ミカンハダニは何故逃げずにイモムシに食われるのか? -ひとつ覚えの防災策が招く悲劇-

ミカンハダニは何故逃げずにイモムシに食われるのか? -ひとつ覚えの防災策が招く悲劇-

2013年12月3日


矢野助教

 矢野修一 農学研究科助教、城塚可奈子 同大学院生らの研究グループは、防御網を持たないハダニは防御毛を背負って伏せることで身を守ることを発見しました。

 本研究成果は、2013年11月28日付(日本時間)の欧州科学誌「Springer Plus」誌に掲載されました。

背景と概要

 サバンナで草食獣と肉食獣が命がけの攻防を繰り広げるように、葉っぱの上では葉を食べる害虫と、それを餌にする天敵との攻防がみられます。ミカンの葉を吸汁するミカンハダニは、ほとんどいつも葉面に伏せていますが(図1左)、葉が劣化した時や産卵する時には体を持ち上げて歩きます(図1右)。一方で、同じくミカンの葉を食べるアゲハチョウのイモムシ(体長数十ミリ)は、体長が0.5ミリ以下のハダニを気にかけず葉ごと食べてしまいます。ところが、ハダニは命を奪うイモムシの襲撃から逃げずに食べられます。それが滅多に起きない災害だとしても、野生動物が山火事から逃げるように、ハダニがイモムシの襲撃から逃げないのは何故でしょうか。葉面に伏せるハダニの背には、葉面以外のあらゆる方向に長い毛が突き出し、毛のない胴体下部は葉面に密着して隙がありません(図1左)。


図1:隙がない匍匐時(左)と脇が甘い歩行時(右)のミカンハダニ

 ハダニの主要な天敵はイモムシではなく、ハダニとほぼ同じ大きさのカブリダニです。葉面に伏せたハダニにカブリダニがどの方向から近づいても、ハダニの胴体に触れるよりも先に毛に触れます。ハダニは相手が生物であれ人工物であれ、毛に触られると伏せた姿勢を崩しません。ハダニの毛が邪魔になって大半のカブリダニは退散しますが、力ずくでハダニの胴体に近づくカブリダニは、自分がしならせたハダニの毛によって弾き飛ばされます(図2左)。


図2:葉面に伏せるひとつ覚えの防御法は、主要天敵のカブリダニに有効である反面(左)、巨大なイモムシに食われる悲劇を産む(右)。

 ハダニの伏せる姿勢と毛の防御力を確かめるため、伏せることが出来ないハダニと毛の無いハダニ(図3)を作り出してカブリダニに襲わせると、正常時よりも死亡率が劇的に高まりました。したがって、「毛に触られると伏せた姿勢を崩さない」ことがカブリダニに対する防御になることがわかりました。


図3:脱毛処理の前(上段)と後(下段)のミカンハダニ

 その一方で、この防御方法は巨大なイモムシには通用しないので、イモムシに触られても逃げないハダニは食べられる羽目になります(図2右)。このハダニのひとつ覚えの防災策が招く悲劇は、イモムシに葉ごと食われるという、ハダニの生涯に一度あるかどうかの巨大災害への備えよりも、カブリダニによる日常的な脅威への備えが優先された結果だと思われます。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1186/2193-1801-2-637

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/179545

Shuichi Yano and Kanako Shirotsuka
"Lying down with protective setae as an alternative antipredator defence in a non-webbing spider mite"
SpringerPlus, 2:637 Published: 27 November 2013

 

  • 京都新聞(1月23日 8面)に掲載されました。