セクション

場所を描いた文章から地図をイメージできるか? -歩く順序で書いた文章がわかりやすい-

2013年12月18日

 楠見孝 教育学研究科教授、杉本匡史 同博士課程学生は、文章から地図をイメージする際に、文の順序が位置関係の分かりやすさに与える影響を検討しました。その結果、特に移動者の視点で書かれた文章では、実際に歩くときと同じ順序で文章が書かれていることが位置関係の理解に必要であることを明らかにしました。

 本研究は、認知科学の国際誌「Cognitive Processing」に掲載されました。

要旨

 空間情報自体は視覚的なものですが、日常生活の中の多くの場面で道案内のように言葉による空間情報の表現が行われています。空間情報を言葉で表現する際に、俯瞰的視点(図書館は教育学部の南にある)と移動者視点(教育学部から出て左に進むと図書館が見える)という2通りの方法が可能です。これまでの研究でこの二つの視点のどちらを用いるかで、空間情報が異なるプロセスで記憶されることは知られていましたが、例えば「公園から郵便局」や「郵便局から駅」といった個々の情報がどのように統合されて頭の中の地図が作られるかということについては十分検討されていませんでした。

 本研究ではこれらの表現のどちらかを使って複数の建物間の位置関係を覚える際に、特に移動者視点では実際に移動するときのような順で文を読むことが重要であることを示しました。これは同じ人が同じ位置関係について理解するときでも、表現が異なるだけで理解の仕方も異なってくることを意味しています。

研究の内容

 本研究では大学生48名に図1のような場所についての3文からなる文章を自分のペースで読んでもらい、直後にその場所についての地図を描いてもらいました。


図1:参加者が覚えた位置関係

 文章を読んでもらう際に三つの文の順序を操作して以下の条件を設定しました。(1)高連続性条件。建物が実際の経路と同じ順で記述される。(2)中連続性条件。建物は実際の経路に現れる順と異なる順序で記述される。ただしそれぞれの文は意味的なつながりがあり、1文ごとに位置関係を把握することができる。(3)低連続性条件。建物は実際の経路に現れる順と異なる順序で記述される。それに加えて文の意味的つながりが途切れており、三つの文全てを読まないと位置関係を把握できない。

 その結果、連続性が減少するにつれて文章から位置関係を素早く把握するのが難しくなりました。それに加えて、この分かりにくさの増加は移動者視点で大きくなることが分かりました(図2)。


図2:連続性が低下すると移動者視点での位置関係が大きく難しくなる

 しかし文章に登場した建物名を、位置関係を無視して思い出すだけでは連続性による成績の低下は見られませんでした。これは文章が読みにくくなったのは文全体の分かりやすさが下がってしまったためではないことを示しています。(図3)。


図3:文の読みやすさは連続性によって低下しない。

 これらの結果は頭の中に地図を作る際に、俯瞰視点と移動者視点のどちらを使うかということで地図の作り方が異なることを意味しています。より具体的には、俯瞰視点の場合と比較して移動者視点による情報から位置関係を把握する際には、前後の情報とのつながりが非常に重要であるといえます。これは私たちが実際に移動するときのように、空間全体を一気に把握するのではなく、1歩1歩空間の記憶が作られていることを意味しています(図4)。


図4:移動者視点の時、頭の中の地図は1歩1歩作られる。

 本研究の成果は、音声情報や文字情報によるわかりやすい道案内のような、円滑な空間情報コミュニケーションに生かしていきたいと考えています。

本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費の支援を受けました。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1007/s10339-013-0582-0

Masashi Sugimoto, Takashi Kusumi
"The effect of text continuity on spatial representation: route versus survey perspective"
Cognitive Processing Published online 13 October 2013

 

  • 日刊工業新聞(12月19日 19面)に掲載されました。