モノの背後を見る脳の仕組みを解明 -視対象の部分像から全体像を復元する第1次視覚野の活動をfMRIで観察-

モノの背後を見る脳の仕組みを解明 -視対象の部分像から全体像を復元する第1次視覚野の活動をfMRIで観察-

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用語解説

第1次視覚野、第2次視覚野

ヒト大脳皮質後頭葉に位置する初期の視覚野。網膜からの光信号はまず第1次視覚野へ投射され、傾きや線分など、単純な視覚特徴が抽出されると考えられています。第1次視覚野で抽出された情報は第2次視覚野へと送られ、さらに高次の視覚野へと順番に処理が進み、物体認知が行われます。また、より高次の視覚野からのフィードバック回路も確認されているため、単純に初期の視覚野が低次の領野という訳ではありません。

アモーダル(Amodal)補完

物体の遮蔽された部分を補う視覚の補完機能。補完自体は非常に明確な現象ですが、被遮蔽部に対する明確な知覚(例えば、色がついたり、明るく見えたりする)を伴わずに生じることから、非モダリティな補完、アモーダル補完と呼ばれます。これに対して、主観的輪郭の補完(カニッツァ三角形)に代表されるような明確な知覚の変化を伴う補完は、モーダル補完と呼ばれています。

LOC(高次物体処理領野)

人間の大脳皮質腹側(下側)および外側に位置する高次の視覚野で、主に物体の同定(見ている物体が何であるか)に関わる領野です。特に第4次視覚野の前方に位置するLOC(Lateral Occipital Complex)は、人間の物体知覚や顔認知などに中心的な役割を担う領野であると考えられています。この領野の応答特性から、LOCに至るまでの脳内のどこかの視覚野で、すでに遮蔽問題は解決されていると考えられていました。本研究は、遮蔽問題が初期の視覚野V1で解決されていることを明らかにしました。

位相符号化法

視覚研究で多く用いられているfMRIデータ解析手法の一つ。この手法では、まず視野内で視対象を周期的に運動(回転、拡大など)させ、その運動を観察中の被験者の脳活動をfMRI法で計測します。次に、得られたfMRI時系列データにフーリエ解析を適用し、刺激の運動周期との対応を調べることで、ある脳部位がレチノトピー表象を有するか、もし有するなら視野のどの位置を表現しているかを明確に同定することができます。通常、この解析技術は、複数の視覚野の位置と境界を同定するために用いられますが、本研究ではこの手法を応用することで、遮蔽された物体の補完に関わる脳活動を空間的・時間的に正確に取得することに成功しました。

レチノトピー(網膜部位再現性)

低次視覚野における視野の表象の様子。視野のある1点と、視覚皮質表面上のある1点は1対1の対応関係を持ち、脳内で視野がスクリーンのように表象されています。この表象をレチノトピー(網膜部位再現性)と呼びます。レチノトピー表象は、低次の視覚野V1、V2で顕著で、高次の視覚野へ至るにつれて個々の神経細胞の受容野サイズの増大とともに不明確になります。しかしながら、最近の研究ではかなり高次の視覚領野までレチノトピー表象が保持されていることが明らかになりつつあり、網膜部位再現性は、脳内視覚情報処理の重要な基本単位であると考えられています。