (アメリカ合衆国)、リヨン大学(フランス共和国)、オーデンセ大学(デンマーク王国)、ポアンカレ大学(フランス共和国)、パリ第7大学(フランス共和国)、パダボーン大学(ドイツ連邦共和国)、ポアティエ大学(フランス共和国)の招聘客員教授を歴任しています。また学外においては、Journal of Mathematical Society of Japan の編集委員長、日本数学会理事、日本学術会議連携会員などを歴任しています。

今回の大阪科学賞では「リーマン幾何の枠組を超えた不連続群論の創始とリー群の無限次元表現における離散的分岐則の発見」という二つの業績が受賞理由となりました。

一つめの業績は、1980年代後半、世界に先駆けてリーマン多様体の枠組を超えた不連続群の研究に取り組み、局所的に均質な高次元空間の大域的な形に関する不思議な現象を掘り起こしつつ、単独でその基礎理論を構築し、幾何学とリー群論にまたがる新しい研究領域を興した、というものです。

20世紀のリーマン幾何学は「局所から大域へ」という大きな潮流の中にありましたが、他方、リーマン幾何の枠組を超えてしまうと、局所均質性を課した場合でも、大域的な性質の研究は困難を極めていました。小林教授は、カラビ・マルクス現象の理論的解明に成功し、これを契機として、リーマン幾何の枠組を超えた空間、特に不定値計量をもつ空間における離散群の作用が不連続になるか否かを判定する手法を開発しました。さらにその判定法を用いて、基本群の有限性、閉じた空間や有限体積の空間の存在問題、剛性および連続変形の理論、不連続性の双対定理など、局所均質空間の大域理論に根源的な成果を挙げました。

局所均質空間の大域理論は、小林教授の先駆的研究を契機として、1990年代半ばより、表現論・エルゴード理論・調和写像・微分幾何など多彩な異分野も巻き込んで世界各地で進展しており、小林教授はその中心的リーダーとして大きな影響を与え続けています。

二つめの業績は、無限次元表現論において対称性の破れを記述する「分岐則」の発見に関するものです。

以前は、表現の無限次元性から生じる種々の解析的困難のため、分岐則の統一的理解はそもそも絶望的だと考えられていました。しかし小林教授は、まず、不連続群の理論を連続化し、そこから無限次元表現を幾何的に構成するという大胆な発想で、連続スペクトラムが現れない分岐則の例を発見し、つづいて、その謎を超局所解析と代数的表現論の手法を組み合わせることによって解明して、本質的なブレークスルーを引き起こしました。

小林教授の離散的分岐則の理論によって、世界各地で新しい研究が生まれ、さらに、モジュラー多様体の位相・非可換調和解析などの異分野への応用も芽生えつつあります。

11月1日に大阪科学技術センターでおこなわれた受賞記念講演では、上記の業績の解説に加えて、最近の研究テーマとして「無重複表現の統一理論」に取り組んでいることが紹介されました。