世界最小の「ナノ炭素リング」の化学合成に成功

世界最小の「ナノ炭素リング」の化学合成に成功

  2014年1月29日

 山子茂 化学研究所教授らの研究チームは、五個の「ベンゼン環」をリング状につなげた構造を持つ、世界最小の「炭素リング」の化学合成に世界で初めて成功しました。

 本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に公開されました。

研究者からのコメント

山子教授

 本研究で合成に成功した炭素ナノリング分子([5]CPP)は、フラーレンC60の部分構造であり、興味深い電子物性(狭いバンドギャップ)を示します。また、本研究で開発した合成法は、大スケールでの合成に向いているとともに、[5]CPPはさまざまな反応性を持つことが考えられます。今後、炭素ナノリングを原料とした「誘導化」の研究により、炭素ナノリングの電子物性などを精密に制御することで、電荷移動材料をはじめとする、有機EL、有機半導体、有機太陽電池などの有機エレクトロニクス材料の開発研究への展開が期待できます。

概要

 シクロパラフェニレン (CPP)は、ベンゼン環をリング状につなげた分子です。このCPPはフラーレンやアームチェア型のカーボンナノチューブの最小構成単位であることから、次世代の有機機能性材料としての応用に興味が持たれています。この数年の間に、本研究グループをはじめとしたグループによりCPPの化学合成が報告されています。しかし、五個のベンゼン環からなり、フラーレンC60と同じ直径(約0.7ナノメートル)を持つ[5]CPP([ ]の中に示された数字は、 CPP に含まれるベンゼン環のユニット数を表しています)は、理論的に興味深い性質を示す可能性が予想されていましたが、その合成は困難であり、未だ達成されていませんでした。

 本研究グループは今回、新しい合成方法を開発することで、[5]CPPの合成に成功しました。[5]CPPは有機溶媒によく溶け、空気中でも安定であり、有機材料として非常に取り扱い易い性質を持つことが分かりました。さらに、有機エレクトロニクス材料として重要な特性であるバンドギャップを評価したところ、 C60に匹敵する狭いバンドギャップを有していることが明らかになりました。有機薄膜太陽電池の有機電子受容体としてフラーレン誘導体が通常用いられていますが、その構造と電子状態の多様性は制限されています。一方、CPPは原理的にフラーレン類に比べてさまざまな誘導体の合成が行えることから、物性の制御などにおいても、フラーレン誘導体に比べて有利であると考えられます。

 


世界最小のナノ炭素リングの合成

詳しい研究内容について

世界最小の「ナノ炭素リング」の化学合成に成功

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/ja413214q

Eiichi Kayahara, Vijay Kumar Patel, Shigeru Yamago
"Synthesis and Characterization of [5]Cycloparaphenylene"
Journal of the American Chemical Society
Publication Date (Web): January 27, 2014

掲載情報

  • 京都新聞(2月22日 10面)および日刊工業新聞(1月31日 27面)に掲載されました。