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がんと概日リズムの新たな関連の解明に成功

2013年9月20日


三木特定助教

 三木貴雄 医学研究科特定助教らは、がん抑制遺伝子と、一日約24時間の生体に備わっているリズムである概日リズム(サーカディアンリズム)を制御する遺伝子との新しい関連の解明に成功しました。

 本研究成果が、英国科学誌「Nature Communications」誌に掲載されることになりました。

背景

 近年のライフスタイルの多様化により規則正しい生活を送れない人々が増加してきています。

 大規模疫学研究によると、不規則な生活とならざるを得ないシフト勤務者では、がんの罹患率が有意に上昇していることが報告されています(図1)。これにともない、シフト勤務は、国際がん研究機関(IARC)で、ヒトに対する発ガン性があると考えられるグループ(グループ2A)に分類されました。これは、子宮頸がんを引き起こすとされるヒトパピローマウイルス(31、33型)と同じ分類に入ります。このことから概日リズムの破綻とがんの発生には重要な関連があることが示唆されます。

 概日リズムは腫瘍細胞を含む全身の個々の細胞に存在します。ところが、悪性のがんでは、概日リズムが崩れている細胞が多く観察されるのです(図1)。しかし、なぜそういったことが起こるのか、その分子メカニズムは未だ不明でした。そこで、本研究グループは、ほぼ半数のがんで機能欠損が見られるがん抑制遺伝子であるp53を人為的に操作したマウスで、概日リズムを計測するという手法を用いてアプローチを行い、分子メカニズムの解明を試みました。


図1:概日リズムの破綻とがん化の関連

研究手法・成果

 同研究グループは、p53の発現をさまざまな方法(放射線や薬剤、プラスミドの導入)で誘導した場合に、生体リズムの形成に必須の遺伝子であるPeriod2(Per2)の転写を抑制することを発見しました。その分子メカニズムは、Per2の正の転写因子であるBMAL1/CLOCKのPer2プロモーター領域への結合を競合的に阻害することにより抑制するものでした。また、p53欠損マウスの解析から、p53は生体でも同様にPer2の発現を負に制御していることを解明しました。次に、p53欠損マウスの概日リズムを計測すると、野生型とくらべ、一日の時間が有意に短いことが分かりました。これらの結果は、がん抑制遺伝子であるp53は概日リズムの重要な制御因子でもあることを示唆しています(図2)。


図2:p53はPer2の転写を抑制し、概日リズムを抑制する

波及効果

 がん抑制遺伝子であるp53を機能欠失した細胞は、がん化が進行すると同時に概日リズムを崩してしまうことから、p53機能欠損によるがん化に、どれほど生体リズムの制御が関係しているかが今後の課題であり、新しい治療標的につながる可能性があると考えています。また、がんの化学療法や、放射線治療により、生体の防御機構としてp53タンパク質がしばしば活性化されます。つまり、これらの治療を行った患者で起こる睡眠障害等を誘導するメカニズムの一因が、p53による概日リズムの変化により説明できる可能性を示しました(図3)。


図3:がんと概日リズムの新しい関連を示す

本研究は、Lee Cheng Chi テキサス大学(アメリカ)教授との共同研究です。また、本研究を進めるにあたり、安田記念医学財団若手癌研究助成を受けました。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms3444

Miki Takao, Matsumoto Tomoko, Zhao Zhaoyang, Lee Cheng Chi.
p53 regulates Period2 expression and the circadian clock.
Nature Communications 4, Article number: 2444, Published 20 September 2013.

 

  • 京都新聞(9月21日 25面)および日刊工業新聞(9月24日 15面)に掲載されました。