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ほ乳類の性決定遺伝子Sryの発現制御メカニズムの解明に成功 -人間の性分化疾患の原因解明に期待-

2013年9月6日


立花准教授

 立花誠 ウイルス研究所准教授、黒木俊介 同教務補佐員らは、眞貝洋一 理化学研究所主任研究員、金井克晃 東京大学准教授、野崎正美 大阪大学准教授、Peter Koopman オーストラリアクイーンズランド大学教授、小倉淳郎 理化学研究所バイオリソースセンター室長、阿部訓也 同室長らとの共同研究で、マウスの性が決定する仕組みに関する新たな知見を発見しました。

 本成果が、2013年9月6日付の米国科学誌「サイエンス」誌に掲載されます。

概要

 雌雄の性へ分化することは、動物にとって子孫を次世代へつなぐためにとても重要な細胞の分化過程です。われわれ人間を含めた多くのほ乳類では、性染色体の型がXYだと雄になり、XXだと雌になります。染色体上の遺伝子であるSRYが胎児期に一過性に発現すると雄になります(図1)。しかしどのような仕組みでSRY(ヒト)やSry(マウス)が発現するのか、これまで大きな謎でした。DNAはヒストンというタンパク質に巻きついて細胞の核内に存在します。ヒストンはさまざまな酵素によって化学修飾されますが、それらの修飾はさまざまな生命機能に重要な役割を果たしています。今回、本研究チームは、ヒストンのメチル化修飾の除去化がSryの発現における中心的な役割を果たしていることを明らかにしました。


図1:ほ乳類の性決定の模式図

性染色体がXYの場合、Y染色体上の性決遺伝子であるSRY遺伝子が胎児期に発現します。SRY遺伝子の発現が引き金となり、胎児は雄へと分化していきます。一方、XX胎児ではSRY遺伝子が発現しないため、雌へと分化します。

背景

 多くのほ乳類は、性染色体の組み合わせによって性が決まり、XYだと雄、XXだと雌になります。Y染色体上には性決定遺伝子であるSryが存在します。Sryは、まだ雌雄に分化していない胎児期の生殖腺で発現します。この発現が個体を雄へ誘導することが分かっています。しかし、どのようにしてSryが胎児期の生殖腺で決まった時期に発現するのか、その仕組みはほとんど分かっていませんでした。

研究手法・成果

 ヒストンの脱メチル化酵素であるJmjd1aを遺伝学的に破壊した(Jmjd1a-KO)マウスでは性染色体がXYであるにもかかわらず、雄から雌への性転換が起きました。Jmjd1a-KOマウス胎児を詳細に調べた結果、性決定遺伝子、Sryの発現が低下していることが分かりました。Jmjd1aはSry遺伝子が巻きついたヒストンから、発現に抑制的に働くヒストン修飾であるヒストンH3の9番目のリジンのメチル化を外すことによって、Sry遺伝子を活性化することを明らかにしました(図2)。


図2:ヒストン脱メチル化酵素、Jmjd1aによるマウスの性分化制御のメカニズム

Jmjd1aによって、Sry遺伝子が巻きついたヒストンのメチル化修飾が外されると、Sry遺伝子の発現率が上昇します。Jmjd1aが欠損したマウスではSry遺伝子の発現が十分でなくなるため、雌化します。H3K9はヒストンH3の9番目のリジンを意味します。H3K9がメチル化されると、そこに巻きついた遺伝子の発現が抑えられます。

波及効果

 ヒストンの化学修飾が、性決定遺伝子であるSryの発現を直接制御していることを世界で初めて示しました。この研究結果から、正しく性決定遺伝子が活性化されなかった場合には、たとえ性染色体がXYであっても、雌になるケースがあるといえます。人間において性分化が正しく進行しなかった疾患を性分化疾患と呼びます。性分化疾患のうちで、その原因が分かっていない症例はおよそ半分を占めます。本研究は、胎児期にヒストン修飾が正しく行われなかったことが、性分化疾患の新たな原因の一つである可能性を示すものです。

今後の予定

 Sry遺伝子のみならず、その他のほ乳類の性分化過程に関わる遺伝子について、その発現制御機構とヒストン修飾との関連を調べていきたいと考えます。

用語解説

Sry(Sex-determining region Y)

多くのほ乳類が雄になるために必要な遺伝子で、Y染色体上に存在する。

ヒストン

塩基性のタンパク質でDNAを巻きつけた状態で核内に存在する。その末端配列はさまざまな化学修飾をうける。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1126/science.1239864

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/178700

Epigenetic Regulation of Mouse Sex Determination by the Histone Demethylase Jmjd1a
Shunsuke Kuroki, Shogo Matoba, Mika Akiyoshi, Yasuko Matsumura, Hitoshi Miyachi, Nathan Mise, Kuniya Abe, Atsuo Ogura, Dagmar Wilhelm, Peter Koopman, Masami Nozaki, Yoshiakira Kanai, Yoichi Shinkai, Makoto Tachibana
Science Vol. 341 no. 6150 pp. 1106-1109
6 September 2013

 

  • 京都新聞(9月6日 30面)、産経新聞(9月6日 29面)、中日新聞(9月6日 30面)、日本経済新聞(9月6日 42面)および読売新聞(9月6日 32面)に掲載されました。