フリーズドライ(凍結乾燥)精子で希少野生動物保護 -京都発・希少野生動物配偶子バンク-

フリーズドライ(凍結乾燥)精子で希少野生動物保護 -京都発・希少野生動物配偶子バンク-

2013年8月27日


左から金子特定講師、村山教授、坂本課長、伊藤係員

 金子武人 医学研究科附属動物実験施設特定講師らの研究グループは、2012年4月に、液体窒素を使用せずに冷蔵庫で長期保存可能なフリーズドライ精子保存法を開発し、冷蔵庫または常温で保存したフリーズドライ精子から産子の作出に成功しました。今回、金子特定講師、村山美穂 野生動物研究センター教授、坂本英房 京都市動物園種の保存展示課長および伊藤英之 同課係員は、この技術を用いて希少野生動物の精子を保存し、種の保存に応用します。既に、チンパンジー等、一部の動物種において、フリーズドライ後の精子に受精する能力があることを確認しています。

 本研究成果は、2013年8月30日から9月1日の間、百周年時計台記念館で開催される第19回日本野生動物医学会大会で報告する予定です。

本研究のポイント

  • 発表者は、冷蔵庫(4度)での長期保存が可能なフリーズドライ精子長期保存法を開発しました。
    (参考リンク: /ja/news_data/h/h1/news6/2012/120410_1.htm
  • この技術を用いて、希少野生動物の精子を保存し、種の保存に応用します。
  • チンパンジー、キリン等、一部の動物種において、フリーズドライ後の精子に受精する能力があることを確認しました。
  • フリーズドライ精子の保存には、液体窒素を必要としないため、精子採取動物の飼育施設ごとに簡易な保存・管理が可能であり、精子サンプルの移動に必要な手続きが不要になります。
  • 冷蔵庫での長期保存、常温での輸送ができることから、簡易・安全・低コストの遺伝資源管理が可能だけでなく、災害や事故から貴重な遺伝資源を守ることができます。
  • 動物種を問わず共通の保存液(トリス-EDTA保存液)で保存が可能であるため、精子採取が困難で保存に関する情報が不足している動物種にも対応可能です。

概要

 希少動物の保全において人工繁殖技術の利用は有用な手段です。配偶子(精子・卵子)を採取し保存することは、人工繁殖技術の汎用性を大きく拡大することができます。一般的に配偶子の保存には、液体窒素を用いた凍結保存法が用いられています。配偶子保存は、個々の施設で実施および保管できることが理想ですが、液体窒素の継続的確保、専用保存設備の設置・管理および液体窒素輸送容器の購入など多くの費用と労力を要するため、実施・保管できる施設は限定されます。

 研究グループは、インスタントコーヒーや宇宙食などの食品あるいは医薬品の長期保存に汎用されているフリーズドライ技術を用いることで、液体窒素を必要としない精子の長期保存法を開発しました。フリーズドライ精子保存法は、液体窒素の継続補充や専用保存容器を必要とせず、冷蔵庫や常温での保存が可能であるため、簡易・安全・低コストの精子保存が可能です。また、動物種を問わず共通の保存液(トリス-EDTA保存液)を使用できるため、精子採取が困難で保存に関する情報が不足している動物種にも対応可能です。

 本研究は、フリーズドライ精子保存法を用いて希少野生動物の種の保存および配偶子バンクの設立を目指すものです。精子をフリーズドライすることで、動物園・水族館等で個別の冷蔵庫保存が可能となり、さらにはサンプルを集中管理しないことで災害時の危険分散を図ることができます。2011年3月に発生した東日本大震災では、液体窒素や超低温冷凍庫(マイナス80度)で保存されていた貴重な研究用サンプルが、長期停電や液体窒素の供給が途絶えたために、その全てを失うことになりました。フリーズドライ精子は、常温でも3ヶ月程度の短期間であれば保存が可能であるため、遺伝資源保存に極めて有効です。

 現在、発表者らは京都市動物園の協力を得て射出精子や死亡個体から精子を採取し、フリーズドライ後の受精能力について評価試験を行っています。これまでに野生ネズミ、イヌ、スローロリス、チンパンジー、キリンの精子をフリーズドライし、これら精子に受精能力があることを確認しています。

研究方法と結果

 射出精子あるいは精巣上体尾部から採取した精子をトリス-EDTA保存液に懸濁し、フリーズドライを行い冷蔵庫で保存しました。精子は滅菌した純水のみで復水し、顕微授精により卵子と受精させ、受精能力の評価を行いました。これまでに野生ネズミ、イヌ、チンパンジー、キリンのフリーズドライ精子に受精能力があることを確認しました。現在、他の動物種においても精子採取を行っています。

今後の期待

 これまで哺乳類の配偶子保存は、液体窒素の利用が不可欠でした。しかしながら、ランニングコストやメンテナンスに多額の費用・労力を要します。さらに、災害や事故から起こる液体窒素の生産・供給が途絶えることは致命的です。液体窒素不要の簡易・安全・低コストなフリーズドライ精子保存法は、希少野生動物の保護に貢献できると考えます。また、フリーズドライ精子の容器は密閉されているため、仮に宇宙移住計画が実現したときも、これら希少野生動物もフリーズドライ精子として移送可能です。今後、全国の動物園・水族館での希少野生動物保護にフリーズドライ配偶子保存法が本格的に利用されることを期待しています。

 


図1: フリーズドライ精子

図2: チンパンジー精子

関連リンク

ラット・マウスの生殖学/生殖工学研究のページ
http://www.anim.med.kyoto-u.ac.jp/reproduction/home_jp.aspx

 

  • 朝日新聞(8月28日 34面)、京都新聞(8月28日 1面)、産経新聞(8月28日 28面)、中日新聞(8月28日 25面)、日刊工業新聞(8月28日 21面)、日本経済新聞(8月28日 42面)、毎日新聞(8月28日 29面)および読売新聞(8月28日 36面)に掲載されました。